プロローグ
かつて神々がまだこの大地に居た頃、地上に生きる全てのものは神々の恩恵を受けその恵みによってその生を謳歌していた。その中にあって地上に生きるものの代表として人の中から一人の少女が神と地上の生き物を繋げる役が選び出された。その少女は神々に対しての感謝の念が深く別け隔てなくその優しさと愛を持って地上のあらゆる者達と接していた。それ故であろうか彼女は神々が時折起こす天変地異に疑問を抱いていた。ある日、その少女は神々に問うた。
「天上の神々よ…、何故あなた方は地上に異変をもたらし多くの命を奪うのですか…?」と…
その問いに対して神々の一人がこう答えた。
「地上に生きる者達にはそれぞれ全てのものに役目がある。それを終えたものは世界によって飲み込まれ、又、新たなる命となって地上に戻るのだ」と…
その答えを聞いた少女はその理由を聞いて深い悲しみに包まれたそれは地上に生きる全ての命が何時までも神々に愛されている訳ではないのだと気付いたからだった。地上の生き物に役目を与えるのは神々によって決められ、その役目を終えたのかどうかも判断するのもまた神々であったからだった。それ故少女はその優しさを全ての生き物に与えることが出来なくなってしまった。愛した全てのものが次々とその命を落としていくのを見た少女は自分の与えた愛がその者達によって苦痛になってしまうのではないかと思ったからだった。その後少女は忽然と地上の全ての生き物の前から姿を消し、その行方は神々にすら掴めなくなってしまった。それから幾許かの月日が流れたのか…。神々の一である一人の女神が少女の居場所を長い年月をかけて突き止めた。女神は地上に居た頃から大層少女のことを気にかけており少女もまた、女神に大層懐いており少女も又、その女神に対し地上の誰よりも深い感謝の根をいだいていた。女神は早速少女に会いに行こうと思い立ち、その少女が身を隠していた地上にあって光の一条も差さぬ暗く淀んだ闇夜よりも尚暗い穴倉であった。そこで、女神は少女と再会し驚愕した。少女の姿はかつて地上に居た頃とは似てもにつかぬ程に痩せ衰えその表情は暗く、その瞳には以前浮かんでいた全ての感情が消え去っていたからだった。女神は少女のその変貌に驚きながらも地上に戻るようその姿を一刻も早く神々や地上に生きる全ての者達に見せて欲しいと告げた。少女はその言葉に首をふりその言葉を拒絶した。地上には自分の居場所など無いのだと少女はそう女神につげその穴の中に再び姿を消して行った。女神はその様なことは決して無いのだと皆地上に生きるものも天上の神々も少女のことを心配しているのだと一刻も早く地上に戻りその姿を見せて欲しいのだと。その思いを少女に告げるべく女神は少女の後を追いその穴の中に入り込むと我が目を疑った。そこには今迄に世界に飲み込まれ新しい命と為るべくその存在を神々によって昇華されたはずの者達が捕らえられ常に苦痛と飢え、渇きに見舞われ意思の無い人形のような表情で少女の周りに侍っていた…。その真ん中に少女は冷たく淀んだ以前とは似ても似つかぬ氷の様な微笑を浮かべ自分の周りに侍る全ての者達に触れていた。女神は少女に問うた。
「何故このようなことをするのか」と…
それに対し少女は変わらぬ氷の様な微笑を浮かべそれで居てどこか嬉しげな表情を浮かべながら女神に答えた。
「地上に生きるもの全てに別け隔てなく藍を自分の持つ温もりと思いを与えたいからだ」と…
その言葉に女神は即座にそれを否定し直ぐにこの場に居る全ての者達を開放するように少女に継げた。少女はそれを聞き入れずそればかりか女神を口汚く罵ると自分の傍に居る全ての者達に女神を追いやるように告げた。するとその場にいる者たち全てが女神に向かって襲い掛かった。それに戸惑いと恐怖を覚えた女神はその場から逃げるように立ち去り天上の世界へと戻って行った。そして女神は天井の神と地上に生きる全ての者達に見た事を告げその穴に居る者たち全てを開放するように助力を頼んだ。それを聞いたほかの神々は怒り、すぐさまその穴の中へと全ての生き物を戦士と変えて軍勢を創り上げ攻め込ませた。それに気付いた少女は怒り狂いその軍勢の前に立ち塞がるとこう言い放った。
