1.モンスターを倒そう、そうしよう
「は?何、ここ…?」
気が付くと見知らぬところへいた女子高生は、一人でそう呟く。
辺りは暗く、寒い。一体ここは何処なのだろうか。
「いや…何処でもいいや…。どうせ死のうと思ってたとこだし…」
「おーーーっと!ならば!死ぬ前に!ダンジョンへ潜らないかい!?」
「きゃっ!?」
予想外の声に女子高生は驚き跳ねる。声の主、謎の男は彼女の背後からいきなり現れた。
男の持つ松明で、彼自身の顔が照らし出される。
「ダンジョン…?何、言ってんの…?」
「むっ!ダンジョンをご存じない!?ご存じないないのか!?」
「あーうざっ、知らないよ!そんなの!というかあっち行って!」
女子高生は面倒くさそうな男を振り払おうとする。
意外にも男は直ぐに引き下がって離れた。
彼女の言葉通り離れた男であったが、
「あ〜あ!ダンジョン探索楽しいんだがなぁ!どうせやること無いなら、ダンジョンへ行ったほうが楽しいんだがなぁ!あ〜あ!」
「……」
此方にも聞こえる大声でしかもチラチラ見ている。
何なんだコイツは。そう思った女子高生だったが、考えてみれば今の彼女にはやりたいことなんてない。
「……まっ、いっか。後は死ぬだけだし…。ねぇ!ダンジョン探索、付き合うよ。私のこと連れてって!」
待ってましたと言わんばかりに男は女子高生へ急接近する。
「仕方がないなぁ!それ程行きたいと言うなら、案内してやろう!俺は忙しいんだがなぁ!」
「…………やっぱ行くのやめよっかな……。」
「おっと!女に二言は許さないぞ!さぁ行こう!それ行こう!ダンジョンへ!」
女子高生の気分が変わる前にと、男は彼女の腕を引っ張る。
暗い道のりを歩きながら、女子高生は思い出したかのように言う。
「そういえば、アンタ名前なんて言うの?私は舞。」
「俺の名か。特別に教えてやろう!俺は人呼んでダンジョンマスター!ダからタまで一文字残らず呼ぶといい!」
「………へぇ~それじゃよろしくダンジョンくん。」
「ダンジョンくん!?ダンジョンは姓じゃない!ダンジョンマスターと呼べ!」
「やだよ。ダサいし。ていうかダンジョンって何?ここ何処?」
彼女達は今、暗がりの中にいた。壁や床は不健康な赤色をしており、恐らく石で出来ていると思われる。
洞窟のような空間に男、ダンジョンマスターの声が響き渡った。
「ここはダンジョンの一部だ!」
「だからダンジョンって何?」
「ダンジョンはダンジョンだ!」
「え〜。あっそう……」
説明する気のないダンジョンマスターに女子高生、舞は諦める。
少しすると前方から何か声が聞こえた。無論、ダンジョンマスターのものではない。
人のものとは思えない声。舞は静かに唾を飲み込む。
「女!ダンジョンとは何かと言ったな!」
「舞だってば…」
「どちらでも変わらん!」
ダンジョンマスターは舞の指摘を無視して、話を続ける。
振り向きながら目の前の扉を開く。
「ダンジョンとは!人間に足りぬものを与えてくれる!素晴らしき所なのだ!」
喋りながら開いた扉の先には、見たことのない生き物が佇んでいた。
「説明しよう!このダンジョンにはモンスターが棲息しており、ソイツを倒すとさらなる道が開ける!」
「えーと、目の前のコイツを倒せばいいってわけ?」
「その通り!意外にも賢いな!」
「いちいち鼻につくわね!」
ダンジョンマスターは説明をしながら、目の前のモンスターを指差す。
ソイツは白い泥人形みたいな生き物だった。全身白いモンスターは右腕のみが植物になっており、緑色に染まっている。
「倒すって言っても武器なんかないし…」
「あるぞ!この俺特性、釘付きバットだ!」
「で、でもなんかアイツ怖いし…」
