プロローグ
汝らが畏怖し恐れるるもの
その邪悪なるもの
一つに集いて。
-昏亜記から-
獣の集う場所
世界から拒絶されたものの
ただ一つ残された場所
どんなに時が進もうが
どんなに世界が変わろうが
その場所は、そのときも存在する
都会の片隅に葬られた
選ばれたもののみ通れる
小さなゲート
それをすべてのものはいう
グレア、と
目の前にいるのは50人以上の敵
こちらを囲むように並んでいる
そのすべてがこちらを鋭くにらんでいる
それはあらゆる死地を乗り越えた猛者たちの見せる瞳である
そして手に持つ銃と背中からかすかに見える真っ白な翼・・・
時刻は真夜中。真っ白な月がかすかにのぞく暗闇
彼らは暗殺しに来たのだろう。
しかしその手っ取り早い手段は取り払われた
「・・・・かこまれましたね」
「うん、そうだね・・・」
それは、その標的がおきてしまったからだ。
しかもその絶望ともいえる状況に、案外冷静な少女が2人いた
これが今回の標的。
背中合わせをする2人は
見た目に合わない物騒なものを身につけていた
1人は鎧のようなブーツを履いており
もう一人は電子のような巨大な大鎌を片手に持っている
両者にらみ合いの中・・・2人は
「ふむ・・・面倒なことになったね。ボクは動くのは面倒なので
耶沙子がいくんだよ?」
「えぇぇぇぇぇ?!な、なんっ・・・
はいなんでもありませんなので許してくださいおねがいします!」
「ふむ。そのいきだね。
まぁ、仕事最近ないしぃ?鈍らない為のボクからの愛情だね」
「ぬぬ・・・俺はどうしてこんな上司を持ってしまったんだ・・・」
・・・二人はコソコソと、平和な会話を交わしていた
その会話が相手に聞こえてしまい、(最初から聞こえてたが
我慢してた)頭領と思われる男が
「おいおまえら!わたくしたちに殺されそうだってのに
どうしてそうも緊張感がないのでございますか!!」
つい怒鳴りつけてしまった
しかしそれが逆効果。
「む・・・ボクらの会話が聞こえてたみたいだ。ドシヨウ」
「ホントは心配してないんでしょう?はぁ・・・」
彼女たちの会話は人をイラつかせることしかできないのか?!
「むむむむ・・・おのれぇぇぇぇ!!
わたくしたちを侮辱した罪、思い知るがいい!!」
それを合図にすべての「敵」が銃の引き金に力をこめた
ドオォォォォォォォォォン!!
もはや轟音に近い銃の発砲音がいっせいに響いた
そしてその的はただひとつ・・・!!
すべての「敵」が頭を狙った
狙いは完璧。狂いなし。このまま相手が動かなければ!!
「よっ、と」
キィン!
金属と金属のかすれる音がした
それはとてもいやな音でわずかに顔をしかめる
一人の少女が跳躍し全弾を蹴り返したのだ
そしてそれにきをとられる、それが時間ロスだった
視線を戻したときには目の前に少女がいた
遠くだったため顔は見えなかったがとても綺麗な顔だった
「あっ・・・・」
その華奢な手に持つ大鎌が大きく振り上げた後ときずくと
声が自然と漏れた
ザシュ!
とても綺麗とはいえない鈍い音がした
そのあと遅れて
ドサッという重い「なにか」が倒れる音がした
「っ!!」
「敵」はそれをみて思わず息を飲む
―――それはまだ幼い少女だった
―――それは現実味のないほど美しい顔をしていた
―――それは片手に大鎌をもっていた
―――それは返り血で顔も服も真っ赤で染まっていた
それはまるで・・・・
「まるで・・・・死神だ」
そう思ったときにはそいつらに命はなかった
重いなにかで思いっきり殴られ・・・いや蹴られて
脳髄破損、蹴った後に頭から大量の血とどろりとなにかがでた
その少女はその状況にも臆した様子はなく、
ただゴミを見るようににその死体を見下ろしていた
「ひぃ?!こ、こんなの・・・
わた、わ、わたくしたちじゃ、む、無理です!た、たいきゃ」
最後の一言を言う前にそいつは頭を蹴られ死んでいた
前の死体と同様、見るに無残な死に方をしていた
「さぁて・・・ボクらもヒマじゃないんだぁ?
できれば引いてほしいんだけど・・・ダメぇ?」
1人の死神のような少女が微笑んだ
それが美しくも恐ろしく、
いっそのことずっと眺めていたかったが・・・
「う・・・そ、それは、だ、だめだ・・・・
わ、わたくしたちにも、ぷ、ぷらい、どが・・・ある」
もはや呂律もまわらなくなった
もう逃げたかった
死にたくなかった
しかし調教されたこの信仰心は自然と口を動かしていた
泣き叫びたい状況で、目の前に立つ少女は残念そうな顔で
「そう?残念だなぁ・・・耶沙子?聞いた?
ボクらまだ寝れないんだってー?」
「えぇ?!あの夜紅様の恐怖の笑みに反抗したんですか?!
す、すげぇ・・・・俺もほしいなぁ、その精神力」
そんな緊張のない声はどこか楽しそうに聞こえて
もはや死神などではなく、悪魔に見えた
「えっとぉ、キミ、プライドとかほざいてたよねぇ?
それってここにいるみぃんなを指すのかい?」
快活な少女の声が耳に堕ちる
「そ、そうだ。ここ、にいいいいる、のは。
みん、なわたくしと、おな、じだ」
言い終えると少女はにっこり微笑んだ
まるで
「天使」 のように。
「そうかい」
静かな夜
美しく輝く月が真っ白な光を放ち続けている
そんな神秘的な光景に不釣合いなものがそこにはあった
まるで月が「それ」を示すように照らすのは
無数の死体であった
無残な死に方をしている
あるものは首から上がなく
あるものは頭が破損し、まるでミンチのようになっていて
あるものは心臓を貫かれ
あるものは体を切断されていたものも居た
もはや誰も逃げれはしなかった
皆殺しだった。
そんな殺戮の場は
自然とその場に血の海ができる
もう死体からは血が出ていない
一気に出たのか、それとも時間がたったのか・・・
それはわからない
そしてその死体の海の中
二人の少女が居た
一人は見た目16、17くらいで、足に中世の騎士の甲冑の足の部分だけくりぬいたかの様なものをはいている。
同じように両腕にも。
もう一人の少女は12くらいの先ほどの少女より背は低いし顔も幼い
しかしその愛らしいものの手には
その少女の身長を有に超えるほどの鎌があった
「・・・・今日は月がきれいですね」
背の高い少女が呟いた
その声は感情のないもののようだった
「そうだね」
背の低い少女は意外とあっけらかんとした声色で返答した
「ふむ。しかしこんな血まみれじゃぁ家にも入れてくりゃしないね。
とりあえず洗濯しよう、耶沙子」
「ぁ、はい」
そして二人の少女はこの場を離れた
後ろを振り返ることなく
ただどこから舞い落ちたか分からない
真っ白な羽が
ふわり
ふわりと
死体たちの体に降り注がれた
それこそ、
月光に照らされた中
羽が舞い降
というのはとても幻想的な光景だった