山茶花( み )
「どしたのモカ、むずかしー顔して」
「え、モカそんなむずかしい顔してた?」
「うん。授業中からずっと。今日はあんま、寝てなかったみたいだし。どした? 急に勉強に目覚めた感じ?」
「う、うーんまあ、そんな感じ? やっぱりそろそろ、本気出してかなきゃ、みたいな?」
「おおーエラいじゃん。じゃ、冬休みの課題もバッチリだね」
「えっうそ、冬休みの課題なんか出てた?」
「そこは聞いてなかったんか……」
「聞いてなかった……てか起きてたけど、先生の言ってたことほとんど頭入ってなかった……」
「まあ、そんなことだろーと思ってたよ。後でメモ見せるから」
「うう、ごめんね歩季。いつも頼ってばっかで……」
「いーってそんくらい」
「てか、冬休みに課題出すとか先生ひどくない? 冬休みなんて5日までしかないじゃん」
「ホントそれ」
「ていうか冬休み、短すぎるよ。もっとぱーっと、1か月くらい休みならいいのにー」
「いや1か月って」
「へへ、1か月はさすがに盛りすぎか」
「ははっ」
「…………」
「…………」
「……あ、あのさ」
「ん?」
「え、えーっと、先週、代返してくれてありがとね」
「ああ、別に。ていうか朝も言ってたじゃんそれ。ああ、朝っていうか、朝じゃないけど、授業始まる前」
「うん、そーなんだけど、まあ」
「?」
「それでさ、その、まあ、先週は忘年会だったわけなんだけど……その、そこでさ……」
「え、ごめ、ちょ、もっかい言って」
「えっとおー、先週、忘年会でー」
「え、ごめ、ていうかあの――灯油屋うるさっ」
「もー、灯油屋ぁー」
「…………」
「…………」
「……はいドップラー効果ー」
「ドップラー効果ー」
「……くふっ」
「ふふふっ」
「――で、ごめんごめん、なんだっけ」
「あー、えっとねえー、ええと――って今度は、バイクうるさっ」
「うるっっっさ」
「ひぃー」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「――なんっか、年末だねえ」
「ホント、年末だねえ」
「…………」
「…………」
「それで――」
「え、待って歩季」
「ん?」
「バイクヤローって、どーなったの?」
「ぶっ…………それ!? なに急に!? なに言い出すかと思ったら!」
「だってー! 急に思い出したんだもん! ていうか歩季、全然その話してくんなかったじゃーん。気になるよぉー」
「いや、別に……あんなんとっくの昔に別れたし」
「ええー別れちゃったのー!? なんでー!?」
「別に、なんでって……あいつが最低な奴だったってだけだよ。思い出したくもないわ、あんなん」
「えーそっかー……。じゃあ今は? 今は誰か、いい人いないの?」
「別になんもないし。モカこそどうなのさ」
「モカは相変わらずなんもないよー。だってそもそも出会いなくない?」
「わかるわー。なんか生きてるだけじゃ、全然出会いないよね」
「えーでも歩季はさー、バイト先でなんかないのー? 美容師さんとか、イケメン多いじゃん」
「えー、バイトはバイトだしー。てか美容師はナイって」
「えー、なんでー?」
「だって美容師とか3Bじゃん」
「さんびい?」
「知らない? つき合っちゃダメな3つのB。美容師とー、バンドマンとー……あれ、あと1個なんだっけ」
「え、なにそれ知らなーい。そういうのがあるの?」
「そーそー。なんかチャラかったりするから、つき合っても幸せになれないんだって。それで、それがもう1個あったはずなんだけど、なんだったっけなー」
「え、なに? Bで始まる人言えばいいの?」
「そーそー。Bで始まる職業」
「ビー、ビ、ビ……ビジネスマン?」
「いや広すぎっしょ。働いてる人みんなそーじゃん」
「たしかにwえーじゃあなんだー? ビー、ビーでしょー?」
「ビーっていうか、バ行全部行けるよ」
「あ、そっか。バ、ビ、ブ……ぶ、部長とか?」
「あー、それは危ないねー。危ない匂いするねー」
