パパ
パパァ パパァ
遠い記憶僕はパパが大好きだった。
ビーア ビーア 一歳なのに
発音が素晴らしい。
パパは泡だけだぞと言ってスプーンで
ビールの泡を掬って僕の口に運んだ。
ニーガ ウーマ 頭のいい子供だったかもしれない
パパはハハハと笑って将来は俺と同じ酒飲みだなと言った。
三歳 マーマ マーマ いないいないばぁ
冗談も言える そうママはいないのだ。
五歳 保育園のお昼寝の時間 おねしょをした。
みんな「うわー日本地図だー」と囃し立てた。
僕は泣いてパーパ パーパみんな虐めるよーと喚いた。
保育士のお姉さんが黙って洗濯場にシーツを持って行った。
七歳僕はパパと寝る時はパパの右足を両足でカニばさみしないと眠れなかった。パパは「おい、俺が寝られないよ」と笑って言った
そして僕の頭をポンと叩き「モクモクしてくるよ」と言った。
少しお酒が入っているようだった。
古いマンションの13階 柵に寄りかかってタバコを吸っていたパパは
バランスを崩しそのまま転落した。
奇跡的に命は助かったが植物状態になった。
僕は母方の家に預けられた。 凄く虐められた。
毎日パパの病院に見舞いに行ってパパ パパと呼びかけていた。
そうして時は過ぎ俺が二十歳の成人式の日友達と少し酒を飲みそのまま父さんの病院に行った。
手を握り「父さんもう十三年も話してないな。俺メッチャ寂しいよ」
その時父さんの右手の指がピクッと動いた。俺は慌ててナースコールを押した。
「あ、父さんの右手が今動いたんです!」「え、そんなまさか?」
その瞬間父さんはムクッと起き上がり「あーあ良く寝た。今何時だ?」
俺は 父さん寝過ぎだよ…… と言って抱き付いた。