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黒ずんだ正義  作者: 北見剛介


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第二話

議から戻ったレオンは、自分の執務室に入ると、着ていたミリタリージャケットを椅子の背にかけ、出る前に用意していたコーヒーを口に入れた。


口いっぱいに苦みが広がると同時に、自分の心が平穏を取り戻してくるのがわかる。


もう一杯、そう思ってコーヒーメーカーの注ぎ口にカップを置いたが、コーヒーが出てくる代わりに、ピー、という甲高い電子音が鳴った。豆が切れたことを示すものだ。補充の豆は、忙しくて買えていない。思わず舌打ちが飛び出た。


元々コーヒーはよく飲んでいたが、今の立場になってからはますます量が増えた気がする。


軍事統括部・作戦部長。この辞令が出た時は、自らの目標に少しずつ近づいているという、満足感があったはずだ。


だが実際はどうだ。ある程度覚悟していたとはいえ、作戦の立案、実行に、何かしらのけちをつけられるのは日常茶飯事。閣僚たちの政治的事情で、作戦自体がお流れになったことも一つや二つではない。


コンコン


もうこの時点で、誰が部屋に入ってくるかがわかった。部屋に入ってくる際にいちいちノックをしなくてもよい、何回もそう言っているのだが。彼女は律儀に毎回ノックをする。


「失礼します。今度はいったい何をやらかしたんですか?さっき閣僚の方々がいきり立って、会議室から出て行くのが見えましたけど」


こちらの返事も待たずに執務室に入ってきたのは、ハン・シャンロン。レオンの直属の部下であり、主に彼の作戦の伝達、実行を担当している。


「なぜ原因が俺だとわかる?」


「あの方たちをあそこまで怒らせることが出来るのは、私が知る限りあなただけです」


「気に入られるよりは、そっちのほうがいい」


口元に笑みを浮かべながら答えた。


「閣僚会議に呼ばれてな。連中があまりに馬鹿なんで、喧嘩を売ってやった」


「そんなことをいい笑顔で言わないでください。もう、本当に・・・・・」


「仕方がない。あのままじゃジール陥落の責任をとれ、とか言われて左遷まったなし、だからな」

「陥落の責任・・・・ああ、なるほど」


「それよりどうしたんだ?そんなことを言うためだけに、ここに来たわけではないだろう?」


「ええ。気になる反乱組織がありまして、ご報告に」


彼女が指先で空間をなぞると、二人の間に立体映像が姿を現した。


世界統治機構の執務室には、立体映像を投影できる電磁スクリーンが完備されている。


「またアジアか」


「ええ」


ハンの目がほんの少しだけ、伏せた。


第三次世界大戦、そして世界統治機構の統治の下で形成された、最大の負の遺産。それが旧アジア地域だ。


「組織名はオーブ。活動拠点は香港。リーダーは不明。つい最近発生したばかりの組織なのですが、急速に規模を拡大させているようです」


「待て。香港は、どちらかというと[ruby=こちら]世界統治機構側[/ruby]。大規模な反乱勢力が誕生するとは考えにくいが・・・」


「私もそこが気になるんです」


「現地の諜報員からの情報は?」


軍事統括部の仕事は、反乱勢力との抗争だけではない。諜報員を駆使した諜報活動も行っている。世界中に監視の目を置き、絶えず反乱勢力の動向を追っているのだ。


「いえ。それが定期連絡が途切れていまして。おそらく・・・」


「・・・そうか」


座っている椅子が、ぎぃと音を立てて沈んだ。


「とにかく、今は向こうの出方を見るしかない。諜報員の再派遣はリスクが高すぎる」


「同感です」


「近頃、大規模な反乱が増えてきている。俺たちも気を引き締めねばな」


「はい」


そう言った瞬間、ハンの目線が途端に鋭くなり、レオンの全身を見渡してから椅子に掛けてあるジャケットに視線を飛ばした。


「ところで念のため聞きますが、まさかいつものミリタリージャケットとチノパンで閣僚会議に出席したわけではありませんよね?」


「出席したが」


「・・・いい加減にしてください」


「別にいいだろう。俺が軍の制服を着たところで、思考能力が上がるわけではないぞ。第一こっちのほうが、俺には似合ってる」


「そういう問題じゃないんです。普段の服装があまりにもラフなことには、もう文句を言いませんから、上の立場の方、せめてクロッカス大臣と会う際には、それなりの格好をしてください。服装が多少違うだけで、同じ言葉を言っても受け手の受け取り方が違うんです」


「わかった、わかった。考えておく」


手をひらひらと振りながら答えた。


「お願いですよ、本当に」


ハンは一応は引き下がったものの、いまだに訝しげな表情をこちらに向けながら、部屋を出て行った。


ひとまずああ言ったが、多分明日には忘れているだろうな。そんなことを考えながらレオンは、再び立体映像を出現させ、ハンがまとめた報告書に目を通し始めた。

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