おとといきやがれこのスットコドッコイ!! って言われたので頑張ってみた
私の家は代々『魔法使い』だ。
そして私はある理由から魔術の修行に励み、ついに時間をさかのぼるコトに成功し、目的の一歩前、まで辿り着いた。
だが一度『大きなミス』をした。
杖を持つ手が震え、取り落としそうになるくらいのミスだ。
時間を安定させるため姿勢を維持しなくてはならず、とても危険だったのだが、魔術を忘れるほど精神的な衝撃を受けてしまったのである。
ただでさえ難易度の高い『時間遡行』なのに、ここまで積み重ねたモノが無駄になるくらい……。
「なにオッサン、どちらさま?」
その、言われた言葉に一瞬真っ白になったが、なんでもないよ、と、笑って立ち去った。
「ここまで姿が変わってしまっては、目的を果たせるワケがない……!」
……いいや、諦めるものか。
今の魔法の実力があれば、姿などどうとでもなる。
それに、本当に言われた通りにしてしまっては相手が理解できないのも解った。
コレは大きな収穫だ。
「……次こそは、ちゃんと伝えてみせる」
☆ ☆ ☆
「ホンッ……と、いい加減にしてよ!? 何度もなんども…… そんなんじゃ、わたし面倒見きれないんだからね!?」
「ごめんごめん。次はもう頼らないから、今回は見逃してよ」
以前だらしなく『なぁなぁ』で済ませていたオレを、いつも真面目に取り組む彼女が叱ってくれた、この『瞬間』を対象に『座標』を決めていた。
……やっと、ここまで『辿ってきた』。
この後、彼女はあの『セリフ』を言うのだ。
「いっっっつも!! ヘラヘラして! みんな見下してるのに抗いもしない! なのにマジメにもなれない、努力もしない、そんなんで、アンタ何を目指してるのよ!」
「そ、れは……」
オレの夢というか目標は、誰にも言えなかった。
彼女にしてみれば、ソレを確認できたら、また違っていたんだろう。
「……ホラ! やっぱり笑ってごまかしてる…… まあ、もう、アンタなりに頑張ればいいよ。何ならできるんだか、わたしにも解らないけどね!」
「夏蓮!」
「話し掛けないで! わたしはもう、付き合いきれない!」
「なら、いつなら、話せる……?」
「……ッ、おとといきやがれッ、このスットコドッコイ!」
そう、彼女はなかなかの江戸っ子であった。
だからこんな『無理難題』な返しをしたんだよな。
ソレを知らなかったから、本当に『一昨日』に行ってしまった。
そうなれば当然、彼女はこのやり取りをしていないのだから解るワケがない。
一度目の魔術を解除した後、新たに考え、組み上げた『魂のみの遡行』という『オリジナル魔術』に取り組んだ。
ここからすれば未来の話ではあるが、師匠の手ほどきもあり、この分野において更なる躍進を果たしたんだ。
「待ってくれ、オレは伝えたいコトがあるんだ!」
「えっ?」
言いながら、彼女の肩を掴む。
過去…… いつもならこんなコトはしない。
こんな人目のある喫茶店の中で自分から騒ぐなんてできなかった。
「な、なによッ!?」
なにかあっても言葉だけで謝って、話せない全てを隠し、優しいカレンに甘え、近い場所に居座っていた。
でも『今』のオレは違う……『目的』を果たせるよう、周囲への影響を最小限にし『重点的な変化』を積み重ね、ここまで来たのだから……!
