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キングダム  作者: pickme
3/5

その3 Welcome!

その3 Welcome!




 灰色・・・


 道も建物も乗り物も。そして空も。多分空気も。


 コロニーのほうが、まだ綺麗だった。


 かつての地球をそのまま写し取ったといわれているコロニー。植物も土も、微生物も、動植物も全て地球から持ちこみ、今ではコロニー内部で小さな生態系を確保するまでになっている。ひしめくビル群の代わりに総合居住区と名づけられた中央の巨大な建物。その周りにある緑地と公園。古い町並みをそのまま再現したコロニーアルファ政府の建物や工場。そして、学院・・。投射された青空で包み込まれた、完璧な、美しい箱庭。エアーコントロールは完璧で、いつでも常春にしておくことができる。


 それなのに、本物の方が、死んだ色をしている。


 こうやってこの星を殺したのは、一体誰?


 「ああ、雨が降り出したね。今日は、そんな予定だったかな」


 予定って・・じゃぁ、違う場合があるの?


 長閑なトリヨの言葉に、セリカはまじまじと相手を見返す。


 「うーん。最近、老朽化しているからなぁ。シティーの天候制御装置。ああ、そんな顔しなくても大丈夫。メインのエアーコントロールシステムが異常をきたさない限り、死にはしないよ。問題はやっぱり、汚染物質だし」


 実験を繰り返した核爆弾の名残と、放射能汚染物質、工場から吹き上げる煙に含まれる様々な汚染物質、排気ガス。それらは核戦争をささやかれていた日々に着々と大気に蓄積されて世界中に蔓延した。


 やがて人々は気づくことになる。核戦争をしなくても、このままでは滅びの道を辿ると。疲弊していくばかりの土地、人々は外の空気を満足に吸うことも出来なくなり、病が蔓延した。人は、毒素を含む空気を締め出す半球をかぶせた形のドームを作り、そこでようやく生活を営んでいる。ドームの外の世界は死の世界だ。巻き起こる砂。容赦のない紫外線。毒素を含んだ空気は、乾いた風に巻き上げられ、全てを汚染していっている。植物はもちろん、生物のいない世界へとなっているのだ。


 人々はその限られた狭い土地の中で、身を寄せ合うように暮らしていかなければならなかった。


 「あの・・」


 ウィーン・・小さな電子音がして、窓の外に、もう一枚の黒いガラスがせりあがってきた。みるみるうちに、視界が閉ざされる。


 「大丈夫。今から地下入るから。それだけだよ」


 にこやかにトリヨは説明する。


 「地下に入って、上がったところが到着。ああ何?もうちょっと、シティーのほう、見たかった?でもあそこら辺、スラム状態になっていて、結構危ないからね。セリカちゃんなら、護衛連れて行かなきゃ もっとも、あの黒服のお兄さん達は凄かったけどね」


 ちらっとセリカはどこか呑気に言うトリヨを見る。


 融通の効かない護衛達を、どう言いくるめたのか。その中の一人は、アブルの諜報員だと言うのに。

セリカを案内するのは、この学院からの迎えと称する青年だけだった。護衛は空港で戻っていった。

読めない人物。


 のんきそうな顔をしているが。


 荒廃している都市など見たいとも思わない。


 すぐに視線を逸らして前を向く。オートメーション操作の車には、二人のほかに人影はない。前が次第に明るくなってきた。


 スモークガラスが下り、光が差しこんでくる。


 え?


 曇っているけど・・明るい。


 先ほどまでの暗澹たる空とは、どこか違っている。一つ膜を取り払ったようだ。


 かちゃり。


 不意に開けられたドア。いつの間にか、車は止まっていたのだ。そこから手を差し出して、ふっと彼はメガネ越しに水色の目を細めた。


 「ようこそ、キングダムへ」






 「皆―っ 連れてきたよー」


 ばぁんっ


 派手に扉を手で開き、トリヨは堂々中に入る。


 あっけに取られて、セリカはその場に突っ立っていた。


 真っ白の光が、部屋中に満ちていて、眩しい。目を細めた。


 初対面となるであろう学長に、緊張する目を向けた・・・のだが。


 「おっそーいっ」


 ものすごい勢いで、言葉が返ってきた。


 だんっと足を踏み鳴らす、ほっそりとした人影。頭が大きい?否、髪?