「部長はたしかに……危ないね」
「だって部長とか不倫じゃん」
「部長は絶対……不倫だね」
「絶対都合よく利用されてるだけだし」
「そーそー」
「でさ、いざとなったら『妻とは別れる』とか言うんだけどさ」
「うわ出た、言うやつだ」
「絶対別れないんだよ」
「信じちゃダメなやつだね」
「それで時間だけムダにしてさ」
「あー、貴重な20代の時間が」
「だから部長はダメだ。部長は絶対、つき合っちゃダメだ」
「ダメだね。部長は幸せになれないね」
「でもねモカ。なんか、そーゆーんじゃなかった」
「違ったかー」
「うん。なんかこう、もっとチャラそーな人だった。なんか、カタカナだった」
「カタカナかー。カタカナでバ行かー」
「うーん、なんだったっけなー」
「……わかった」
「お、わかった?」
「うん。モカねえ、完全にわかったわ」
「え、なになに?」
「バイクヤロー」
「それだあーっ! それだったかー!」
「それだったー! それだったねー!」
「もっと早く気づいときゃよかったー。だから私は幸せになれなかったのかー」
「ちょっっと遅かったね! ちょっっっとだけ気づくの遅かったねー! でも大丈夫! もうこれで学習したから! もう次は幸せになれるから!」
「思い出したけどバーテンダーだわ」
「ええー」
「…………」
「…………」
「…………いやwなにwいまのwwやりとりwww」
「ねえ歩季wいつww思い出したのwww」
「あのねえwモカが『わかった』っつった瞬間ww」
「なにそれww言ってしwww」
「いやwなんかww面白かったからwww」
「wwwww」
「茶w番www」
「wwwww」
「……あーおっかし」
「おっかし」
「ふふ」
「へへへっ」
「…………」
「…………」
「今日も寄ってくっしょ、どーせ」
「寄ってくー」
「うわ見て、もう門松とか飾ってるわ」
「えーもう!? 昨日までクリスマスだったばっかじゃん!」
「もーホント、クリスマス終わった途端、お正月なんだから」
「ねー……。もうちょっと余韻ほしかったよー」
「どーせレジ前とかもう、かがみもちとか売ってんだよきっと」
「もー早いよぉー……って待って、あの家今日、イルミやってた!?」
「あ、やってなかったかも」
「なにさー、どこもみんな、あっという間にー」
「うわ見て、恵方巻予約だって」
「えー今度は恵方巻ー!?」
「ホント、ついてけないね」
「ついてけないよーもう……」
◇
「ありがとうございましたー」
「…………」
「…………」
「…………ぷっ」
「…………くふふっ」
「あっははは!」
「あっはははは!」
「ねえ、めっちゃクリスマスだったじゃん」
「ね! めっちゃクリスマスだったね」
「もうさ、どんだけチキン積んでんのさ」
「ね! しかも半額ってヤバくない?」
「ホント、どんだけ発注したんだし」
「でもラッキーだったね! だって、半額って言ったらもう……半額だよ!?」
「ふふ、そだね」
「しかも、ケーキも、あとあのブーツのやつとかも半額だったし! もうお祭りじゃん! クリスマス当日以上にお祭りだったじゃん!」
「ね! でもホントに買わんくてよかったの? ケーキ」
「だってモカ、昨日もおとといもケーキ食べたもん!」
「そか」
「ちょっとカロリー摂りすぎだから、このチキンだけで今日はじゅーぶん!」
「そかそか」
「あっ、歩季ケーキ食べたかった?」
「ううん。私は別に。ただ、モカが食べたかったかなーって思って」
「そかそか、でもモカは大丈夫! さ、食べよ食べよ!」
「うん」
「なにげにモカ、このタイプのチキン食べるの、初めてかも」
「あ、もしかしたら私もかも。普通のと違って、高いもんねこれ」
「そーそー。でも今日は、なってったって半額だし!」
「ね」
「――うーん、いい匂い!」
「ホントだね。おいしそ」
「それじゃあ早速――」
「早速――」
「なんだろ」
「え?」
「メリークリスマスじゃ、もうおかしいかな」
「ああ。まあそーだねえ、過ぎちゃったしねえ」
