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枝先の彼女【一年かけて季節を一周する短編集】  作者: 笠原たすき
山茶花

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33/33

山茶花( み )

「どしたのモカ、むずかしー顔して」

「え、モカそんなむずかしい顔してた?」


「うん。授業中からずっと。今日はあんま、寝てなかったみたいだし。どした? 急に勉強に目覚めた感じ?」

「う、うーんまあ、そんな感じ? やっぱりそろそろ、本気出してかなきゃ、みたいな?」


「おおーエラいじゃん。じゃ、冬休みの課題もバッチリだね」

「えっうそ、冬休みの課題なんか出てた?」


「そこは聞いてなかったんか……」

「聞いてなかった……てか起きてたけど、先生の言ってたことほとんど頭入ってなかった……」


「まあ、そんなことだろーと思ってたよ。後でメモ見せるから」

「うう、ごめんね歩季。いつも頼ってばっかで……」


「いーってそんくらい」

「てか、冬休みに課題出すとか先生ひどくない? 冬休みなんて5日までしかないじゃん」


「ホントそれ」

「ていうか冬休み、短すぎるよ。もっとぱーっと、1か月くらい休みならいいのにー」


「いや1か月って」

「へへ、1か月はさすがに盛りすぎか」


「ははっ」

「…………」


「…………」

「……あ、あのさ」


「ん?」

「え、えーっと、先週、代返してくれてありがとね」


「ああ、別に。ていうか朝も言ってたじゃんそれ。ああ、朝っていうか、朝じゃないけど、授業始まる前」

「うん、そーなんだけど、まあ」


「?」

「それでさ、その、まあ、先週は忘年会だったわけなんだけど……その、そこでさ……」


「え、ごめ、ちょ、もっかい言って」

「えっとおー、先週、忘年会でー」


「え、ごめ、ていうかあの――灯油屋うるさっ」

「もー、灯油屋ぁー」


「…………」

「…………」


「……はいドップラー効果ー」

「ドップラー効果ー」


「……くふっ」

「ふふふっ」


「――で、ごめんごめん、なんだっけ」

「あー、えっとねえー、ええと――って今度は、バイクうるさっ」


「うるっっっさ」

「ひぃー」


「…………」

「…………」


「…………」

「…………」


「――なんっか、年末だねえ」

「ホント、年末だねえ」


「…………」

「…………」


「それで――」

「え、待って歩季」


「ん?」

「バイクヤローって、どーなったの?」


「ぶっ…………それ!? なに急に!? なに言い出すかと思ったら!」

「だってー! 急に思い出したんだもん! ていうか歩季、全然その話してくんなかったじゃーん。気になるよぉー」


「いや、別に……あんなんとっくの昔に別れたし」

「ええー別れちゃったのー!? なんでー!?」


「別に、なんでって……あいつが最低な奴だったってだけだよ。思い出したくもないわ、あんなん」

「えーそっかー……。じゃあ今は? 今は誰か、いい人いないの?」


「別になんもないし。モカこそどうなのさ」

「モカは相変わらずなんもないよー。だってそもそも出会いなくない?」


「わかるわー。なんか生きてるだけじゃ、全然出会いないよね」

「えーでも歩季はさー、バイト先でなんかないのー? 美容師さんとか、イケメン多いじゃん」


「えー、バイトはバイトだしー。てか美容師はナイって」

「えー、なんでー?」


「だって美容師とか3Bじゃん」

「さんびい?」


「知らない? つき合っちゃダメな3つのB。美容師とー、バンドマンとー……あれ、あと1個なんだっけ」

「え、なにそれ知らなーい。そういうのがあるの?」


「そーそー。なんかチャラかったりするから、つき合っても幸せになれないんだって。それで、それがもう1個あったはずなんだけど、なんだったっけなー」

「え、なに? Bで始まる人言えばいいの?」


「そーそー。Bで始まる職業」

「ビー、ビ、ビ……ビジネスマン?」


「いや広すぎっしょ。働いてる人みんなそーじゃん」

「たしかにwえーじゃあなんだー? ビー、ビーでしょー?」


「ビーっていうか、バ行全部行けるよ」