 「トリヨ、何していたの?まさか、余計なことしようとしたんじゃないでしょうね。セリカは疲れているんだし、初日から早々に何かぶちかましたり、してない?!」


 光を背に、逆光の中を二王立ちしているのは、どう見ても女の子。随分と若い。同い年くらいではないだろうか。褐色の肌の美少女は、腰までのふわふわの波打つ髪を後ろに払って喚く。


 「パル・・そりゃあんまり」


 件の青年が、がっくりと肩を落とす前で、だんだんと少女は足を踏み鳴らした。


 「あんたには前科があるんですからね!訴えられないうちにとっとと吐くっ」


 びしっと指を突きつける。


 「パルー。大体、まだ予定時間からそう遅れてないでしょ」


 「気にしない気にしない、これはれっきとした八つ当たりだからさ。せっかくの日に、セネとセインが見つからないから」


 ひょいっと第3者が口を挟む。今度は、栗色の綺麗な髪の、美少女と間違えそうな美少年。声を聞かなければ、十分間違えること請負の大きな深いブラウンの目が、小作りの顔にこれ以上はないほどのバランスで収まっている。こちらも随分と若い。その印象的な目で、セリカを見てにっこりと笑う。


 「パル、彼女、びっくりしているよ?」


 「ティファ。前前から思っていたんだけど、唐突に人の話に絡むの、止めなさいよね」


 さすがにまずいと思ったのか、ややトーンを下げてパルはティファをこづく。


 「セネのことになると、見境ないから」


 ティファは肩をすくめた。


 「そうよパル。落ち着いて」


 奥からもう一人が、宥めるように少女の方に手を置く。さらりと頭を傾けて髪を流す。こちらは対照的に抜けるような白い肌と真っ直ぐの金茶の髪をした少女は、人形のような綺麗な顔に、笑顔を浮かべた。


 「まずは、自己紹介をしましょう。私は、アルシナ・ファターダ。アーナと呼んでね」


 それが一番建設的だと気付き、パルは頷いた。そうそう、としたり顔で頷いているティファの肩を小突くのを忘れない。


 「私はパル。パフィーラ・メデオ、よ。ごめんなさい、びっくりさせてしまったわね。一応、副会長をしているの」


 やや頬を赤らめながら、勝気な少女は名乗った。


 副会長?


 「僕はテッド。テオルファ・ハイナーガード。よろしく」


 笑みを含んだ茶色の目で、小首を傾げるように挨拶する。潤んだように揺らめいている目が、不思議な空気をかもし出している。


 「テッドなんてよく言うわ。気にしないでね。ティファって呼んでやって」


 いたずらっぽく笑って、パルはティファの額をつんとつつく。


 「パルー君ねぇっ こっちこそ前前から言おうと思っていたんだけど、いい加減その呼び名、止めろよなーっ」


 実に嫌そうな顔で、美少年は少女に文句をぶつける。が、パルは澄ましたものだ。


 「いいじゃないの。もう皆使っているんだし」


 「よくなーい!それ、女の子の呼び名って、まさか分かっていないはずないよな」


 「いいじゃない。ぴったりなんだから」


 益々ティファは白い顔を赤らめる。その様は、確かに麗しい美少女そのものだ。彼が口を開きかけて、


 「煩いっ あーもう、ろくに眠れやしねー」


 奥のソファーから、さらに一人、伸びをして立ちあがった。


 がしがしと短い金髪の頭を掻きながらあくびを漏らしている。


 「あー。アーウィン、ちょうど良かった。彼女、着いているわよ?」


 パルが手招く。


 「え?ああ、そっか」


 すらっとした影が立ちあがった。年はさほど変わりなさそうだが、群を抜く長身だ。トリヨと変わらない。


 「よろしく、アーウィン・シエンジェだ」


 どこか寝ぼけ眼で、彼は手を差し出す。晴れ渡ったような青い目が印象的な少年。一番体格が良く、細身とは言えしっかりとした骨格をしている。みんなよりほぼ、頭一つ高い。


 「・・・セリカ・トエラです」


 差し出された手にようやく我に返って挨拶をする。どうやらこちらの自己紹介は不要らしい。


 「あとは、セインとセネ、よね。どこにいるのかしら。あいつら」


 「二人とも没頭し出したら耳に入らないからねー」


 うーむとトリヨが腕組する。


 「コール、鳴らしているんでしょ?」


 アーナがパルに確認する。


 「ボリュームMAXでね。仕方ないわ。それは後にして」


 「そうそう。後にして取りあえず」



 『キングダムへようこそ!』



 笑顔で、彼らは大合唱、した。

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