古栗鼠Ber 其の二
これを書いた時…それは夏と言う季節でした。
ここは深夜のとあるBer。
今宵も疲れた心を癒しに、一匹の古栗鼠がそのドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんはマスター。今日はいつもよりキツイのを…」
「かしこまりました」
やつれた体をカウンターに預けるようにその古栗鼠は腰を掛けた。
「…ずいぶんとお疲れのようですね」
私はコースターに乗せたグラスを滑らせるように差し出した。今夜の一杯目は団栗酒ロックのストレートだ。
いつもなら水割りなのだが。
「ありがとう。…うん、そうだね、ちょっと疲れてるかな。ハァ…」
ふと、彼の尻尾を見ると、いつの間にか見事に全て抜け落ちてしまっていた。それだけでも彼のストレスの大きさが想像付く。
その上、夏毛に抜け替わっただけでは、こうも体が小さくなるものでは無い程、やつれ切っていた。
「何かあったんですか?」
こんな事は本来なら聞いてはいけないのだが、私はどうしても言わずにはいれなかった。
「あはは…いえね、こんな事、マスターに言ってはいけないのかも知れないけど…。仕事がね。いま団栗酒の原材料調達についての原住りすとの話会いとか、工場の出荷の遅れとか、こり蔵さんの新商品開発の試食とか、こりす先生の新規計画『海の家でガッポリウハウハ♪副産物も手に入れちゃうぞ♪作戦』とか…なんだかとても一杯一杯で…」
深いため息と共に彼は大きくうなだれた。私は思わずその姿に涙が滲んでしまう。
そうだ!ここは一つ、何とか彼を勇気付けれないものだろうか?私は黙ってグラスを拭きながら必死で考えた。
そして私は、おもむろに手に持っていたグラスに氷と団栗酒を入れて決死の覚悟で口を開いた。
「こ…こり男さん、これは私からのサービスでシマウマ!」
「し、しまうま?」
驚いた顔のこり男さん、恥ずかしさで顔から火が出そうな私たちを店内の静かな音楽がそっと包み込んだ。
ここは深夜の古栗鼠Ber。
貴方ももしお疲れなら是非お寄り下さい。静かな音楽と寛げる空間、そしてリスの為に作られた団栗酒をお出しします。
……もちろん、駄洒落は抜きでございます。