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そういえば、昨夜はもうひとつ印象的な光景を目にしてね。
アンコールに沸き立つ客席の様子を袖から観察していると、最前列のど真ん中にいた気の弱そうなメガネ君が、直立不動で呆けているのを発見したんだ。
周りはひとり残らず類人猿化しているのに、あいつだけは、さながら月に初めて降り立った宇宙飛行士みたいだった。
アンコールを演奏している間、相変わらず突っ立って呆けたままのあいつと見つめ合っていた俺は、
(分かったよ、降参だ。お前みたいなヤツのために、これからも続けていくよ)
そう決心し直したんだ。
だから今なら、俺のちっぽけな音楽人生もまんざら無駄じゃなかったのかもしれないなって、素直にそう思えるのさ。
そんな自分が、自分でも信じられなくてね。ホント、全てはあいつのおかげだよ。
おっと、もうこんな時間か。長話が過ぎたようだ。悪ぃ、悪ぃ。
うわっ、スゲー雨だな。はい、この傘あげるから使いな。いいって、遠慮すんなや。
おう、今日はありがとな。じゃ、気ぃつけて。
次回へ続く




