03 意外と困った相談を受け付けてしまいました。
涙をぽろぽろと流す米川さんはとてもじゃないが冗談で泣いているようにみえない。
「どうしたの米川さん?」
我に返った桜子が米川さんに駆け寄る。
「う……ご、ごめんなさい取り乱しちゃって……」
「それはいいんだけど……さっきの話、詳しく聞かせてくれないかしら? 私たちでよかったら〈相談〉に乗るから。……妹さんがどうかしたの?」
米川さんの背中をさすりながら桜子は近くにあった椅子に米川さんを座らせ、自分も座った。…………やっぱり桜子は人を落ち着かせるのがうまい。恥ずかしい話だが、一年前の僕もいろいろあって落ち込んでいた時にこうやって桜子が慰めてくれたことがあった。今思い出してみるととてつもなく恥ずかしい思い出の一つだ。
「幸樹、幸樹……」
思い出に浸っていると桜子が、
「幸樹、立ってないで椅子に座って」
「え、あ……。ごめん」
慌てて椅子に僕は腰を下ろした。
米川さんが話し始めた。
「あたし、双子なんです。あたしが姉でもう一人が妹。妹の名前は優妃。優妃はあたしと違って頭も良くて運動神経も抜群で……とにかく、あたしと優妃は月とスッポンみたいな感じだったんです。
そんな関係が中学まで続きました。でも高校に進学すると優妃の様子がだんだんおかしくなっていったんです。高校ではあたしと優妃は別々のとこだったから学校生活までは分からなかったんですけど、あれは本当におかしかったです。しだいには学校を休み始めて……今では家で引きこもっています。学校でいじめられてるのって訊いても『深花には関係ない』って頑なに言うだけだし……あたし、もうどうすればいいか解んなくて。それで、ある時この部活の噂を聞いたんです。『何でも相談に乗ってくれる』って」
「一つ、訊いてもいいですか?」
米川さんの話が一段落つくと、桜子が静かな声で尋ねた。
「なんですか?」
恐る恐るといった感じで米川さんは桜子を見ていう。
「米川さん。貴女の話から予測すると妹さんを家からだして欲しい、ということですよね?」
「はい」
「貴女の家庭の問題を私たちのような赤の他人が首を突っ込んでもいいんですか?」
確かにそうだ。僕らは今日初めてこうやって面と向かって話したのだ。そんな相手に自分の家庭を、しかも引きこもりの妹がいる家庭を普通は話さない。
「いいんですか?」
桜子がまた米川さんに尋ねる。
「いい……です」
「わかった」
桜子はさっきとは打って変わっていつものきれいな透き通るような声で言った。
「よぉし。話もまとまったことだし、米川さんの妹さんに会いに行こう!」
全然まとまってない気がした。
米川さんの案内により僕ら米川家についた。
「へぇ……ここが深花ちゃんの家かぁ」
桜子と米川さんはいつの間にか仲良くなり、しまいには名前で呼び合うようになった。今では完璧ため口だ。
米川さんの家は普通のどこにデマあるような一軒屋であった。
「まあとりあえず中に入って。お茶でも出すよ」
「優妃は二階の部屋にいるわ。たぶんこの時間なら起きてると思うから」
お茶をごちそうされた後、僕らは二階に向かった。さっきまでの明るい様子はどこかに行き、緊張した空気が張り詰める。
「優妃。あたしだよ、深花」
米川さんが優妃とかいた可愛いプレートのかかった扉をノックした。
チャリン…………鈴の音がした。
米川さんが扉をゆっくり開けた。
そこには毛布にくるまった髪の長い少女がいた。そして……米川さんにとても似ていた。
「紹介するよ。これがあたしの妹の優妃」
「こんにちは……。あなたたちは深花のお友達?」
優妃さんの第一声だった。
「そうよ。私たちは深花ちゃんの友達の神田桜子。こっちの男の子が白波幸樹くん」
桜子が優妃さんも目を見て自己紹介をした。
「ふぅん。じゃあ私、眠いから寝るね。あんまり騒がないでね」
優妃さんは完全に毛布にくるまった。
「で、どう妹は。外に出せそう?」
「あの子の目は今の状態だと外には何をしようと出ないでしょうね……」
難しそうな顔で答える桜子。確かに明らかに優妃さんの目には〈やる気〉というものがなかった。
「まあ今日のところはこの辺にしとく。バイバイ」
「うん。バイバイ」
今日の部活はどうやら終わったようだ。