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やっちまった裏話「御奉仕」

えーと、どうしてこうなった?

 半ば憧れもあって始めた旅であったが、想像以上に厳しいものであったりするのが現実だ。

 高木はぼんやりと手綱を握りながら、隣に座るエリシアの言葉に耳を傾けていた。

「思ってた以上にヴィスリーって食いしん坊だったから、食材が少し少なくなってきてるの。今晩から一品減らすね」

「……ふむ。まあ、ヴィスリーは力仕事をほとんど一人でこなしているからな。僕のものを二品減らして良いから、ヴィスリーには今まで通りの量を食べさせてやってくれ」

 旅の食事は基本的に侘しい。急ぐ旅でない上に、金にも余裕があるので、食材は豊富に揃えているのだが、少々調子に乗りすぎた。猪を仕留めたから余裕があるはずだと、大量に飲み食いを重ねた結果が、思っていた以上に食料を減らしていたのだ。

「マサト、二品も減らすと干し肉かスープだけになっちゃうよ?」

「むう。少々侘しいが、まあ平気だ」

 食糧難という事態に陥ったことのない高木は少々楽観的だが、毎日の食に困っていたエリシアはお腹がすくという状況の辛さをよく知っている。

「私の分を減らすよ。身体が小さいから平気だし」

「それは駄目だ。そもそも、この旅は僕が言い出したことだし、エリシアは今、成長期だろう。丈夫な身体に生まれてきたのだから、それを壊してしまうのは勿体無い。僕は食が細いので、少々減ったところで問題ない」

 このような言葉の応酬では高木に軍配があがるのは、至極当然の成り行きではあるのだが、エリシアは不満顔である。エリシアにしてみれば、食糧管理を任されている手前、自分の招いた状況には自分自身でケリをつけておきたいのだが、それを言ったところで、そもそも旅を始めたのは自分だと高木が言って終いだろう。

 食料は無い。少なくとも、このまま食べ続ければ二日後には食料が尽きて、丸一日を空腹で過ごさねばならなくなる。一日程度で死ぬわけではないのだが、高木にしてもエリシアにしても、他人が腹を減らす状況にはしたくないという点では意見の一致を見ていた。

「仕方あるまい。無いならば得るしか方法が無い」

「だね。移動してるから罠や釣りは無理だけど、なんとか食べられるものを探してみるよ」

 食べられる野草の知識や、簡単な狩猟方法は、エリシアのお家芸でもある。猟師に育てられていた時期があるので、高木は素直に任せることにした。

 高木には、他にものっぴきならない事態に陥っていたからだ。



 やばい、と高木は己の下半身に意識を向けた。

 トールズの街を出発して四日。旅は少々の食糧難に見舞われているものの順調で、少なくともフィアやレイラ。それにヴィスリーも楽しそうに日々を送っている。

 旅は恥のかき捨てとも言うが、少々開放的になっているのだろう。なにせ、狭い馬車での行動でもあるし、この四日間で高木は元の世界であれば美味しい思いを幾度も経験している。

 まず、最初に遭遇したのはレイラの着替えだった。なんと初日である。

 安定した気候はありがたかったが、旅に備えての厚着をしていたところで、ぽかぽかと暖かかったものだから、汗をかいて、レイラが上着を脱いだのだが、予想以上に汗を多くかいており、休憩中で馬車に女性しかいなかったこともあって、その場で着替えていたのだが、小便から戻ってきた高木が、しっかりと着替えている最中に馬車に入ってきたのである。

 レイラが背を向けていたので、高木が拝んだのは美しい背中のラインと、身体の幅に収まりきらない巨乳の輪郭程度であったのだが、流石にドキリとしてしまった。

 そればかりではない。フィアが用を足そうと草むらにしゃがみ込んだところ、同じく用を足そうとしていた高木と鉢合わせになって吹き飛ばされたり、風呂上りに換えの服を忘れたエリシアが裸で馬車に走っている様子など、かなり大胆な映像まで脳内に入り込んできてしまっているのである。

 十七歳の少年にとって、これはキツい。はっきり言えば生殺し。少々下品な言い方をするのであれば、一発ヌいてスッキリしなければ暴発のおそれがあった。

 レイラとヤっちまおうとも考えてしまったのだが、娼婦相手ならイザ知らず、元の世界に残してきた恋人を思えばおいそれと手を出すことは出来ない。かと言って、自慰で済ませるにしても基本的に朝昼晩と、隣に誰かが常に居る。

