古栗鼠Ber 其の一
ここは深夜のとあるBer
今宵も疲れた心を癒しに、一匹の古栗鼠がそのドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんはマスター。今日もいつもの…お願いしますよ」
「かしこまりました」
カウンターに座った古栗鼠はおもむろに尻尾を見つめて深いため息をついた。
「どうかなさったんですか?」
「いえね、ちょっと…ストレスなのか、どうなのか。最近、尻尾の毛が抜けてね…」
カラン、とグラスの氷が乾いた音を立てる。それと同時に彼の尻尾の毛が一房、フワリと床に抜け落ちた。
「やっぱり、今の仕事は向いていないんでしょうねぇ…ハァー…」
そしてまた、彼の尻尾から一房がため息と共に飛び立った。
この仕事はお客様にあまり立ち入った事は、言わない・しない、が暗黙の了解。しかし私は思わず普段なら決して口にしない励ましの言葉を口にした。
「こり男さんの仕事は誰よりも難しいですからね。でも、きっと今の仕事は貴方しか出来ませんよ。それに、こり男さんの会社の皆さんは、それぞれとても個性的ですから」
「そうですよね…」
彼はそう弱々しく微笑むと、グラスの団栗酒のロックを一気に飲み干した。
「さて、明日も仕事です。また、ほえーるさんの下に付ける古栗鼠たちを探さなくては。こりす先生も出張中ですし、頑張ります。ご馳走様でした」
「お気を付けて。ありがとうございました」
普段から小さい背中が、今夜は更に小さく見えた。私はその背中に心の中で頑張れ!と声を掛ける。そして、もう一言そっと付け足した。
こりす先生は出張ではなく、某ハ○イアンセンターに遊びに行っているんですよ、と。
ここは深夜の古栗鼠Ber
貴方も、もしお疲れなら是非お寄り下さい。静かな音楽と寛げる空間、そしてリスの為に作られた団栗酒をお出しします。