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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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30.

 

 **********


 時はジェイルとリオンが侵入者と邂逅する少し前まで遡る。




 部下からの緊急通信を終えて、ユリウスは呆然と動きを止めたホノカへと視線をやる。



 青白い顔で通信映像が消えた今も、虚空を見つめるホノカにユリウスの不安は尽きない。


 それにホノカが発した「兄様」という言葉も気にかかる。


 まさか侵入者のうちのひとりが、行方不明であるシンヤ・ベルツリーだとでもいうのか?


 もし本当にそうだとすると、彼らの目的は一体なんだ……?




 可哀想なくらいに身体を震わせるホノカのそばに安心するまで付き添ってやりたいのは山々であったが、侵入者という脅威がすぐ側に迫っている以上、ユリウスに時間はなかった。



(仕方ない……とりあえずアオイに任せよう)



 ユリウスは呼び掛けに反応を見せないホノカの正面へと立つと、両肩に優しく手を添える。




「ホノカ嬢、私はすぐに現場へと向かわなければならない。だから貴女には付き添えないが、代わりにアオイを同行させよう」



 しかし、ハッとした顔でホノカは通信しようとするユリウスの腕を掴んで止める。



「ま、待ってください」


「どうした」


「私も、私もユリウス様と一緒に行かせてはいただけませんか?」



 ホノカの言葉にユリウスは目を見開いた。




「貴女は自分の言っている意味がわかっているのか。私と共に行くということは危険に身を晒すことと同義だが」


「それはもちろんわかっています。でも、あそこにいるのはきっと私の兄のシンヤなんです。だから彼の目的はおそらく……いえ絶対に私のはず」



 どこか確信めいた口調でホノカは断言する。

 しかし、万が一侵入者の目的がホノカであるとするなら、わざわざ姿を晒すのは危険ではないか。





「それなら尚のこと貴女を連れていくことはできない。自分を狙う敵の前に自ら赴くのは自殺行為といってもいい」


 ユリウスの言うことは最もだ。

 しかしホノカにもどうしても後に引けない訳があった。



「これが、兄の話を聞く最後のチャンスかもしれないんです」


「!」



「……わがままを承知でお願いします。ユリウス様」



 ホノカは懇願するように深々と頭を下げた。


 身勝手なのは百も承知だ。

 それでも、兄との決着くらいはせめて自分の手でつけたい。



「……仕方がないな」




 ユリウスは深い溜息をつきながらも、渋々といった様子でホノカの申し出に頷く。


 ホノカはぱっと下げていた頭をあげると、


「ありがとうございます……!」



 とても嬉しそうに何度も何度もユリウスへとお礼を言った。



「ただし!アオイと合流するから、私が敵と交戦するような事態になった場合は、彼女の傍から決して離れないように。いいな?」


「はい!」




 そうして二人揃って部屋を出ようとした時、



「ぴぃ」


 テーブルに置かれた鳥かごの中で、金糸雀が小さく声を上げた。



 ぱっと鳥かごへと視線を向けたホノカは、その中にいる金糸雀とばっちりと目が合う。



 その金糸雀はまるで、私も連れて行けと言っているようで……。



「……」


 逡巡の末、鳥かごを両手で抱えるとホノカはユリウスを追って部屋を出た。





 **********


 そして、今に至る。



 ユリウスの指示によって大勢の騎士が侵入者二人を取り囲むと、大柄の騎士が声を張り上げた。



「動くな!貴様らは既に包囲されている!」


 その声を合図に、取り囲んでいた騎士たちが一斉に腰から剣を抜いて構える。



 屈強な大勢の男たちに囲まれ、侵入者の男はその顔に怯えを滲ませながらたじろいだ。


 しかしその一方で、女は数多の騎士たちを前にしても恐れることなく余裕の表情を崩さない。



「ど、どうするんだ……ゴホッ、レティシア!」


「バカね……数を増やしたからといって優位にたったつもり?この程度なら、私の魔法で全員塵に変えてあげるわ」




 値踏みするように取り囲む騎士たちを見渡すと、女はステッキを振ろうとする。


 しかし、それよりも先にユリウスが指を鳴らす。


 すると、女の首にどこからともなく現れた首輪のようなものが嵌められた。




 突如として首に嵌められた謎の物体に、女は眉をひそめたものの、とりあえず周りの煩わしい騎士たちを排除しようと今度こそステッキを振った。




 しかし、魔法が発動しない。


 余裕そうだった女の顔色がみるみるうちに変わっていく。



「な、なによこれ……!」



 女は何度も何度もステッキを振る。

 しかし思うように魔法は使えず、空を切るだけだ。


 狼狽える女にユリウスがふっと笑いを零すと、女は憎々しげにユリウスの方を睨みつけた。




「お前か……!私に何をした!」



「首のそれは魔力の制御装置だ。我が屋敷では暴れん坊を押さえつけるためにそれより上級のものを使っているが……。まぁ、お前程度の闇族ならそれで充分だろう」



 バカにするようなユリウスの言葉に、女は悔しそうにギリギリと歯を食いしばった。



「くそ……殺してやる!」


「口だけは一丁前のようだが……魔法の使えないお前に何ができる?」


「このっ……!」


「取り抑えろ」


「はっ!」



 ユリウスの指示通り、そばに控えていたクラークが女を拘束すると地面へと押さえつける。

 咄嗟にその場から逃げ出そうとしていた男の方も、当然見逃されることなく拘束された。





 決着というのも案外呆気ないものだ。


 ユリウスの背後で一連の流れを見ていたジェイルはすぐ側へと近づいてきた人影を見上げ、驚きに目を見開いた。



「ホノカ様……」



 ステラと共に避難しているものだと思い込んでいたが、まさかこんな危険なところに来ていたなんて。




 ジェイルの傍らへとやってきたホノカは、その手に全く見覚えのない小さな鳥かごを抱えていた。



 そして地面に鳥かごをそっとおろすと、ジェイルを両腕で抱きしめた。



「ホノカ様……」


「ジェイル……無事でよかった……!」



 ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめるホノカの腕の中で、ジェイルはほっと息をつく。



「どこにも怪我はしていない?」


「はい、あいつが僕を守ってくれたから。そういえば、リオンは……!」



 ジェイルは慌てたようにホノカから離れると、辺りをキョロキョロと見渡した。


 リオンを拘束していた蔦はユリウスの魔法によって解かれたが、その時に人型から犬の姿へと戻っていたようだった。


 意識を失っているように見えたため、早く助け起こしてやらないと、そう思ったジェイルだったが……



「ここにいますよー」



 ホノカの背後から白い子犬を腕に抱えたアオイが、ジェイルの前へと現れた。


 そこにはすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てるリオン、もとい毛玉ちゃんの姿があった。



「アオイ」


「この子なら疲れて眠っちゃってるみたいです。怪我はなさそうですよ」


「そっか……」



 今度こそジェイルは心からの安堵のため息をついた。




「さて、と。ジェイル様やホノカ様に怪我はなく、侵入者も捕らえられ一件落着!と言いたいところですけど……」



 ちら、とアオイはホノカへ視線を送る。



 ホノカは一度頷くと、目の前に広がる光景を真っ直ぐに見据えた。



 大勢の騎士に取り囲まれる二人の侵入者。


 そしてその中に見覚えのある顔が一つある。



 騎士に捕らえられた男の、じっとりと絡みつくような視線を一身に受けて、ホノカは深く息を吸った。



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