「あ、そっか。バ、ビ、ブ……ぶ、部長とか?」


「あー、それは危ないねー。危ない匂いするねー」

「部長はたしかに……危ないね」


「だって部長とか不倫じゃん」

「部長は絶対……不倫だね」


「絶対都合よく利用されてるだけだし」

「そーそー」


「でさ、いざとなったら『妻とは別れる』とか言うんだけどさ」

「うわ出た、言うやつだ」


「絶対別れないんだよ」

「信じちゃダメなやつだね」


「それで時間だけムダにしてさ」

「あー、貴重な20代の時間が」


「だから部長はダメだ。部長は絶対、つき合っちゃダメだ」

「ダメだね。部長は幸せになれないね」


「でもねモカ。なんか、そーゆーんじゃなかった」

「違ったかー」


「うん。なんかこう、もっとチャラそーな人だった。なんか、カタカナだった」

「カタカナかー。カタカナでバ行かー」


「うーん、なんだったっけなー」

「……わかった」


「お、わかった?」

「うん。モカねえ、完全にわかったわ」


「え、なになに?」

「バイクヤロー」


「それだあーっ! それだったかー!」

「それだったー! それだったねー!」


「もっと早く気づいときゃよかったー。だから私は幸せになれなかったのかー」

「ちょっっと遅かったね! ちょっっっとだけ気づくの遅かったねー! でも大丈夫! もうこれで学習したから! もう次は幸せになれるから!」


「思い出したけどバーテンダーだわ」

「ええー」


「…………」

「…………」


「…………いやwなにwいまのwwやりとりwww」

「ねえ歩季wいつww思い出したのwww」


「あのねえwモカが『わかった』っつった瞬間ww」

「なにそれww言ってしwww」


「いやwなんかww面白かったからwww」

「wwwww」


「茶w番www」

「wwwww」


「……あーおっかし」

「おっかし」


「ふふ」

「へへへっ」


「…………」

「…………」


「今日も寄ってくっしょ、どーせ」

「寄ってくー」


「うわ見て、もう門松とか飾ってるわ」

「えーもう!? 昨日までクリスマスだったばっかじゃん!」


「もーホント、クリスマス終わった途端、お正月なんだから」

「ねー……。もうちょっと余韻ほしかったよー」


「どーせレジ前とかもう、かがみもちとか売ってんだよきっと」

「もー早いよぉー……って待って、あの家今日、イルミやってた!?」


「あ、やってなかったかも」

「なにさー、どこもみんな、あっという間にー」


「うわ見て、恵方巻予約だって」

「えー今度は恵方巻ー!?」


「ホント、ついてけないね」

「ついてけないよーもう……」


 ◇


「ありがとうございましたー」


「…………」

「…………」


「…………ぷっ」

「…………くふふっ」


「あっははは!」

「あっはははは!」


「ねえ、めっちゃクリスマスだったじゃん」

「ね! めっちゃクリスマスだったね」


「もうさ、どんだけチキン積んでんのさ」

「ね! しかも半額ってヤバくない?」


「ホント、どんだけ発注したんだし」

「でもラッキーだったね! だって、半額って言ったらもう……半額だよ!?」


「ふふ、そだね」

「しかも、ケーキも、あとあのブーツのやつとかも半額だったし! もうお祭りじゃん! クリスマス当日以上にお祭りだったじゃん!」


「ね! でもホントに買わんくてよかったの? ケーキ」

「だってモカ、昨日もおとといもケーキ食べたもん!」


「そか」

「ちょっとカロリー摂りすぎだから、このチキンだけで今日はじゅーぶん!」


「そかそか」

「あっ、歩季ケーキ食べたかった?」


「ううん。私は別に。ただ、モカが食べたかったかなーって思って」

「そかそか、でもモカは大丈夫! さ、食べよ食べよ!」


「うん」

「なにげにモカ、このタイプのチキン食べるの、初めてかも」


「あ、もしかしたら私もかも。普通のと違って、高いもんねこれ」

「そーそー。でも今日は、なってったって半額だし!」


「ね」

「――うーん、いい匂い!」


「ホントだね。おいしそ」

「それじゃあ早速――」


「早速――」

「なんだろ」


「え?」

「メリークリスマスじゃ、もうおかしいかな」