「なぜ貴方達は私から大切なものを奪おうとするのか」と…
少女の問いに彼らはこう答えた。
「それが神に告げられた役目だから」と…
そう答え少女へと襲い掛かった。だが、少女がその一つ一つに目をやると瞬く間の内に神によってその穴へと攻め込むように使わされた者たちは己の意思を失い少女の周りへと集まっていった。それを見て天上の神々は驚愕した。何故なら神々によって与えられた役目とは制約でありそれは神々の力を持ってすらも変えられぬ役目であったからだった。だが、少女は彼らに視線を向けただけでその役目から人々を断ち切りその意思を奪ってしまって居た。その力を見た神々は恐れ、また大いに怒った。そして一人の神が決断を下した。
「彼女から力を奪い世界からも切り離し彼女の居た穴に閉じ込めるのだ」と…
だが、少女を誰よりも愛した女神はその言葉を受け入れず彼女を許すようその神に願った。だが、神々はそれを聞き入れずその女神すらもその役目から解き放ち世界へと還してしまった。それ見た少女は神々に向かって嘲笑を浮かべると言い放った。
「それが貴方達の本心か」と…
少女はそれを言い放つと自分の下に攻め込んで来た者達に向かって言い放った。
「これが神なのだ」と「このような傲慢がゆるされてもいいのか」と「自分達が信じていた神とはこのような傲慢と薄汚さに満ちていたのだ」と…
それにはどれほど怨嗟と悲しみ篭もって居たのだろうか…。少女はそう言い終えると神々に向かって言い放った。
「神とは何をやっても許されるのかっ!!私から地上の命を愛することを奪い、私を愛してくださった女神すらもその手に掛け又私に新たな悲しみをもたらしたのだっ!!そのような所業、最早神とは呼べぬっ!!」と…
そう彼女は言い放ち神々に向かってその視線を向けた。するとその視線を向けられた神々は瞬く間に姿を消し今まで彼女の視線に触れた者達とは違い彼女の傍に集まる事無く虚空の彼方へと消されてしまった。それを見た神々は少女を一早く消し去ろうと自らの力を持って襲い掛かった。少女はそれを見ると自分の周りに居た者たちを呼び集めると一匹の竜を生み出し、神々に襲い掛からせた。その竜に襲われた神々は一人、又、一人と、その身を食われその命を奪われていった。これを見た神々はそれぞれの力を使い竜を生み出し、その竜と少女に襲い掛からせた。少女と少女の生み出した竜は神々が生み出した竜と神々に立ち向かい双方引く事無く長い間争いを繰り返した。その争いにより地上からは神々の恩恵は失われ新たな命も又、生まれて来ること無く争いの余波によって地は焼かれ、海は凍りつき、天には稲妻が飛び交い、地は揺れ続けた。それを見た少女はその事に気付くと自らの生み出した竜に暴れるのをやめるように言い放った。竜はその言葉に従い、それを見た残った神の六人が瞬く間に少女を捕らえるよう自らの竜に言い放った。その命従い竜は少女と竜を捕らえると神々の元に引きずり出した。そして神々は自らの残った力で少女を穴の奥底深くへ封じ自らも又、その力を全て失いその姿を消してしまった。だが、少女が最後に残した光の玉だけは地上に残りそれが地上全てを照らし出すと瞬く間にあら果てていた地上に新たな生命と木々や他の動物達が生まれ地のゆれと地を焼き払っていた炎は消え去り雷鳴が轟いていた天は晴れ渡り再び日の光と明るさを齎し、夜の闇を運んだ。その後地上に生み出された命は神々から与えられた知恵と技術を持って地上に幾つかの国を作りそれぞれがその国々へと自らの住処を見出し次々と分かれていった…。
『神の物語・神々の終焉』より抜粋