《パキィイン》
《タタンタンッ》
「わっ!?」
術式を指鳴らしと踵鳴らしで展開する。
床に光り輝く『輪』が広がり、柔らかく風が吹き抜けた。
思わず目を閉じていたカレンに告げる。
「コレで周囲はしばらく止まってる。ゆっくり話そう」
魔術が成功し、音が消える。
さっきまで寒いくらいの冷房の風が当たっていたので、それが急激に止んだという落差は彼女にも理解できたようだ。
「えぇ…… 外の自動車、固まってる……!?」
恐る恐る目を開け、外を眺めたカレンが口を開いたまま止まってしまった。
彼女には魔術を使っていないんだけどなあ。
☆ ☆
ここまでの道のりをつらつらと語り、しかし一方的に話しすぎて喉が渇いてしまった。
「あの、わたしの理解が正しいのかわかんないから確認したいんだけど…… アンタは魔法使いなのを隠してて、一人前に成れるタイミングもその可能性も解らないからずうっと黙ってた、ってコト……?」
「うん、だいたい合ってる」
魔法使い見習いだった、というトコロとかの違いは、どうでもいい。
体内の魔術回路のベース構築はこの時代まで自然に任せるしかなくて、魔女からの継承もどこまで浸透するか解らなかった。
とても不自由だった。
属性とか許容量とか『成ってから決まる』って考えると、魔法使いとしてやっていけるかすら悩ましくて…… というか魔法使いにならない方が安定職に就けるんだけど、なんて。
オレの問題はまぁ聞かれたらで。
「細かい。アンタはいっつも全部、細かい」
「あッハイ(口に出してなかった、よな?)。ごめん」
「もう…… 言いたかったのに、言えなかったんだね。話したくても話したら家族に迷惑が掛かるっていう魔法が掛かっていた、のよね?」
「掛かっていたよ。このサイクルに入ったから話せるけれど」
魔法使いの家系の一人息子のオレは、継承の完遂を以て術式素質も属性素養もハッキリする…… そしてこのコトを口外できないようにされていた。
そもそも一般人には解らない話だろう。
でも、幼馴染みである彼女にだけは、言いたかった。
何度も言いかけた。
そのたびに口外禁止の契約が反応し、ケイレンするのを笑ってごまかした。
だから結局、なにも言えなかった。
「たくさん迷惑を掛けてごめん。まず謝りたかった」
「へええ…… ものッスゴい長~い回り道をしてきたわね…… でも、わたしにソレ教えてる、ってコトは、なに? わたし未来でどうなったの?」
いきなりの話で混乱しているのだろう、カレンは動かせなくなっているコーヒーのカップをもてあそび、思い付いたのだろう質問を投げ掛ける。
「カレンの動向は、申し訳ないけれどこの日までしか知らないんだ。急に大学をやめて都会に出たらしい、とは聞いたけれど……」
「ええ…… 我がコトながら、なんか逃げ出したみたいでヤだなあ」
ソレはオレのせいじゃ、いやオレのせいだな。
「でも…… 魔法を使いこなせるまで、音沙汰もないわたしのためだけにイロイロとガンバってくれたってコト?」
「まあね? 血族から杖を任され…… いや、うん。カレンに言いたい言葉があったから、頑張ったよ」
「ふうん? あー、でもこの後アンタがちゃんとまほーつかいになれるんだったら、迷惑の清算として謝りたかったの? ずッとゴメンばっかり言ってるし」
「えっ、あ、ごめ…… クセになってるだけだよ。本当に言いたかったのは、これから……」
気持ちを切り替えるため、深呼吸…… そのままの勢いで告げた。
「オレは『おととい』よりもっと前、三年前に自分に乗り移って、未熟ながら生来持っていた魔術回路に大気中の大源と体内の小源を循環、改善、拡張を施し、魔力を利用できるようにした」
「なッが~い、もっと端的に」
「あっ、うん。未来を決めた、この瞬間を待っていたんだ…… カレンに告白したかったから」
「……えッ」
彼女の黒髪がフワリと揺れた。
でも見とれているオレの視線に気づいて、もう笑ってる。
細顔の丸い瞳に細く形の良い眉が冷ややかな印象を与えるけれど、知性的な光を宿す視線は変化を見逃さない。
背丈があるからいつも見下ろしている形だが、この威圧感は思い込み、話せばノリもいいし、笑うととてもかわいいし。
眼差しに反して気配りの絶えないカレンは、ホントは優しい女の子なんだから。
そして驚いても思考を止めない理知的なヒトだ。
「……いつもしちゃう古典的言い回しについて?」
「いや、オレが言いたいのは」
「ストレスで冷蔵庫の中身ぜんぶ料理しちゃった話?」
「違う」
「じゃあスマホの電源オフしちゃうクセ?」
「いや」
「衝動買いの古本屋巡り?」