 トイレと言って茂みに隠れてというのは、少し想像してみたがあまりにも情けない姿である。

「むむむ……どうするか」

 うっかり夢精でもしてしまえば、洗濯の手間が洒落にならない。可及的速やかに、しかも己のプライドを傷つけないように性欲処理をしなければならない。

 若き男子にとって、これは食糧難以上の大問題なのである。ヴィスリーに相談しようかとも思ったのだが、その姿もやはり情けない。

 浮気はしたくない。だがまあ、手での奉仕を受ける程度であれば、ギリギリでセーフかと、高木はくだらないことを思案する。レイラかエリシアならば、頼めばやってくれそうではある。が、エリシアにそれをさせてしまうのは気が引ける。レイラに至っては、何せ元々色香が半端ない上に「手じゃなくて、身体全部で」とでも言い出しそうである。

 ならば、フィアはどうか。性格上、やってくれそうにはないのだが、付き合いは一番長く、くだらない頼みをするのには一番適している。

「……吹き飛ばされるのを覚悟で、一度尋ねてみるか」

 非常に困難を極める交渉には違いない。だがしかし、そういう交渉こそが高木が最も得意とするところでもある。

 口先三寸で相手を煙に撒き、いつの間にか己の意のままに操る。自分ならばできるはずだ。今までも、これからもそう生きていくと決めたのだから。




「そういうわけで、フィア。すまないが、手でだな……」

「吹っ飛べバカ!!」

 案の定、吹き飛ばされた。高木はまず、若者男子の性欲について滔々と語り、己の置かれた状況や、今までの苦労も語った。フィアも一応は知識があるので、高木の言わんとするところは理解を示したのだが、「手で」という単語が聞こえた瞬間に、思わずマナを集めてしまっていたのである。

「あのねえ。辛いのはわかるけど、なんで手でしないといけないのよ!!」

「いや、だからだな。流石にその、コトに及ぶのは如何なものと思うわけで……足でしてもらうのは僕としては、大事なものを失いそうで」

「……そりゃ、そうだけど。でも、だから手でって発想が信じられないわよ。手よ、手。ご飯食べるのよ。日々の全部を手が支えてくれているのよ?」

 フィアは大層ご立腹である。高木としても、流石に無茶な交渉であるとは思っていたが、頑張ってお願いすれば、なんとなく折れてくれるんじゃないかと淡い期待を寄せていた。このままでは、こっちのモノを折られかねない。

 ここは、軽く逆ギレでもして、フィアを沈静化させねばなるまい。少々の暴論をぶつけて、会話の主導権を無理やり引き寄せてしまえば、あとは高木の得意分野に戻るのだから。

「じゃあ、何か。口でして貰えばよかったとでも言うのか!?」

 高木にしてみれば、少々声を大きくした。案の定、フィアは言葉につまり、一瞬身じろぐ。

 普段は大声を出さないからこそ、イザというときの大声に周囲がしっかりと反応してくれるのである。

 ここで暴論で畳み掛けてしまえば、フィアは面倒になってきて怒りをどこかに放り投げるだろう。そう思って高木が詭弁を語ろうと口を開いたときだった。

「うーん、まあ。口でなら……」

 変な方向にフィアが納得していた。



 え、なにこれ。どういう展開?

 高木は呆然とフィアの顔を眺めながら、状況の把握に努めていた。

 手はアウトで、口ならセーフ。そりゃどういう理屈であろうか。普通は手でならいいけど、口はダメ。ヤるのはいいけど口はダメということも多い。高木の恋人も、手は大丈夫だし、ヤっちまったりもするのだが、口でしてくれることはなかった。