「ああ。まあそーだねえ、過ぎちゃったしねえ」

「なんか過去っぽくする?」


「過去?」

「わずとか」


「わずwまあなんでもいいけどw」

「よし、それじゃあ――」


「メリークリスマスわず〜!」

「メリークリスマス……わずー」


「「いただきまーす」」


「ん」

「うん!」


「おいっし」

「おいしいねえ」


「なんか、普通のチキンと全然違う」

「ね! 予想の斜め上の味する!」


「ホントそれ」

「なんかー、想像してた味がこの辺だとしたらー、この辺! って感じ」


「ふふ、でもわかる。クリスマスの味って感じ」

「クリスマスの味! それだわ!」


「なんだろね、スパイス? ホントおいし」

「ね、皮もパリパリだし」


「うんうん」

「お肉も柔らかいし、ホント、クリスマス最高だわ」


「そーいやモカ、クリスマスどうしてたの? 2日連続でケーキ食べたとか、パーティーでもしてた感じ?」

「えっとねー、まず24日はねー、彼氏いない女子5人で集まってー」


「うんうん」

「鍋パしてたの」


「あえての鍋パ!? クリパじゃなくて!?」

「そこはさ、ほら、クリスマスへの反抗というか」


「でも、ケーキは食べたんだ」

「まあ、ケーキはさほら……ケーキだから」


「まあしょーがないか、ケーキはケーキだもんね。じゃあ25日は?」

「25はー、パーティーってほどじゃないけど、家族でチキンとケーキ食べてた」


「おーいいねえ。ザ・クリスマスじゃん」

「えー歩季は? クリスマス、どうしてたの?」


「私ー? 私はバイトだよー」

「えークリスマスもバイトだったのー!? 24・25両方??」


「うん。両方とも」

「そっかー。やっぱクリスマスって、美容院忙しいの?」


「んー、なんか12月全体的に忙しかったんだけどー、でも昨日は逆にヒマだった。25になっちゃうと、もうね」

「そっかー。そーだよね。25日だともう、今更髪やる人もいないか」


「そうそう」

「…………」


「…………」

「ねえ歩季」


「ん?」

「チキンの反対側って、かぶりついたらお行儀悪いかな」


「え、ぜんぜんよくない? むしろそこがいちばんおいしいまであるし」

「じゃー食べちゃお――あ、ホントだおいし」


「ふふっ。私も食べちゃお」

「食べちゃえー」


「ふふ」

「――やば、くちびるギットギト」


「気にしない気にしない」

「へへ。――あーでもホント、おいしかったあ。3日連続でおいしいもの食べれて、モカ幸せー」


「ね。私も思いがけず今日クリスマスできて、よかったわ」

「よかったよかった。――あ、それ、捨ててきちゃうね」


「ああいいよ、私も――」

「いーから、歩季は座っててー。すぐ捨ててきちゃうから」


「……うん。じゃーお願い」

「待っててねー」


「…………」


「――それじゃあ、お疲れ様ですー」

「お疲れ様。よいお年を」

「よいお年をー」


「――お待たせー」


「ありがとね」

「いえいえー」


「なんかホントに、年末だねえ」

「ホントだねえ」


「…………」

「…………」


「あのさ

「ねえ


「「あ」」


「ごめん、いいよモカ」

「いいよ、歩季の方が先だったじゃん」


「でもモカ、今日、さっきからなんか言いたそうだったし」

「そうだけど、でも……」


「…………」

「……やっぱ、歩季から言って」


「…………」

「…………」


「…………」

「…………」


「……あのね、モカ」

「うん」


「私、ガッコ辞めんだ」



「つーか、辞めてきた。授業の前に事務室行って、退学届出してきた――ほら」



「そんな顔しないで。――私、4月から美容の専門学校行くことにしたんだ! 見て、ほら!」

「合……格……? すごい! 試験受かったんだ! ていうか受けてたんだ! おめでとう!! ――でも、いつの間に……?」


「ホント、いつの間にって感じだよね。もーこの3週間、めっちゃ忙しかったよ」

「…………」


「一緒に満月見たのが、ちょうど3週間前じゃん? その次の月曜に出願して、試験がその次の週の木曜日。あいだ10日間とかしかないっつーね。その間、バイトのない日はもー必死で、面接と筆記の対策してた」

