#3
話は変わるけど、俺、中坊の頃のあの夜みたいに、もう一度宇宙に繋がることができたら、音楽の世界からは離れようって、実は随分前から心に決めていたんだ。
それで、昨日のライブの終盤、長いソロパートに突入する直前、かつて味わったことのないような万能感に包まれた時、
(嗚呼、とうとう俺にも順番が回ってきた。これが最後の夜か)
なぜかそう思ってさ。
最初の一音をチョーキングしたその瞬間、目の前が完全にホワイトアウトした俺は、リズム隊の音圧だけを背中で受け止めていた。
あの感覚、言語化するのはなかなか難しいんだけど、極上の大波をサーフボードで悠々と乗りこなしているような心地良さ、とでも表現すれば、もしかしたらちゃんと伝わるのかな。ま、俺、サーフィンなんてただの一回もやったことないんだけど。
とにかく、フレーズのひとつひとつが面白いようにバシバシ決まるもんだから、そのうち、コード進行とかスケールとか、そういう洒落臭い決まり事がどうでもよくなってきて、衝動に突き動かされるまま長年の相棒とまぐわっているうちに、脳みその奥からとんでもない量の快楽物質が分泌されるのを感じてね。
その時、俺はようやく、三十余年越しに宇宙と繋がることができたんだよ。
心のブレーキがぶっ壊れちまったからだろう、ほとんど無意識的にストラップを肩から外し、大斧の柄よろしくネックを握った俺は、危うくギターのボディーを地面に叩きつける寸前だった。
すると今度は、もう二度と拝むことの叶わないヒデのにやけ顔が脳裏にパッと浮かんできて、我に返ったんだ。
ヤツの唯一の形見をオジャンにすることはできない。だから俺は、その代わりといっちゃなんだけど、ギターヘッドを天井の照明ケーブルにしっかりと引っ掛けて、アンプの電源をオンにしたまま、ステージ袖へ引っ込んだのさ。
カラフルなステージライトに照らされて中空にぶら下がったジャガーのパチモンは、まるで前衛芸術のオブジェみたいだった。
鳴りっぱなしのハウリング音が箱全体をつんざくなか、お客は火のついたような狂乱状態。メンバーたちも、いつにも増して良い顔をしていた。
次回へ続く




