夜の客
夜、目が覚める。
足音。
足音がする。
ありえない……。
自慢じゃないけど私の部屋はとにかく汚い。ところ狭しに本やらプリントやらが積み上げられて、ぽつんと空いた場所にテーブルと楽器がある。そんな空間に私以外が入れるはずが無い。
何せ母は掃除をしようとしたけれどその足の踏み場の無さに入ることを諦めたのだ。
そんな私の部屋で規則正しい足音がするはずがない。
来た。
そう思った。
これは俗に言う「幽霊」とか言う奴の仕業だと思う。
気配だけがただある。居ることは分かっている。だけど姿が見えない。
私はぎゅっと目を瞑った。そして自分を抱きしめる。
すぐ背後に冷たい何かがあった。
声を出しちゃダメだ。奴に気付かれる。
足音は好き放題めちゃくちゃな方向から聞こえるけれど気配は唯一つ。
きっと一体だと思った。
怖い。
自分を抱きしめる手の力が強くなる。
天井がぱりんと音を立てた。
背中をくすぐるような感触に思わず悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえていると、「奴」は面白くなくなったのか、足音が止まる。
同時に気配も消えた。
「か、帰った……」
安心してほっと胸を撫で下ろす。
途端に全身に激痛が走った。
「奴」は消えては居なかった。
私の体内に入り込んだのだった。