「なんか過去っぽくする?」
「過去?」
「わずとか」
「わずwまあなんでもいいけどw」
「よし、それじゃあ――」
「メリークリスマスわず〜!」
「メリークリスマス……わずー」
「「いただきまーす」」
「ん」
「うん!」
「おいっし」
「おいしいねえ」
「なんか、普通のチキンと全然違う」
「ね! 予想の斜め上の味する!」
「ホントそれ」
「なんかー、想像してた味がこの辺だとしたらー、この辺! って感じ」
「ふふ、でもわかる。クリスマスの味って感じ」
「クリスマスの味! それだわ!」
「なんだろね、スパイス? ホントおいし」
「ね、皮もパリパリだし」
「うんうん」
「お肉も柔らかいし、ホント、クリスマス最高だわ」
「そーいやモカ、クリスマスどうしてたの? 2日連続でケーキ食べたとか、パーティーでもしてた感じ?」
「えっとねー、まず24日はねー、彼氏いない女子5人で集まってー」
「うんうん」
「鍋パしてたの」
「あえての鍋パ!? クリパじゃなくて!?」
「そこはさ、ほら、クリスマスへの反抗というか」
「でも、ケーキは食べたんだ」
「まあ、ケーキはさほら……ケーキだから」
「まあしょーがないか、ケーキはケーキだもんね。じゃあ25日は?」
「25はー、パーティーってほどじゃないけど、家族でチキンとケーキ食べてた」
「おーいいねえ。ザ・クリスマスじゃん」
「えー歩季は? クリスマス、どうしてたの?」
「私ー? 私はバイトだよー」
「えークリスマスもバイトだったのー!? 24・25両方??」
「うん。両方とも」
「そっかー。やっぱクリスマスって、美容院忙しいの?」
「んー、なんか12月全体的に忙しかったんだけどー、でも昨日は逆にヒマだった。25になっちゃうと、もうね」
「そっかー。そーだよね。25日だともう、今更髪やる人もいないか」
「そうそう」
「…………」
「…………」
「ねえ歩季」
「ん?」
「チキンの反対側って、かぶりついたらお行儀悪いかな」
「え、ぜんぜんよくない? むしろそこがいちばんおいしいまであるし」
「じゃー食べちゃお――あ、ホントだおいし」
「ふふっ。私も食べちゃお」
「食べちゃえー」
「ふふ」
「――やば、くちびるギットギト」
「気にしない気にしない」
「へへ。――あーでもホント、おいしかったあ。3日連続でおいしいもの食べれて、モカ幸せー」
「ね。私も思いがけず今日クリスマスできて、よかったわ」
「よかったよかった。――あ、それ、捨ててきちゃうね」
「ああいいよ、私も――」
「いーから、歩季は座っててー。すぐ捨ててきちゃうから」
「……うん。じゃーお願い」
「待っててねー」
「…………」
「――それじゃあ、お疲れ様ですー」
「お疲れ様。よいお年を」
「よいお年をー」
「――お待たせー」
「ありがとね」
「いえいえー」
「なんかホントに、年末だねえ」
「ホントだねえ」
「…………」
「…………」
「あのさ
「ねえ
「「あ」」
「ごめん、いいよモカ」
「いいよ、歩季の方が先だったじゃん」
「でもモカ、今日、さっきからなんか言いたそうだったし」
「そうだけど、でも……」
「…………」
「……やっぱ、歩季から言って」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あのね、モカ」
「うん」
「私、ガッコ辞めんだ」
「つーか、辞めてきた。授業の前に事務室行って、退学届出してきた――ほら」
「そんな顔しないで。――私、4月から美容の専門学校行くことにしたんだ! 見て、ほら!」
「合……格……? すごい! 試験受かったんだ! ていうか受けてたんだ! おめでとう!! ――でも、いつの間に……?」
「ホント、いつの間にって感じだよね。もーこの3週間、めっちゃ忙しかったよ」
「…………」
「一緒に満月見たのが、ちょうど3週間前じゃん? その次の月曜に出願して、試験がその次の週の木曜日。あいだ10日間とかしかないっつーね。その間、バイトのない日はもー必死で、面接と筆記の対策してた」
