第三話
「諜報部員からの情報の分析結果によれば、当該勢力は戦車約五百両、潜水艦十隻を保有していると推定される。加えて、軍事用無人機戦力を相当数運用している可能性が高い」
オーブについての詳細な資料に目を通した後、レオンの目は、いつにもまして鋭くなっていた。
もしこれが事実であれば、オーブは、第三次世界大戦時の小国家並みの戦力を持っているということになる。到底、こちらの一部隊だけで対処できるものではない。
しかし、これだけ大規模な戦力を、どうやって整えた?
オーブが他の勢力から買い上げたのか?いや、あり得ない。それならば、必ずこちらの情報網に引っかかるはずだ。
ならば自作か?これだけの兵器を自作できる技術と、材料がオーブにあるということなのか。
不可能、とは言い切れない。よほど腕の立つ技術者と、設計士が大勢いれば、という前提は必要だが。
普段なら、思いつく前に思考の選択肢から消しているような考えだ。もし、こんなことをハンが言い出したら、一新興反乱勢力に、一流の技術者たちが集まっているなんてありえない、そう一蹴しただろう。
しかし、その前提が成立している可能性を否定しきれないことに、思考がわずかに乱れた。
落ち着け。目を閉じ、頭の中で、何度も自分にそう言い聞かせた。いつもなら頭の中で、自然と情報を取捨選択し、最善策を打ち出すことが出来ている。しかし、今は頭の中を情報が錯綜しているのがわかった。
何か、重要なことを見落としている。難しいことではないはずだ。情報を一つ、一つ整理していけば、きっとたどり着ける。
いつまで目を閉じて、思考の海に沈んでいただろうか。
それは、不意に降りてきた。そして同時に、こんな簡単なことにも気づけなかった自分自身に、レオンはこれ以上にない程、猛烈に腹を立てていた。
怒りのままスクリーンを操作し、ハンを呼び出す番号をタッチした。[pagebreak]
「あの、一体どうされたんですか?」
数分後ノックの後に入ってきたハンは、身を固くし、身構えるように聞いた。レオンのいつもと異なる雰囲気に気づいたのだろう。
「ハン。この報告書はお前が書いたのか?」
「はい」
「ならば、なぜ先ほどオーブの詳細な戦力を言わなかった?お前が書いた報告書には、しっかりと記載してある。ここまで大規模な戦力を持っていると知っていれば、様子見なんて案には、反対するはずだ」
「どういうことです?私はそんなことを報告書に記載していません。ただ、どのような経緯で発見に至ったかを・・・・」
「ほう?これを見てもまだ同じことが言えるのか?」
スクリーンに映し出された報告書を読み進めていく度、ハンの顔からゆっくりと血の気が引いていく。
「これは・・・・・・これは、私が書いた報告書ではありません」
「証拠はあるのか?この報告書を書いたのが、お前でないという証拠は」
その声は、何処までも冷淡で、静かだった。
「証拠は・・・・ありません。でも本当に私ではないんです!!信じてください!!」
「大体、裏切り者は同じことを言う。そんなものは、知らない。信じてくれ、とな。知っているか?世界統治機構の職員全員に埋め込まれた脳内チップ。上官からの呼び出しをボタン一つで完了させ、その他にも命令、必要なデータを直接脳に届けることが出来る優れもの。だが、それだけじゃない。あれは、裏切り者の拷問、尋問にも使えるんだよ」
レオンの瞳に映るハンの目が、恐怖の色を帯びた。
「まずは、海馬を刺激して、こちらに必要な情報を吐いてもらう。そして、その後に脳を通じて全身の痛覚を刺激する。まるで、全身を刺され、傷口をえぐられ、焼かれるような痛みだそうだ。そして、最後には痛みのあまり、ショック死する・・・」
ハンの膝が小さく震え、地面にへたり込んだ。レオンは椅子からゆっくりと立ち上がり、ハンに近づいて、頭を引き寄せた。
「おそらく、お前はこう言うだろう。自分は第三次世界大戦が終わった後、世界統治機構の統治下で迫害を受けてきた。だから復讐のためにここに入り込み、水面下で反旗を翻す準備を進めてきた。そしてオーブを作った、と。しかし、こちらが知ることが出来ない情報を報告書に盛り込むとは、失敗だったな。諜報員からの情報は、先ほど俺も確認させてもらった。あれだけでは、これだけ詳細な戦力を予測することはできない」
「お願いします・・・・本当なんです・・・・どうか信じてください・・・」
ついに目から大粒の涙を流し、つっかえながら懇願するハン。その声は、普段のハンからは考えられないほど、か細く、弱弱しいものだった。
「・・・・・やっぱりな」
「え?」
「お前はこの報告書を書いてない。初めからわかっていたことだが、念のため確認したかった」
「すまん」と頭を下げようとした瞬間――
レオンの頬に強烈な衝撃が走った。




