監査役 ほえーる物語
つるりとした体をほえーるはぺったんこの煎餅布団に横たえ、物思い耽っていいる模様。どうやら古栗鼠族でないほえーるさんが彼らの会社の役員としてこの名前を連ねるに至った過去をでも思い出しているようです。
ちょっと彼の頭の中を覗いて見ましょう。
そう、あれは3年前の夏…。当時ワタクシは水陸両生型クジラという特性をフルに活用した旅クジラとして海と陸を気ままに住み分ける生活を送っておりました。
ですがある朝、目覚めると体が動かないのです。驚いたワタクシは少々小ぶりですがパッチリとした瞳をフル活動させ、周囲を見渡しました。すると…た、たたたた大変でス!何やら小さい生物が、頭から尻尾まで約158cmはありますワタクシをロープでグルグル巻きにした挙句、集団で運んでいるではありませんか!
しかも彼らは口々に「ごっちそう♪ごっちそう♪今日はくじら肉だ、ごっちそう♪♪」と歌っていたのです。とんでもない!食べられてはかないません。ワタクシは慌てて彼らに声を掛けました。
「もしもし、君たちはワタシを何処に連れて行くんだい?」
「こりす先生が、浜辺に打ち上げられて居た物は勝手に食べていいって言ってたから、打ち上げられていたクジラさんを僕たちが食べるんだ♪」
「それなら、君たちは大変な間違いをしているよ!ワタシは打ち上げられていたのではなく、砂浜で昼寝を楽しんで居たんだよ。だから、食べてはいけないよ!!」
「えーダメなの?」
彼らはとても悲しそうな顔をしましたが、ワタクシも食べられる訳には参りません。しかし、どうしても彼らはクジラ肉を諦め切れなかったらしく、ワタクシは彼らのキャンプ地にまで運ばれてしまいました。
「おぉ!にょっぷる隊(現・古栗鼠商会社員)たちよ!!今夜は凄いご馳走だのぉ♪クジラの肉か!」
声の方へワタクシのつぶらな瞳を向けますと、明らかにワタクシを運んで来た小さなリスたちと雰囲気が異なる老リスが立っていたのです。
「もし、貴方がこの小さな方々のリーダーですか?」
「如何にも!ワシはこの誇り高き古栗鼠一族の長をやっている古栗鼠川こりすじゃ。通称はこりす先生で良いぞ」
「ではこりす先生。ワタクシは浜辺で昼寝をしていた時に、この小さな方々に捕まってしまいました。決して浜辺に落ちていたのではありません」
「な、なんとー!!馬鹿モン!生きていたら何で止めを刺しておかんのじゃー!これでは我が古栗鼠一族のご先祖に申し訳が立たん!!生きているから、開放じゃー!ばかー」
こりす先生は涙ながらに、にょっぷる隊にそう叫びました。後から聞いた話では、何でも生きているものは例え拾っても食べてはいかん!という古栗鼠一族の掟が有るとの事でした。いやぁ、命拾いしましたねぇ。
しかし、縁は奇な物味な物。以来、ワタクシとこりす先生は度々お茶を共にすする仲になりました。そして、現在はこうして役員として名前を並べさせていただいているというわけです。
まったく、懐かしい話ですねぇ。
ふっとほえーるさんは目を細めました。そして、再びもぞもぞと体を動かすと、直ぐに寝息を立て始めました。
いやぁホント、縁とは奇妙なものですなぁ…。
<古栗鼠豆知識>
一般的なリスは草食(主に団栗などの木の実を好んで食べる)ですが、古栗鼠は基本的にカラスのように雑食です。何でも食べ物なら食べます。好き嫌いはありません。
現在、彼らはその大半が街中の人間たちと共生しており、主に人間の食べ物を好むようです。昨夜の残り物など、朝には減っていたり無くなっている事はありませんか?もし、そういう現象があるようであれば、それはもしかすると古栗鼠たちの仕業かも知れません。