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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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27.

いつもありがとうございます!

家庭の事情により次回更新日未定です。

申し訳ございません!

 自室で毛玉ちゃんを膝に乗せたジェイルは、窓の外をぼーっと眺めている。


 眼下に広がる屋敷の門付近では、ガーデナーが花壇の手入れをしていた。


 カートレット家にやってくる客人が一番に目にするのは門をくぐってすぐの大きな花壇だ。

 暑い日も寒い日も専属の庭師が定期的に管理しているこの花壇は、季節ごとに色とりどりの花で飾られており、客人からもかなり評判が良かった。



 大きな花壇のすぐそば、門の付近には屈強な騎士が二人立っていた。

 カートレット家の安全を守るべく、騎士団の中でも魔法を使うことが出来る手練とされる者がローテーションで警備にあたっている。





 いつもと変わらない景色、のどかな日常。


 それ自体は素晴らしいことだ。

 しかし。



 ジェイルはふぅ、と深くため息をつく。




 どうしようもなく退屈だ。



 屋敷の皆が忙しくしている中で、退屈だなんだと言うのははばかられるため口には出さないものの、内心で思うことくらいは許してほしい。


 襲撃の件があったことで、ジェイルの外出はユリウスによって禁じられている。

 相変わらず襲撃犯の足取りは掴めておらず、巷を騒がす様々な問題のせいで人手が足りない。






 宿場町から戻ってからというものの、屋敷は常に慌ただしい。


 原因不明の感染症の蔓延、それからジェイルへの襲撃……。

 頭の痛い問題が山積みでその対応に追われているのだ。


 その筆頭が父のユリウスであり、執務室から滅多に出てこないばかりか食事や休息をとることすらままならないようだ。

 偶然見かけたユリウスの顔は土気色をしていて、いくらなんでも心配を覚えるほどだった。


 カートレット家の男児としてジェイルも力になりたいとは思うものの、悲しきかな、幼いゆえに出来ることはなにもなかった。





 こういう時、己の無力さに嫌気がさす。

 誰かを守るのではなく、守られるしかない自分の弱さにも。




 ジェイルは自分の両手をじっと見つめる。

 父やクラークたちとは違う、小さな小さな子どもの手。


 まだホノカよりも小さいこの手では、大切なものを取りこぼしてしまうかもしれない。




(早く大人になりたい。大人になってこの家を……ホノカ様を守れるように)




 不意に膝で眠っていた毛玉ちゃんが目を覚ました。

 すくっと立ち上がると、部屋の扉の方を向き、唸り声をあげた。


 普段は垂れている耳はピンとたち、毛は逆だっている。


 どう見ても警戒心むき出しの毛玉ちゃんの様子に、ジェイルの身体にも自然と力が入る。



(なんだ……?)




 扉の向こうは静かだ。

 異変がおこっている気配は微塵も感じられなかった。


 にも関わらず、毛玉ちゃんの警戒は止まらない。



 毛玉ちゃんはただの犬ではない。

 こんな姿をしているが、れっきとした闇族の一人だ。

 人間には感じ取れないなにかを察知したのかもしれなかった。



「……行こうか」



 毛玉ちゃんを抱き上げると、そっと部屋を出る。


 警戒しながら廊下を見渡すも特に変化はない。

 時折通り過ぎる使用人たちがジェイルに会釈するのを、手を挙げることで応える。


 今のところ屋敷の様子は相変わらずだ。


 油断はしないように気を引き締めながら、大階段を降りようとしたその時。



 ビリビリと空気を揺らすような衝撃に、肌が粟立つのを感じる。



 どこかで、なにかが爆発した。



(屋敷……の外か)



 緊急事態に屋敷が騒がしくなる中、ジェイルは階段を駆け下りると、まっすぐ玄関へと向かう。




 腕の中では毛玉ちゃんが一際けたたましく吠え続けていた。





 **********



 ベルツリー領地は惨憺たる有様であった、とは調査第一部隊の部隊長の言葉である。



 感染症の発生からある程度時間が経っていたのだろう。


 領民のほとんどは病に倒れ、村のあちこちに人間の遺体と思しきなにかが転がっているような状況だった。


 その中でも一番酷かったのはベルツリー伯爵家のすぐそば。

 最も近くにある大木に大量に積み上げられた亡骸には、虫が集り酷い腐臭がした。



 当のベルツリー伯爵家の中にも幾人の亡骸が転がっていた。


 腐敗が進みもはや誰なのかすら判別できないほどであったが、身につけている衣服が上等なものであったことからも、ベルツリー伯爵夫妻の亡骸であると推測された。


 その他の亡骸もまた使用人が着る衣装を身につけていたため、ベルツリー家に務めていた使用人であると思われた。


 長男シンヤ・ベルツリーと思しき遺体は発見されておらず、未だ調査中である。







 ユリウスの説明をホノカは黙って聞いていた。

 顔色は悪く、その表情は硬い。



(お父様とお母様、それから兄様……)



