表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

シリーズ高木の魔法「天馬流星拳」

時期的には、ティテュスに向かう途中。

オルゴーとルクタが仲間になってすぐのことです。

 馬車での移動は暇である。

 決して快適とは言えない乗り物である上に、人数が多い。最初は高木、フィア、エリシア、レイラ、ヴィスリーの五人であったが、そこにオルゴーとルクタが加わって七人である。

 御者席に二人座れるので、車内は五人を収容すれば済むが、旅に必要な荷物を積み込めば、五人がなんとか寝転ぶ程度のスペースしか残っていない。

 そうなれば当然、できることは限られてくる。ティテュスまでの道のりはまだ半分も過ぎては居なかった。

「魔法を考えてみた」

 高木に出来る暇潰しにして、目下の課題であるのが魔法の修練である。基礎体力の向上も怠ってはいないが、こちらも進めねば帰ることができない。高木のノートには既に概念魔法と名づけた新機軸の魔法が構築されているが、まだ実験段階であり、とりあえず普通の魔法の鍛錬もやっておかねばならなかった。

「考えてみた、って。まだ風も炎もロクに使えないのに、新しい魔法?」

 魔法の師匠であるフィアは呆れ口調で高木を見るが、高木が逆に呆れたような溜息をついて肩をすくめる。

「フィアはまだ僕の才能の乏しさを理解していないのか。僕の才能ではおよそ、まともな魔法なぞ使えない。創意工夫が重要で、今回の魔法はまさしく、創意と工夫に満ち溢れている」

 高木の自信に溢れた言葉にフィアはやはり溜息で返す。才能の無さは生まれつきであり、高木自身に何の咎もないのだが、胸を張って誇りながら言うことではない。

「どんな魔法なの?」

 話を前に進めようと、ルクタが高木に問いかける。漫才のようにも見える二人のやり取りも楽しいが、高木という男は未だにルクタの中で未知数であり、彼の創意工夫を凝らした魔法を見れば、彼の性質の片鱗が見えるだろうと考えてのことである。

「うむ。名づけて天馬流星拳てんまりゅうせいけん。レイラを参考に考案してみた」

 半分はネタでつけた名前であったが、如何せん、現代日本では有名な漫画も、シーガイアの人々が知る由など無い。語感がそこはかとなくかっこいいので、一同は無駄に期待をしてしまった。

 ちなみに、参考になったレイラは別に聖闘士でもなければ、青銅鎧を着込んでいるわけでもない。

「レイラを参考にしたってことは、やっぱり雷の魔法かしら?」

「わあ、なんか照れるな~」

 フィアの予想や、レイラのはにかみを横目に、高木は大仰に頷いてみせる。

 確かに雷の魔法と言えなくも無い。魔法で作り出すのは間違いなく電流であるが、高木の才能では静電気を起こすことができるかどうかすら怪しい。

 そこで高木が思いついたのは、人間の肉体が電気信号で動いているという仕組みを利用できないかということだった。

 体内に微弱な電流を流せば、筋肉が反応して意志よりも素早く動くことが出来るという発想である。二、三度ほど試してみたが、上手く調節すれば思い通りの動きができそうである。

 どれだけの電力が必要だとか、細やかなことは高木にもわからないのだが、実際に身体を動かすということは難なくやっているのだ。その感覚をイメージすれば、ある程度の制御は可能だと判断した。

「ふむ。では、軽くやってみようか。少し離れておいたほうが良い。理論上、これが決まればオルゴーだって吹っ飛ぶ威力になるのでな」

 イメージするのは、一秒間に数十発の拳の雨である。間違いなく一度使えば筋肉痛になり、場合によっては肉離れもあり得るのだが、程度を間違えなければ問題ない。

 マナにイメージを注ぎ込み、高木は目をカッと見開いた。

「天馬流星拳!」

 必殺技は名前を叫ぶものである。魔法の発動と同時に叫んだ高木に、横で見ていたエリシアが驚いて飛び上がったが、それ以上に驚いたのはフィアであった。

 丁度、高木の正面にいたのだが、突如として高木の身体がビクンと痙攣して、高木の拳が真っ直ぐとフィアに向かってきたのである。

 咄嗟に両手で顔を防ごうとしたが、高木の拳はフィアには届かず、空を切る。なるほど、確かに普段の高木からすれば恐ろしく素早い拳を何度も放っているではないか。

 これはうまく使えばオルゴーを本当に吹き飛ばせるかもしれないと、フィアが笑顔を見せる。だが、天馬流星拳は高木としてもフィアとしても予想外の発展を見せることになる。

 まず、高木の誤算としては、己の才能を少々低く見積もっていたことがあるだろう。確かに才能に乏しい高木だが、魔法の修練を重ねるうちに、少しだけ集められるマナの量が増えていた。また、電気を身体に流すイメージも何度か試すうちに、より明確になってしまっており、魔法の発動時間と規模が伸びてしまっていたのである。

 結果、予想以上の負荷に高木が握っていた拳を緩めてしまい、体勢も泳いだ。フィアの予想外としては、いきなり高木の体勢が前のめりに崩れて拳がぐっと近づいてきたことにあるだろう。

 そして次の瞬間、高木の中途半端に開いた手がフィアの胸を鷲掴みにして、ぐっと引き寄せようと揉みしだいたのである。

 高木に代わって弁明すれば、腕を伸ばして戻すという一連の行動をプログラムした電気信号を常に送り続けていたので、フィアの胸を揉んだのは高木の意志ではなく、魔法の一環である。

 ちなみに、掴むだけではなく、揉むという作業までこなしたのも、電気による影響である。基本的に電流は収縮しか行わないので、拳は開こうとするのではなく、閉じようとする。

 そこに、高木の意志で「流石に胸を掴むのは不味い」と手を開こうとするものだから、結果として閉じたり開いたり――行為としては揉むと呼ばれるものに該当することになるのである。

「きゃあああッ!!?」

「あらら、大胆な魔法ね」

「私を参考にしたって、そういうことなの~?」

 フィアの叫び声と、ルクタの呆れ声。そして、高木の意志で胸を揉まれた経験のあるレイラの悲しげな声が混じり、馬車の中は騒然となる。

 当の高木はしっかりとフィアの胸の感触を吟味しつつも、割と必死で手を引き離そうと苦心しており、フィアのビンタが飛んできて吹っ飛ばされることで、ようやく魔法も解けた。

「……ちなみに、敵を殴るために電流で身体を制御する魔法だったわけだが。少々、改良が必要だな」

「改良も何も無いわよ。問答無用で封印!」

 結局、フィアの怒号により天馬流星拳は日の目を見ることはなかった。

 後にオルゴーとの決戦で高木が使用を考えたりもしたのだが、オルゴーの鎧を殴れば骨折するのは自分だと判断して使用には至らなかった。

基本的にフィアが被害者になることが多いですね。

そういうキャラ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