恋人のなり方1
夏の暑い日。いつもの学校の帰り道。
蝉の声が騒がしくてうるさい。
制服は夏服だけど、それでも暑い。
私は開襟シャツの襟口をパタパタと団扇であおいだ。
伸ばしかけの髪の毛は中途半端な長さだけど、無理やりながらもひとつに縛ったから、少し涼しい。
「でもさー、ふと思ったんだけど」
隣を歩く、幼馴染のみやが、唐突に口を開いた。本当に、今、思いついたような調子で。
彼女はいつも、唐突に話を始める。
「彼氏でも彼女でもいいからさ、恋人が欲しいな、なんて」
「へ?」
思った以上に間の抜けた声が出てしまった。
私はぽかんとして、みやの横顔を見る。
みやの、ショートカットの襟足から伸びた綺麗な首筋に、すっと一筋の汗が見えた。
「え、だから、恋人っていいよなーって。夏だし」
不思議そうな顔をして、みやは言う。
なんでそんな変な反応するの?って感じで。
いや、確かに、私たち2人とも、今年高校生になりましたし、年頃の女の子どうしだもん、恋の話くらいしたって、おかしくはないんだけど…
「…だって今、彼氏でも彼女でもいいからって…」
私は半ば呟くように声を出していた。
鼓動が早くなる。顔が熱い。
これは、夏の暑さのせいだけではないはず。
みやはとってもかっこ良くて可愛いもの。
そんなこと言ったら、すぐ、彼氏でも、彼女でも、できちゃうと思うよ?
でも、みやの隣にいるのが、私以外の誰かなんて、想像もできなくて。したくもないわけでして。
だって、私はずっと、みやと一緒にいて、みやのことが大好きで…。
私は立ち止まってしまっていた。
「…しの?」
みやもそれに気がついて、振り返って不思議そうに私を呼ぶ。
私は、すっと息を吸い込んだ。
ああ、熱くて、むせ返りそう。
「…じゃあさ、私を彼女にしてみない?」
…言っちゃった。
私は、今度は一気に夏の暑さなんか感じなくなって。
怖くてみやの顔が見られなかった。
どんな顔してるかな。
なに言ってんだこいつって、ひいてるかな。
どうしよう。
「あー、しのが彼女かあ…」
考えるようなみやの声がして、私はおそるおそる顔をあげた。
私より頭一つ分背の高い、みやと目が合う。
ああ、心臓が止まりそうだけど、目がそらせない。
みやは、にっと笑った。
小さな頃から変わらない、私にとって誰よりも眩しい笑顔で。
そして、信じられない言葉を吐いた。
「うん、いいかもね。よろしく、しの」
忘れもしない夏の日、私、篠原朝海は、ずっと大好きだった大切な友だち、みや、こと本宮裕の彼女になりました。