「え、先週の木曜? ってことは、モカが忘年会行った前の日!? そんな忙しかったのに、モカの代返してくれてたの!?」


「ああ、だってその日はもう、試験も終わって自由だったもん。面接も結構手ごたえあって、これなら大丈夫だなって思って、私も帰りにここで一杯やってたくらいだったし」

「おお、すごい! そうだったんだ! 面接、どんなこと話したの?」


「まあいろいろ。おしゃれが好きなこととか、自分だけじゃなくて、お客さんにキレーになってもらいたいってこととか、あとバイトのことも話したよ」

「おお、面接前に他のお店まで行ったこととか?」


「それはさすがに話さなかったよ。受付で経験したこととかを、まあそれっぽく話した感じ」

「そっか。バイトでいろいろ、がんばってんだたもんね」


「まーね。そんなんだから、いちおー自信はあったんだけど、でもやっぱ、結果届くまではドキドキでさー」

「え、結果って郵送?」


「うん。だからもう、毎日ポスト見てた。でもなかなか届かないから、やっぱダメだったかー? って思って、第2志望の出願の準備とか始めちゃってたんだけど、昨日の夕方、やっと結果来てさ」

「おお、昨日だったんだ!」


「もードキドキで封筒開けて、そんで合格の文字見て、ホッとしたよ。んで、今日早速、入学金払ってきた」

「おお、早速!」


「もー銀行激混みだったよー。で、それからこっち来て事務室行ってさ、そこでもめっちゃ待たされて。それからクラスの子に、挨拶したりして。でもみんな薄情だから、やっぱ辞めんだー、くらいにしか言わないの」

「えーひどーい」


「ま、しょーがないけどね。このガッコじゃ、珍しいことじゃないし。私もここ3週間、受験の準備とバイトの繁忙期で、ロクにガッコ、来てなかったし」

「……そっか」


「あ、ちなみに、先々週の再履の日に休んだのは、ホントにバイトだよ。その日いつもの人がお休みでさ、前々から頼まれてたんだ。そのときはまだ、こんなことになってるなんて思ってなかったんだけどね」

「そうなんだ……」


「そーそー。まーそんなわけで、今に至るって感じ? なーんかずっとバタバタしてて、あっという間だったよ」

「そっか……。でも、でもさ……やっぱりすごいね。そんな忙しいのに、時間もないのに、ちゃんと合格して……。すごいよ。歩季はやっぱりすごいよ」


「そんなことないって」

「そんなこと、あるよ。自信持ちなよ」


「…………」

「――でも、どうして……? この間はまだ、今はまだ、みたいなこと言ってたのに……」


「……言葉ではそんなふうに言ったけどさ、本当は、ずっと考えてたんだ。こんなとこにいないで、早く美容師になりたいって。これ以上もう、貴重な時間、ムダにしたくないって」

「…………」


「でも親説得するなんてムリって思ったし、受付のバイトも楽しいし、このままバイトしながらあと2年過ごしたっていいかなーとも思ったりしてさ……でもそんなこと考えてるあいだに、気になってた学校の2次募集の締め切りが、どんどん近づいてきて。決めるなら早くしないと、今決めないとヤバいって焦ってた。1次募集のときは、そうやって迷ってるあいだに過ぎちゃったし、そうしてるうちに締め切られちゃった学校もあったから……」

「…………」


「ちょーどそんなときだった。モカが背中押してくれたのは」

「え、モカ??」


「そうだよ、モカだよ」

「はぁ……」


「あの日――あの満月の日さ、モカが私のアレンジ、めちゃくちゃ喜んでくれて、もーびっくりするくらい喜んでくれて、将来のことも、大丈夫だよって勇気づけてくれて……それで決心がついたんだ。で、帰ってすぐに、親に言ったんだ。私やっぱり、美容師になりたいって。気持ちが熱いうちに、伝えた方がいいって思ったから……」