 おかしい。フィアはおかしい。流石は偏屈といわれる魔法使いである。だがしかし、これは思いがけない幸運ではないのかと、高木は内心で歓喜の声を挙げた。

 もうこの際、本番は浮気。それ以外はセーフという線引きを決めてしまい、異世界の旅をいろいろな意味で謳歌してしまおうかとさえ考える。

「い、良いのか……?」

「マサトも自分の手を使うのは嫌でしょ。けど、自分の口じゃ届かないし、仕方ないじゃない」

 すごい理屈である。そりゃまあ、自分の口では無理なのだが。

 そこで、高木はハタと気付く。

 こいつはもしかして、いわゆる異世界と元の世界での文化の違いなのではないかと。つまり、こっちの世界では手が妙に神聖視されており、性関係に手を用いることが禁忌とされている。したがって、口ならば良いというフィアの言葉はこの世界では道理ともなるわけである。それに加えて、性関係に割とおおらかな風習なのかもしれない。

 なんという幸運。ついぞ恋人はしてくれなかった口での奉仕である。興味が無いといえば大嘘である。この機を逃せば二度あるかはわからない。

 ならばここはひとつ、郷に入っては郷に従え。文化の違いなど最初から承知していたかのように振る舞い、この勢いで奉仕してもらうしかあるまい。

「す、すまないが……宜しく頼む」

「し、仕方ないわね。まあ、こっちの世界に連れて来ちゃったのは私の責任だし……けれど、私もそういうのって初めてだから、上手に出来るかわからないからね?」

「あ、ああ……」

 頬を朱に染めるフィアに、思わず高木は頷いてしまう。フィアの口は小さく、そこに自分の分身が、と考えるだけで暴発しかねない。瑞々しい唇も、恥ずかしげに上目遣いで見上げる瞳も、全てが魅力的に見えてきた。

 できれば、フィアの裸体も拝みたいところであるが、それは望みすぎであろうか。否、この雰囲気ならば或いは。

 高木の脳内はいつになくめまぐるしく動き、この状況に最も相応しい行動をはじき出そうとしている。求めるからには、最高を。楽しむならば、最大限に。

「みんなは、丁度夕食の準備よね。丁度いいわ」

 フィアはぼそりと呟いて、そっと高木の前に跪く。このまま開始するつもりなのだろう。高木としては、もう少しシチュエーションについて凝りたくもあったのだが、遂に理性よりも本能のほうが上を行き始めた。

 それでも、高木は最後の理性を振り絞る。こういう美味しい状況というのは、得てして落とし穴があるものではないのかと。

 そう。つまり、これはフィアの性に対する無知から来る、強烈なオチではないのだろうか。間違った場所を奉仕されるならば兎角、最悪の場合は噛み切られるおそれがある。

 それは不味い。非常に不味い。そしてフィアならやりかねない。念のために考案中の概念魔法で、急所を鉄化させておくべきか。否、ただでさえ急所であるから、鉄化の違和感による痛みを喰らえば再起不能になりかねない。

「フィ、フィア……」

「大丈夫よ、任せなさい。思い切りやってあげるわよ」

 思い切りは非常に不味い。だが、既にフィアは意を決して高木のズボンに手を伸ばそうとしている。

 命をとるか。万に一つの可能性と一時の快楽を取るのか。つまり、生存本能と性欲による熾烈な言い争いが高木の脳内で繰り広げられているわけである。普通に考えれば命を優先すべきなのだが、フィアの目は少々興奮しているのか、ふにゃりと緩んでおり、頬も上気している。これを見せられては命を捨てる価値があるようにも思えてくる。

 いや、しかしこれぐらいの快感であれば、元の世界に戻り、恋人に土下座で頼めば得られるものでもあろう。

「……うぅむ」

「なによ、今更恥ずかしがるなんてナシよ。私も覚悟したんだから、逃げようとするなら、噛み切るわよ?」

 逃げ道は封鎖された。ならば、賭けるしかあるまい。

 ヤバイと思えば、即座に鉄化魔法。大丈夫なら、心行くまで楽しめば良い。

 性的興奮とは違う、命の危機による動悸に高木は冷や汗をかきながらも、徐々に近づくフィアの顔に、大きく頷いて見せた。



 それから数ヶ月。シーガイアを後にした高木は、特に身体に欠損を抱えていることはなかった。

オチが無いのがオチ。という試み。


まあ、普通に十七歳の男が女の子に囲まれて旅をしてたら、どうしても付き纏う問題です。

解決策として、こういう裏話があったのかもしれない。

いや、普通は無いんですけどね。御都合主義の物語なのでいいのです。

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