表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

オートな先輩

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 勝手に、あらゆることをやってくれる。

 オートメーション化というのは、人類の求めに応じたある意味理想の効率化といえるのではないか、とは友達が話していましたが、先輩はいかがお考えです?

 私としては、融通がきかないのがなんとも怖いところだと思います。個々人の事情とか、機械が考慮してくれるのはまだまだ先のことと考えているんで。

 心情、事情を無視して空気読まないことをやり、大損害をもたらすんじゃないかと思っているんです。人間の柔軟さに追いつくのは、まだまだ先のことだろうな、と。


 ああ、とことんディスりたいわけじゃないですよ。

 融通がきかないということは、ややもすれば見逃しがちなところも、容赦なく突き詰めるわけですから。

 私たちには見えない、分からないことでも、機械たちには見えているし、分かっている……ね、これもまた怖いところと思いませんか?

 私も少し前に体験した妙なことがありましてね。そのときのこと、聞いてみません?


 あれは夕方のバイトシフトに入っていたときでしたか。

 私、たまたま受付メインの業務をしていたんです。ま、あくまで窓口の役割に終始しているんで、ちょっとでも詳しい話はお勤めの別の人に取り次ぐんですけどね。

 ですので、私はせいぜいやってきた人がどこのどんな人なのかを、正確に伝えられればいいんです。あとは愛想よくニコニコお出迎えですか。たまにはパンフレットの整理とかも頼まれますが。


 で、その日の勤務時間終了も近づくころ。

 終わり際って、つい時計を気にしちゃうんですよね。私は残業とか絶対にNOな人間なので、ちょうどになったら即撤退してやろうと、受付デスク下の書類たちをごそごそやっていたんです。

 そこへふと、自動ドアが開く気配が。

 コンビニではないのですが、私の働いているところですとお客様がいらしたときは、必ず「いらっしゃいませ」といえというおおせがありまして。

 いわく、誰かがやってきたときには、ちくいち反応することが大切だと。

 仕事場にいる皆へ来客を周知できるし、こそこそ入ろうとする不届き者がいても、声を掛けることによって「お前に気づいているぜ」という注意を喚起できる。

 それが防犯の一歩なのだと。


「いらっしゃいませ~」


 ありったけの元気を集めて挨拶したのだけど、その目がとらえたのは盛大に開いた自動ドアと、外の景色だけ。

 誰がやってきたか分からない。もしかして見逃した? とあちらこちらへ目をやるけれど、判断がつくはずがない。

 時間は刻一刻と迫るけれども、落ち着きはしませんね~。私、自分のしたミスはけっこう引きずるタイプなんです。先輩だってご存じでしょう?

 何事もそつなくこなして、落ち度がない存在として認識してもらいたい。ある意味、それは機械のようかもしれませんね。


 結局、先ほどのドアを開けた御仁の正体は分からないまま。勤務時間は終わりを迎えます。

 ささっと着替えを済ませ、「お疲れ様です~」と声をかけながら外へ出ようとしたんですね。例の自動ドアからですよ。

 しかし、反応してくれません。近寄っても、ドアはこそりとも動かなかったんです。

 いや、いくら小柄な方だからって、ここまでのことは一度もなかったんですよ? なめられている感じがしません?

 どんどん、とその場でジャンプしてみても同じです。不動の構え。

 ドア上の認識ランプは赤く点灯しています。確かに私はここにいるのに。

 いっそのことスイッチを切って、外へ出てやろうか……そんな心地さえしてきたとき。


「お辞儀をしてみてはどうかな?」


 先ほど挨拶をした、私の直接の上司というかリーダーに当たる人でした。

 リーダーいわく、確かめたいことがあるとのことでして。私はドアに向かって最敬礼をすることになったんです。


 奇妙でしたよ。ドアからは人ひとり分ほど距離をとっているし、頭をたっぷり下げたからといって、触れる余地はないんです。

 それが頭を下げきったところで、強く押し出されるような気配を感じたんです。

 両肩のあたりですね。ただのコリなんかと一緒にするのもはばかられる強さで、気を抜いたならば、頭を下げたまま後ずさってしまいそうでした。

「……分かった、いいよ」とリーダーにいわれて、顔をあげた私が見たのは、自動ドアのガラスにべったりついた、二つの手形だったんです。

 いずれも、指や手のひらに当たるところから、茶色い泥水のようなものを垂らしていく。いかにもフレッシュといったところでしょうか。

 リーダーに、誰もいないのに自動ドアが開いたことがないかと問われ、先ほどのことを伝えると「またあったんだな」とひとこと。

 私はそのまま、このお店の事務室の神棚下まで連れてこられます。


「私も当初は信じがたかったんだが、ここの神様は外出が好きらしくてね。ふとした拍子に出て行って、また戻ってくるのさ。

 君が見たのは戻ってくる時だったのだろうが、君がちょうど出ていく気配を見せたから、また出ていけると期待をもってくっついてしまったんだろう。それを自動ドアが敏感に反応して『もう出ちゃいけませんよ』と注意したところか」


 リーダーは神棚の傍らにさしてある、榊の枝をとると私の両肩をぽんぽんと、なでていきます。

 その後、神棚へ手を合わせたのち、榊の枝を戻して「これで大丈夫」とのこと。

 再び赴いた自動ドアは、あっさりと私の帰る道を開けてくれましたよ。

 自動ドアも私にとっては、ものすごい先輩だったんですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とても面白かったです。 神様にすら注意出来るなんて、確かにちょっと融通がきかなそうだけど真面目で頼もしい存在かもと思ったりです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