「え、先週の木曜? ってことは、モカが忘年会行った前の日!? そんな忙しかったのに、モカの代返してくれてたの!?」
「ああ、だってその日はもう、試験も終わって自由だったもん。面接も結構手ごたえあって、これなら大丈夫だなって思って、私も帰りにここで一杯やってたくらいだったし」
「おお、すごい! そうだったんだ! 面接、どんなこと話したの?」
「まあいろいろ。おしゃれが好きなこととか、自分だけじゃなくて、お客さんにキレーになってもらいたいってこととか、あとバイトのことも話したよ」
「おお、面接前に他のお店まで行ったこととか?」
「それはさすがに話さなかったよ。受付で経験したこととかを、まあそれっぽく話した感じ」
「そっか。バイトでいろいろ、がんばってんだたもんね」
「まーね。そんなんだから、いちおー自信はあったんだけど、でもやっぱ、結果届くまではドキドキでさー」
「え、結果って郵送?」
「うん。だからもう、毎日ポスト見てた。でもなかなか届かないから、やっぱダメだったかー? って思って、第2志望の出願の準備とか始めちゃってたんだけど、昨日の夕方、やっと結果来てさ」
「おお、昨日だったんだ!」
「もードキドキで封筒開けて、そんで合格の文字見て、ホッとしたよ。んで、今日早速、入学金払ってきた」
「おお、早速!」
「もー銀行激混みだったよー。で、それからこっち来て事務室行ってさ、そこでもめっちゃ待たされて。それからクラスの子に、挨拶したりして。でもみんな薄情だから、やっぱ辞めんだー、くらいにしか言わないの」
「えーひどーい」
「ま、しょーがないけどね。このガッコじゃ、珍しいことじゃないし。私もここ3週間、受験の準備とバイトの繁忙期で、ロクにガッコ、来てなかったし」
「……そっか」
「あ、ちなみに、先々週の再履の日に休んだのは、ホントにバイトだよ。その日いつもの人がお休みでさ、前々から頼まれてたんだ。そのときはまだ、こんなことになってるなんて思ってなかったんだけどね」
「そうなんだ……」
「そーそー。まーそんなわけで、今に至るって感じ? なーんかずっとバタバタしてて、あっという間だったよ」
「そっか……。でも、でもさ……やっぱりすごいね。そんな忙しいのに、時間もないのに、ちゃんと合格して……。すごいよ。歩季はやっぱりすごいよ」
「そんなことないって」
「そんなこと、あるよ。自信持ちなよ」
「…………」
「――でも、どうして……? この間はまだ、今はまだ、みたいなこと言ってたのに……」
「……言葉ではそんなふうに言ったけどさ、本当は、ずっと考えてたんだ。こんなとこにいないで、早く美容師になりたいって。これ以上もう、貴重な時間、ムダにしたくないって」
「…………」
「でも親説得するなんてムリって思ったし、受付のバイトも楽しいし、このままバイトしながらあと2年過ごしたっていいかなーとも思ったりしてさ……でもそんなこと考えてるあいだに、気になってた学校の2次募集の締め切りが、どんどん近づいてきて。決めるなら早くしないと、今決めないとヤバいって焦ってた。1次募集のときは、そうやって迷ってるあいだに過ぎちゃったし、そうしてるうちに締め切られちゃった学校もあったから……」
「…………」
「ちょーどそんなときだった。モカが背中押してくれたのは」
「え、モカ??」
「そうだよ、モカだよ」
「はぁ……」
「あの日――あの満月の日さ、モカが私のアレンジ、めちゃくちゃ喜んでくれて、もーびっくりするくらい喜んでくれて、将来のことも、大丈夫だよって勇気づけてくれて……それで決心がついたんだ。で、帰ってすぐに、親に言ったんだ。私やっぱり、美容師になりたいって。気持ちが熱いうちに、伝えた方がいいって思ったから……」
「それで――なんて言われたの?」
「最初はもちろん反対されたよ。専門のことだって、せめて2年待って、大学出てから考えればいいじゃないかとも言われた。とにかくまずは、大学出ろって。だから言ってやった」