 いきなり両親の死と兄の行方不明を聞かされたのだから、動揺するのも無理はなかった。



 幼い頃からずっと自分を苛んできた元凶ともいえるひとたち。


 ホノカにとってはあの頃のベルツリー家は生き地獄そのものであり、決して帰りたい場所ではない。



 それでもいざいなくなったと聞かされると、安堵の気持ちよりも喪失感が勝ったのだ。




(不思議だ……。もうあの人たちに情なんて一欠片もないと思っていたのに)



 寂しいとも違う言語化できない感情がホノカの心にわだかまる。




「……そこで、感染症の調査をしていた第一部隊がベルツリー家を訪れた時に不審な動きをする闇族の男と遭遇した。その男を捕縛する過程でこの闇金糸雀を見つけたということだ」



 貴女はこの男を知っているか?


 そう言いながらユリウスが差し出してきたのは見知らぬ男の写真。



 記憶を探るも全く見覚えがなくて、ホノカは静かに首を横に振った。



「いえ、存じ上げません」


「そうか。領地の人間に話を聞いたところ、ベルツリー家の護衛騎士を名乗っていたらしい。だが貴女に覚えがないということならば最近やって来たのだろう」



 捕縛した後、重要人物として尋問を続けているものの黙秘を貫いているようだ。




「男のことはこれから詳しく調べるとして……」



 ユリウスはちらりとデスクに置かれた鳥籠を見た。

 ホノカもつられて視線をそちらへと移す。



「病の原因が高濃度の魔力摂取による中毒だと分かったのは大きな前進だ。魔力酔いであれば治癒魔法による治療で改善が見込めるからな」



 魔力酔いは体内に蓄積された魔力を原因としているため、通常の医療での完治は不可能だ。

 その代わりに治癒魔法によって魔力濃度を中和さえ出来れば回復は見込める。




 宿場町で流行っていた病がカートレット家の医療部隊の到着により急激に完治していったのも、ひとえに治癒魔法による治療を受けたからに他ならない。



 魔法を扱える者の中でも、治癒魔法を扱うのはごく少数。

 発展している街の医療機関でも治癒魔法の使い手がいないのは珍しいことではなかった。





「そうやって治療を続けていけば、いずれ感染は抑えられるはずだ」


「それはよかった……」




 原因と治療法さえ分かればあとはやるべき事をするだけだ。

 得体の知れない恐怖や不安から、人々が開放される日もそう遠くはないだろう。




 ひとつの大きな問題がようやく解決の兆しを見せ始めたことに、ホノカは安堵の声を漏らした。






 その時、窓の外から大きな音がしてユリウスとホノカは顔を見合せた。



 いったい、何が。



 そう思った束の間、緊急通信を知らせる甲高い音が部屋中に鳴り響いた。


 ユリウスが通信を繋げると、慌てたような声と共に映像が空間に映し出される。



『ユリウス様、侵入者です!警備にあたっていた騎士二名が重症!』



 映像には屋敷の門が映し出されている。


 そこには侵入者と思しき人影が二人と、地面に倒れ伏す騎士が二人。

 一人は女で、もう一人はフードで覆い隠しているため顔が見えない。



 地面には焼け焦げたような跡が見られ、負傷した二人も酷いやけどを負っているようだった。



「至急応援を向かわせろ。私もすぐに現場に向かう」


『分かりました!お気をつけて』



 険しい表情で映像を見つめていたユリウスは、即座に部下へ指示を出す。




 通信を止め、映像が途切れる直前、突風によりフードで隠されていたもう一人の侵入者の顔が明らかになる。



「……!」



 ホノカは息を呑んだ。


 心臓が激しく鼓動し、背筋に怖気が走る。



 心を落ち着かせようと深呼吸しようとしたが、上手く吸うことも吐くことも出来ずに思い切り噎せてしまう。



「ホノカ嬢、大丈夫ですか」



 尋常でないホノカの様子に、ユリウスが声をかけてきた。



 しかし、その声に応える余裕はなかった。




(どうして)




 通信に映し出された侵入者の姿。


 一人は女、そしてもう一人は。





「兄様……」




 呆然と、震える声で呟いた。

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