「それで――なんて言われたの?」


「最初はもちろん反対されたよ。専門のことだって、せめて2年待って、大学出てから考えればいいじゃないかとも言われた。とにかくまずは、大学出ろって。だから言ってやった」

「…………」


「そんなに末娘が大学出てないのが恥ずかしいのか、そんなに世間体が気になるのか、あんたらの見栄のために私は、あと2年もムダにしなきゃいけないのか――ってね」

「おお」


「姉貴のことも言った。姉貴は東京の大学院までやるってのに、私は将来のための勉強もさせてもらえないのか。この差はなんなんだ。そんなに姉貴が、かわいいのか、って」

「いいねえ、言ったねえ」


「はは、まあそれが効いたみたい。そんなに言うなら、専門でもなんでも受けてみろって。ただし受からなかったら、ちゃんと大学は卒業しろって。受かんないとでも思われたのかな。でも昨日、合格通知見せたら、とうとう納得してくれた。よくがんばったとか、言いやがってさ」

「えーよかったじゃーん」


「ったく、手のひら返しやがって。――まあでもホント、姉貴が好き勝手やるなら、私も好きにやることにした。もう親の言いなりにはならない。姉貴と比べて、落ち込んだりもしない。ちゃんと自分で、生きてくことにした」

「おお……カッコいい……!」


「へへ、さすがにちょっと、カッコつけすぎかな。でも、そう思えたのだって、モカのおかげだからさ」

「またまたー」


「本当だよ。モカのおかげで、姉貴と比べてばっかいてもしょーがないって思えた。モカが喜んでくれたから、自分が本当になにがしたいか気づけたし、モカが大丈夫って言ってくれたから、大丈夫だって思えた。本当みんな、モカがいてくれたからだよ。背中を押してくれて、ありがとね」

「…………」


「えーなにー? 泣くのー!?」

「…………っ」


「待って、なに泣きー?」

「だって……だって歩季が、やりたいことできるの、本当うれしいけど、試験受かったのも、親に納得してもらえたのも、全部全部、うれしいけど……だから本当は、笑っておめでとうって言ってあげたかったけど……」


「…………っ」

「でも……やっぱりさみしい……!」


「モカ……」

「だってモカ、まだ歩季と一緒にいたかった……! 授業だって一緒に受けたかったし……授業とか……再履とかモカ、ホントはめちゃくちゃイヤだったけど、歩季と一緒ならがんばろうって思えたし、ううんホントは寝ちゃったけど、でも普段だったらモカ、あんな前で授業受けることなんて絶対なかったのに、歩季の隣だったら大丈夫だったし……それに……それにいちばんは……」


「モカ……」

「歩季とこーやって、これからも一緒に帰りたかった……! もっと寄り道、したかった! だって歩季と一緒だったら、おでんも肉まんも、いつもよりずっとずっとおいしかったし、コーンスープだって、あっ、コーンスープ! コーンスープの飲み方とか、歩季にまた教えてもらおうと思ってたのに! わかってたら今日、コーンスープにしてたのに……だって、今日こんな、こんな、いきなり最後だなんて思わなかっ……」


「モカ……」

「……だって、だって誕生日だってお祝いしてくれるって言ったじゃん……! 一緒にモンブラン食べるって……ザンってやるって……忘れないって……約束だって……」


「モカ、ごめん……」

「うっ……っ……」


「ごめん、モカ……本当にごめん……」

「……っく……ケホッ、ケホッ」


「……モカ?」

「ケホッ…………っ! ゲホゲホッ!!」


「ちょっ、大丈夫!? あーもう泣きムセ」

「ゲボッ、ゲッホゲホ!」


「ほら、これ飲んで!」

「んっ……――あ、甘い」


「――もうヘーキ?」

「うん。歩季、こんな甘いのも飲むんだ」


「……本当は私も、苦いの苦手なんだ。甘い方が好き」

「そーなの!? だってブラックとか飲んでたから……」


「それは、そーでもしないと、やってけなかったから」

「…………」


「本当はね、私、勉強なんか、大っっっ嫌いなんだ。授業も全然ついてけないし、机に向かうだけで眠くなるし。コーヒーでも入れて、うんと前にでも座らないと、先生の話なんて全然頭入んなかった。でも単位取らないとバイトも続けさせてもらえないし、さっさと卒業して、美容の道に進みたかったから……」

