第一話
「我が主、ベアトリス様。本日の魔王城視察、お疲れ様でございます」
漆黒のフリルエプロンをきっちりと着こなし、シルバーの髪を美しくまとめたメイドのセレスティアが、差し出したのは上品な湯気が立つカップ。そこには極上の紅茶が注がれている。
ここは魔界の中枢、絶望の城。 そして、その玉座にふんぞりかえって――いや、実際には小さすぎて足がぶらぶらしている少女こそが、四大魔王が一人、『血塗れの暴君』ベアトリスである。
(中身、日本の一般的な女子高生だけどね……!)
私は心の中で盛大にツッコミを入れながら、受け取った紅茶をふうふうと息を吹きかけて一口飲んだ。美味い。さすが世界最高峰の執事・メイドスキルを持つセレスティアが淹れたお茶だ。
前世の記憶を思い出したのは、まさにこの「ベアトリス」として覚醒した瞬間だった。 「あ、これ死ぬやつだ。勇者に討伐されてバッドエンドのパターンだわ」と冷や汗をかいたものの、鏡を見たら身長一四五センチのツンデレ銀髪ロリ美少女(ただし魔王)。理不尽な世界観に絶望しながらも、生き残るために「冷酷非道な魔王」を必死で演じてきた。
しかし、最近の私の悩みは別にある。 ――このメイドのセレスティアの忠誠心が、なんか方向おかしくない?
「……セレスティア。お前、さっきから私のことジロジロ見すぎではないか?」 わざと低く、冷徹な魔王ボイスを作って鋭い視線を向ける。
しかし、セレスティアは怯えるどころか、むしろ瞳にうっとりとした光を宿し、胸元に手を当てた。 「おや、お気づきになられましたか。流石は我が主。ベアトリス様の、世界を滅ぼしかねない圧倒的な威厳と、時折見せる可愛らしい……失礼、尊いお御御足の美しさに、私の視線が釘付けになっておりました」




