第一章 01 今日の相談
神田桜子の右手には、オレンジ色の水玉が印刷された手紙が握られていた。
「今日の〈相談〉が〈お手紙箱〉の中に入っていたわ」
真剣な顔で言う桜子。ついでに〈お手紙箱〉とは善良なる市民が僕たち〈相談部〉に相談することを紙に書いて入れる箱のことだ。
「よし、じゃあ読むわね」
この透き通るような声は神田桜子。この相談部の部長を務めている。細い体にすらっとした脚。そして、長いサラサラとした黒髪を一つにくくっている。小さい顔に大きな瞳。世間でいう〈美人〉に確実に分類されるやつだ。……まあ桜子の良いところは顔だけなのだが。これは後々解るであろう。
そしてこの僕こそがたった二人の相談部のうちの一人、白波幸樹だ。僕はよく見た目がちょっと女っぽいと言われるが僕はちゃんとした男だ。まあこの細い体とサラサラした髪のせいでこの相談部にいるのだが。この話は暇なときにすることにしよう。
「桜子、今日の相談はどんなやつだ?」
「お、幸樹。今日はいつになくやる気だねぇ」
断じて違う。眠いから早く家に帰りたいだけだ。僕は心の中で呟いた。口に出したら面倒事が増えるだけだ。これは実際の経験である。
「今日の相談は……なくし物を一緒に探してください、詳しくは明日そちらに伺ってはなします。二年C組米川深花」
読み終えると桜子はきれいに手紙を畳んだ。
「どうやら今日は仕事がないみたいだね。僕は帰るよ」
荷物をかばんに突っ込み、ドアノブに手をかけたとき、
「ねぇ、おかしいと思わない? 私の知っている〈普通〉はなくし物って友達と探すじゃない」
「友達と探しても見つからなかったんじゃない」
「でも……」
桜子が言葉を言い切る前に僕は急いで部室を出た。
桜子知り合ってから一年ほど経つが今だに彼女の考えていることが解らない。まあ彼女の意味不明な行動のおかげで一年前の僕は救われたのだが。その面だけは桜子に感謝しなければならない。本当に桜子はこういうことが得意なんだ。
冷たい風が吹く。もう四月の中旬だがまだまだ寒い。今年はなかなか春という季節はやってこない。早くきてほしい。ブレザーのポケットに手を突っ込み急いで暖かい我が家に足を進めた。
玄関の扉を開けるとぽかぽかとした空気が体を包み込んだ。やっぱり家は暖かい。
「お帰り兄貴」
僕の中学二年生の妹がリビングから顔をひょっこりのぞかせた。こんな寒い日だというのに短パンをはいている。妹曰く、オシャレだそうだ。
「幸菜(僕の妹の名前だ)今日帰って来るの早いな。部活は?」
時計を見るとまだ十七時を過ぎたところだ。幸菜はバレー部に所属していていつも帰ってくるのが遅い。
「今日は部活早めに終わったんだ。兄貴も部活終わんの早かったね」
「まあね。あぁ、ねむ……。ご飯できるまで寝てくるよ」
僕は重い足取りで自分の部屋に向かった。
こんにちは、春のオガワです。ぐだぐだなこの物語を諦めずにここまで読んでくださってありがとうございます。次回もよろしくお願いします。