「歩季……」


「でも、やっぱりしんどかった。毎日毎日、嫌でたまんなかった。親にはカッコつけたこと言ったけど、普通にこのままあと2年は、無理だったかもしれない」

「そうだったんだ……。それだけ歩季は、つらいなかで、がんばってたんだね」


「まー、がんばってたのうちに入るのか、わからんけどさ」

「ううん、入るよ。歩季は本当に、がんばり屋さん。でももう、大丈夫だよ。自分にウソついたりしないで。これからはもう、歩季の好きなことを、やってってね」


「ありがとう。でも、モカには本当、ごめん。相談もせずにこんな、急に最後になっちゃって。いきなりこんな、びっくりさせちゃって……」

「ううん、もういいの。モカこそ、ワガママ言ってごめん。本当はとっても、モカもうれしいよ」


「……まあ、そんなにびっくりも、してないか。モカもなんとなく、察してくれてたんだよね」

「え……」


「奈緒子から聞いたからさ。フラ語のスピーチのことでモカに相談したとき、私がずっと来てなかったことも話したって」

「あ……」


「それにモカ、今日ずっと、なにか言いたそうな顔してたから……」

「そーいや歩季、スピーチどうしたの?」


「え? ――ああ、うけるから、ちゃんとやったよ。私はもう成績とかどうでもいいけど、それじゃあ奈緒子がかわいそうだから」

「おお、そうなんだ!」


「もー大変だったよ。せっかく試験終わったと思ったのに、今度は教科書開いて、スピーチの文章考えてさ。授業ももう出てなかったのに、それだけのためにガッコ来て。練習もほとんどできなかったからボロボロだったけど、それでもまあ、なんとかなったかな」

「おお、大変だったね。でも最後までちゃんとやって、やっぱり歩季、そういうとこすごいな」


「つっても、奈緒子に言われるまで、私もすっかり忘れてたんだけどね」

「それでもすごいよ。自分だけじゃなくて、奈緒子のことも考えて……歩季は本当に、本当にすごい」


「はは、ありがと。でもモカも、すごいすごいばっか言ってないで、ちゃんとがんばるんだよ」

「ええーモカはムリだよー。歩季みたいに、ちゃんとしてないし……」


「そんなこと言わないの! ほら! これあげるから」

「……ノート?」


「テスト前に見せるって、約束したでしょ?」

「う、うん。そーだけど、こんな、現物……いいの?」


「だってもう、私には必要ないから」

「…………」


「誕プレの代わりって言ったら、ちょっとしょぼすぎるけどさ」

「……ううん、ありがと」


「ほら、課題もちゃんとメモったから。これ見て勉強して、ちゃんと再履、単位取るんだよ」

「うっ……取れるかなあ……」


「大丈夫だって、がんばりな? 私は私で、人生の再履、がんばるからさ」

「――――」


「ね?」

「――…わかった。モカもがんばる……!」


 ◇


「ほら、そろそろ行きな。もうすぐそっち、電車来るっしょ」

「でも、歩季見送ってから……」


「いーから行きなって。本数少ないんだから、ほら!」

「…………」


「別に永遠の別れって決まったわけじゃないんだから。いつでもお店おいで?」

「…………」


「そだ、私が美容師になったら、指名してよ。サービスするからさ」

「……うん。そーする」


「それじゃあ……」

「うん、行くね。……歩季、ありがとう。歩季といられて、本当に楽しかった」


「私もだよ」

「歩季、元気でね……! 歩季の夢が叶うように……モカ、応援してるから……!」


「ありがと……モカ」


(山茶花・fin)

「山茶花」の物語は以上となります。更新が遅れたにもかかわらず、最後までお読みくださり本当にありがとうございました。


さて、真冬の間は花もお休み。

ということで、次のエピソードは、少し間を空けまして2月13日(金)18時頃の公開となります。

引き続きどうぞよろしくお願い致します。

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