「…………」
「そんなに末娘が大学出てないのが恥ずかしいのか、そんなに世間体が気になるのか、あんたらの見栄のために私は、あと2年もムダにしなきゃいけないのか――ってね」
「おお」
「姉貴のことも言った。姉貴は東京の大学院までやるってのに、私は将来のための勉強もさせてもらえないのか。この差はなんなんだ。そんなに姉貴が、かわいいのか、って」
「いいねえ、言ったねえ」
「はは、まあそれが効いたみたい。そんなに言うなら、専門でもなんでも受けてみろって。ただし受からなかったら、ちゃんと大学は卒業しろって。受かんないとでも思われたのかな。でも昨日、合格通知見せたら、とうとう納得してくれた。よくがんばったとか、言いやがってさ」
「えーよかったじゃーん」
「ったく、手のひら返しやがって。――まあでもホント、姉貴が好き勝手やるなら、私も好きにやることにした。もう親の言いなりにはならない。姉貴と比べて、落ち込んだりもしない。ちゃんと自分で、生きてくことにした」
「おお……カッコいい……!」
「へへ、さすがにちょっと、カッコつけすぎかな。でも、そう思えたのだって、モカのおかげだからさ」
「またまたー」
「本当だよ。モカのおかげで、姉貴と比べてばっかいてもしょーがないって思えた。モカが喜んでくれたから、自分が本当になにがしたいか気づけたし、モカが大丈夫って言ってくれたから、大丈夫だって思えた。本当みんな、モカがいてくれたからだよ。背中を押してくれて、ありがとね」
「…………」
「えーなにー? 泣くのー!?」
「…………っ」
「待って、なに泣きー?」
「だって……だって歩季が、やりたいことできるの、本当うれしいけど、試験受かったのも、親に納得してもらえたのも、全部全部、うれしいけど……だから本当は、笑っておめでとうって言ってあげたかったけど……」
「…………っ」
「でも……やっぱりさみしい……!」
「モカ……」
「だってモカ、まだ歩季と一緒にいたかった……! 授業だって一緒に受けたかったし……授業とか……再履とかモカ、ホントはめちゃくちゃイヤだったけど、歩季と一緒ならがんばろうって思えたし、ううんホントは寝ちゃったけど、でも普段だったらモカ、あんな前で授業受けることなんて絶対なかったのに、歩季の隣だったら大丈夫だったし……それに……それにいちばんは……」
「モカ……」
「歩季とこーやって、これからも一緒に帰りたかった……! もっと寄り道、したかった! だって歩季と一緒だったら、おでんも肉まんも、いつもよりずっとずっとおいしかったし、コーンスープだって、あっ、コーンスープ! コーンスープの飲み方とか、歩季にまた教えてもらおうと思ってたのに! わかってたら今日、コーンスープにしてたのに……だって、今日こんな、こんな、いきなり最後だなんて思わなかっ……」
「モカ……」
「……だって、だって誕生日だってお祝いしてくれるって言ったじゃん……! 一緒にモンブラン食べるって……ザンってやるって……忘れないって……約束だって……」
「モカ、ごめん……」
「うっ……っ……」
「ごめん、モカ……本当にごめん……」
「……っく……ケホッ、ケホッ」
「……モカ?」
「ケホッ…………っ! ゲホゲホッ!!」
「ちょっ、大丈夫!? あーもう泣きムセ」
「ゲボッ、ゲッホゲホ!」
「ほら、これ飲んで!」
「んっ……――あ、甘い」
「――もうヘーキ?」
「うん。歩季、こんな甘いのも飲むんだ」
「……本当は私も、苦いの苦手なんだ。甘い方が好き」
「そーなの!? だってブラックとか飲んでたから……」
「それは、そーでもしないと、やってけなかったから」
「…………」
「本当はね、私、勉強なんか、大っっっ嫌いなんだ。授業も全然ついてけないし、机に向かうだけで眠くなるし。コーヒーでも入れて、うんと前にでも座らないと、先生の話なんて全然頭入んなかった。でも単位取らないとバイトも続けさせてもらえないし、さっさと卒業して、美容の道に進みたかったから……」
