神様みたいな彼女は僕のためなら何だってする
これは僕の初恋の人の話です。
その日は昼過ぎから雨が降り始めました。僕が学校を出ようとしたとき、同年代くらいの女の子が傘をささずに走って出ていきました。
彼女は空を見て立ち止まったので、傘を貸してあげるべきか、声をかけるべきか迷っていました。ようやく声をかけようと決心し、彼女に近づくと突然彼女は指を鳴らしました。
そうしたら、雲が割れて光が降り注ぎました。日光に照らされた彼女の顔の美しさたるや!晴れ渡るような笑顔で走っていく彼女を追いかけようとしましたが、すぐに見えなくなりました。
次の日から、悶々とした日々が続きました。もう一度彼女に会いたい。彼女の顔を見たい。けれども、学年もクラスも分からない子を探すのは困難でした。
そこで僕は、放課後になったらすぐに学校の玄関に行き、そこから出てくる人を全員見ることにしました。当然みんなから怪訝な目で見られましたが、僕は気にしませんでした。
ついに、僕は彼女を見つけました。あまりの嬉しさに、僕は固まってしまいました。彼女は僕の方を一瞥もせず、一人でスキップしていきました。慌てて追いかけて、見失いそうになりましたが何とか追いつきました。
彼女は野良犬に近づき、頭を撫でていました。その犬は老いて目が見えないようでした。彼女もそれに気がついたようで、犬の目を真っ直ぐに見つめていました。僕は悔しくて仕方ありませんでした。
彼女は犬を撫でながらその目を開かせ、眼球を素手で引きちぎりました。血がほとばしり、犬は苦しみ悶えました。彼女は暴れる犬を押さえつけ、何かを語りかけていました。
次第に犬の鳴き声が小さくなってきました。弱っているのかと思うと、違いました。新しい眼球が生えてきていたのです。目が見えるようになった犬は、驚き戸惑っているようでした。
犬を抱きかかえ慈愛の表情を向けている彼女を、その犬は失礼にも弾き飛ばし、僕の方に向かって逃げてきました。驚いて尻もちをついた僕と彼女の目が合いました。
僕は彼女に向かって叫びました。
「僕の目も、あの犬のようにして!」
彼女はそれを聞いてせせら笑いました。
「あなたの目は、ちゃんと見えてるじゃない」
僕は直ちに近くにあった棒で自分の右目を突き刺しました。燃えるような痛みに思わず叫びました。彼女は嬉しそうに大笑いし、僕の頭を撫でました。そして目に刺さった棒を引き抜き、眼球を柔らかな手で引きちぎりました。
痛みより嬉しさが勝っていました。彼女は今、僕だけを見ているのです。痛みもやがてなくなり、右目が見えるようになりました。
そのときから、僕と彼女は付き合うことになりました。僕はこの右目を通して、常に彼女を感じられるのです。きっと彼女も、僕の右目を通して僕の見ているものを見ることができるのでしょう。
彼女は意外と嫉妬深くて、僕が他の女の子と話すのを許しませんでした。僕と関わった女の子にはみんな不幸なことが起こりました。でもそのたびに、僕は彼女の思いを感じられて嬉しくなったんです。彼女は僕のためにそこまでしてくれるんだと……
「だから、あなたは僕のためにここで死ぬんです」
僕がここまでの話をしていたのは、一夜を共にした女である。
「意味分かんない!なんで私が死ななきゃならないの!」
その女は逃げ出そうとしたが、僕は止めなかった。そんなことをしても「彼女」の力の前では意味がないと分かっていたからである。女が部屋を出る前にドアが開き、女は悲鳴を上げた。
女の手から花が生えてきていた。女は苦しみながら、やがて全身が花に変わってしまった。