モンスター討伐に消極的な舞。それも仕方がない。目前の口を開けているソレは、人間とはかけ離れていて近づきたいと思うはずなし。
及び腰な舞に、モンスターが喋りかける。嫌な笑みを浮かべて。
『どうした人間、怖いのか…?まぁ貴様のような吹けば飛ぶほど頭の軽い女には俺のことをどうにもできんだろうが。』
「聞き捨てならんな!」
「……ダンジョンくん…」
モンスターの言葉を否定するように、ダンジョンマスターは舞の前に立つ。
そして正々堂々とこう言った。
「確かにこの女の頭は軽いかもしれんが、吹いても飛ばんぞ!」
「そもそも私の頭は軽くないわよ!」
『はぁ。全く喧しい…女の声はどうしてこんなにも頭に響くのか…』
「奇遇だな!俺も丁度、この女の声で頭痛がしてきた所だ!」
「アンタどっちの味方なのよ!?」
いきなりモンスターの言葉に同調するダンジョンマスター。
自身を庇ってくれると思っていた舞は、そんな彼に突っ込む。
『女、声のボリュームを落とせ。それと気の強い奴は婚期が遅れるぞ…』
「だそうだ。婚期を遅らせないよう、お淑やかにするんだな。」
「……………学校の奴らも………アンタらも……好き勝手言って………」
わなわな震える舞。とうとう堪忍袋の尾が切れた、というところか。
舞はダンジョンマスターを小突いた後、手に持っていた釘付きバットを奪い取る。
「ぶっ倒してやるわ!」
バット片手に女はモンスターへ駆け出す。件のモンスターは、植物性の右手を舞目掛け伸ばした。
舞は成すすべなく捕まり彼女の足も止まる、かと思ったが
「ぐぬぬぬぬぬ、こんの野郎、絶対、ぶっ倒す…!」
根気溢れ出す舞の足は、たかが植物に歩みを止められる程弱くない。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
『何っ!?』
フルスイングのバットはモンスターの頭にクリーンヒット。
モンスターと言えど生き物であることは限りなし。頭に衝撃を受けたモンスターは倒れ込み、動くことはなくなった。
「は、はぁ。やった…。ってアンタ何してんのよ!?」
「このモンスターの皮で鞄を作るんだ。」
「何もしてないのに持ってくんじゃないわよ!はぁ…なんか疲れた……。」
倒したモンスターの体をベタベタ触るダンジョンマスター。彼とは別に舞は疲れたと、長く息を吐く。
「そういえば何故、死のうと思ったんだ?」
「……急ね……。別に。ただ嫌になったのよ。ありもしない噂言いふらす学校の奴らのこととか、言い返せない弱い自分が…。」
「言い返せない……うーむ。だがやり返すとスッキリするんじゃないか?」
「そうね。確かに、好き勝手言ったモンスター倒したらスッキリしたわ。」
「あぁ。恐らくお前は自分が思っているほど弱くないぞ。むしろ暴力的だ。自信を持て!」
「一言多いわね!」
床に座っていた舞は何か決心したのか、立ち上がって明るく言う。
「ねぇ、ここから出たいんだけど出口ってある?」
「勿論。確かこっちだ。」
皮を剥いでいたダンジョンマスターは、行きと同じように舞を先導する。
暗がりを抜けると、彼らの前には重たい扉がそびえ立っていた。
「ここを通ると元いた場所に戻れる。」
「そっか。それじゃ、私帰るわ。」
扉を開けて、最後に舞は振り向き言葉を告げる。
「あのさ、ありがとう!思ったより楽しかった!」
「そうか。ダンジョンに感謝するといい。」
「………アンタはどんだけダンジョン好きなわけ…?」
笑顔と、ちょっぴり呆れた表情を見せた彼女はそうして扉の先に行ってしまった。
「さて、早速鞄を作るぞ〜!」
舞との別れから直ぐ様切り替えた男。いつものように、今日も今日とて大好きなダンジョンを堪能するのだった。