「歩季……」
「でも、やっぱりしんどかった。毎日毎日、嫌でたまんなかった。親にはカッコつけたこと言ったけど、普通にこのままあと2年は、無理だったかもしれない」
「そうだったんだ……。それだけ歩季は、つらいなかで、がんばってたんだね」
「まー、がんばってたのうちに入るのか、わからんけどさ」
「ううん、入るよ。歩季は本当に、がんばり屋さん。でももう、大丈夫だよ。自分にウソついたりしないで。これからはもう、歩季の好きなことを、やってってね」
「ありがとう。でも、モカには本当、ごめん。相談もせずにこんな、急に最後になっちゃって。いきなりこんな、びっくりさせちゃって……」
「ううん、もういいの。モカこそ、ワガママ言ってごめん。本当はとっても、モカもうれしいよ」
「……まあ、そんなにびっくりも、してないか。モカもなんとなく、察してくれてたんだよね」
「え……」
「奈緒子から聞いたからさ。フラ語のスピーチのことでモカに相談したとき、私がずっと来てなかったことも話したって」
「あ……」
「それにモカ、今日ずっと、なにか言いたそうな顔してたから……」
「そーいや歩季、スピーチどうしたの?」
「え? ――ああ、うけるから、ちゃんとやったよ。私はもう成績とかどうでもいいけど、それじゃあ奈緒子がかわいそうだから」
「おお、そうなんだ!」
「もー大変だったよ。せっかく試験終わったと思ったのに、今度は教科書開いて、スピーチの文章考えてさ。授業ももう出てなかったのに、それだけのためにガッコ来て。練習もほとんどできなかったからボロボロだったけど、それでもまあ、なんとかなったかな」
「おお、大変だったね。でも最後までちゃんとやって、やっぱり歩季、そういうとこすごいな」
「つっても、奈緒子に言われるまで、私もすっかり忘れてたんだけどね」
「それでもすごいよ。自分だけじゃなくて、奈緒子のことも考えて……歩季は本当に、本当にすごい」
「はは、ありがと。でもモカも、すごいすごいばっか言ってないで、ちゃんとがんばるんだよ」
「ええーモカはムリだよー。歩季みたいに、ちゃんとしてないし……」
「そんなこと言わないの! ほら! これあげるから」
「……ノート?」
「テスト前に見せるって、約束したでしょ?」
「う、うん。そーだけど、こんな、現物……いいの?」
「だってもう、私には必要ないから」
「…………」
「誕プレの代わりって言ったら、ちょっとしょぼすぎるけどさ」
「……ううん、ありがと」
「ほら、課題もちゃんとメモったから。これ見て勉強して、ちゃんと再履、単位取るんだよ」
「うっ……取れるかなあ……」
「大丈夫だって、がんばりな? 私は私で、人生の再履、がんばるからさ」
「――――」
「ね?」
「――…わかった。モカもがんばる……!」
◇
「ほら、そろそろ行きな。もうすぐそっち、電車来るっしょ」
「でも、歩季見送ってから……」
「いーから行きなって。本数少ないんだから、ほら!」
「…………」
「別に永遠の別れって決まったわけじゃないんだから。いつでもお店おいで?」
「…………」
「そだ、私が美容師になったら、指名してよ。サービスするからさ」
「……うん。そーする」
「それじゃあ……」
「うん、行くね。……歩季、ありがとう。歩季といられて、本当に楽しかった」
「私もだよ」
「歩季、元気でね……! 歩季の夢が叶うように……モカ、応援してるから……!」
「ありがと……モカ」
(山茶花・fin)
「山茶花」の物語は以上となります。更新が遅れたにもかかわらず、最後までお読みくださり本当にありがとうございました。
さて、真冬の間は花もお休み。
ということで、次のエピソードは、少し間を空けまして2月13日(金)18時頃の公開となります。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。