「いや、違う…… 告発じゃないよ、告白だよ」
からかいに一瞬、絶句してしまった。
顔面をピクピクさせるオレ、頬を揺らし笑いを堪えて震えるカレン。
時間が止まっていなかったら、周囲からも笑われていたかもしれない。
――っとそうだ、この魔術もあとわずかだ。
「じゃあなに? どーぞ、ちょっとくらい長くてもいいから、話してちょーだい」
長い足を組んで椅子に座るカレンは絵になる。
頬杖をついた頭を揺らし、疑惑の視線を向けていた。
「一度目のミスの時、オッサンのオレは、カレンが居なくなってとても後悔してきた。オレのせいで不幸にしたんじゃないか、って気持ちがいっぱいで……」
後悔ばかりだった……本当は彼女の『不幸』を聞いていた。
だから絶対に『未来を壊しても』カレンを助けたい、不幸にしたくないって思ったんだ。
「だからカレンを都会になんて出さない。お、オレが守る。大規模な魔術も使える魔法使いにもう『成ってる』から、もっと技量を高めて君を……!!」
「えっ、ちょっと待った!」
「ん、な、なんだ?」
「もうなってる、ってなに……?」
魔術を使って見せたからって端折ってしまってたか…… 頭を掻きつつ、向き直った。
「母親の魔女から『血脈』を引き継がず、自力で新たな魔法使いになったんだ。カレンを守れる男に成りたかったから」
「やり直してる、なら…… なんで魔法使い?」
オレの顔を真っ直ぐ見ての質問に、カレンから目を逸らして答えた。
「いやぁあ…… 他のヒトよりアドバンテージがあるの、魔法の分野だけだったから…… だな? 改めて社会人やり直すのは無理そう、っていうか……」
そう、打ち込んできた魔法研究ならともかく。
時間遡行し、やり直せるからって『社会人』を目指すというのはハードルが高すぎたから。
「……ふ、プフッ!」
「なっ! なんだよっ、オレだってオレなりに、ふたりで生活できるくらいの未来を考えてだなぁ……!」
厄介なからかいに巻き込まれる前に、慌てて言い直す。
「とにかくっ、オレは、カレンと離れたくないッ、愛しているんだ!」
「ッ、こんな近くで、大声出さないで、いいよ……」
そう、時間遡行した『私』は『オレ』になり、未来でないと解明できなかった成長促進方法を使い、急ぎ足で魔法使いになった。
この先は、誰も知らない未来だ。
オレの手に余る事件が起きるかもしれないし、我が愛しの幼馴染みが事件を起こすかもしれない。
だからふたりで乗り越えていきたい。
「でも、カレンには身の上話を聞いてもらったので…… もう『家族』になってもらうか、記憶を『ちょちょい』とさせてもらうかしかないし」
「え"!?」
「だから…… オレは最後まで責任を取りたいし」
「ちょちょちょ、そ、それってアンタが勝手に話をしたんでしょッ!?」
「責任、取るから」
「不穏な話をサラッと流すなぁあぁあっ!!」
「……カレン、もう離したくない」
彼女は、口悪く振る舞ってきてたけれど、中身は純粋無垢っぽいと思う。
手を握ったら真っ赤になって、ぜんぜん動けなくなっていた。
「う、うう、この、このぉ、中身オッサンのくせにいいいぃ!」
「今は元通り、同い年だよ。ひとまず今日はオレの家に来て挨拶して欲しい。誰かに話したってのはもうバレてると思うから」
「……じゃあ、いっこだけお願い聞いて」
「解った。なに?」
「とりあえず、わたしを騙していたというか、黙っていた『三年』分、ワガママ言うから」
真っ赤な顔を笑顔にして、そんなお願いをされたら―― 応えないワケがない。
「できる範囲でお願いをしてくれよ?」
☆
……こうして、おとといきやがれって言葉を真に受け過去へときたオレは、彼女を不幸から救うべくというか、自分の欲求のままに未来を変えていく。
毎日が薔薇色、とはいかず、彼女のご両親から孫を催促されたり、魔法使いの嫁になるんだ、なんてマンガも好きな彼女がなんか盛り上がっていたりとか、初恋は叶わないというジンクスを打ち壊せたなぁ、なんて思ったりしながら。
運命的なふたりのデートにしては、かなり庶民的にお付き合いをすすめ、同棲を始めた。
「次のお休みは関西の某テーマパークに行きましょ…… なにその顔。まだ半分もワガママ言ってないわよ」
「そのワガママが終わったら、改めて口説き落として、結婚するぞ……!」
「だから……いッッッつもクチに出してるのよ、アンタは、もうッ。このトウヘンボク!」
「……トウヘンボクって、どんな意味?」
☆おしまい☆
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