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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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22.

 


「小鳥?どうして土の中に……?」

「ぴぃ!ぴぃい!」


 驚いたように目を丸くするホノカに、土の中の小鳥は己の存在をアピールするかのように甲高い声で力強く鳴いた。


 つい先程まで生き埋めになっていたとは思えないほどに元気いっぱいの姿にとりあえず安心するも、疑問は尽きない。



 この小鳥は何者なのか?

 なぜ土の中に埋められていたのだろうか?

 数週間前にやってきたという侵入者と関係があるのか?



 次から次へと湧き上がる疑問はさておき、とりあえず土の中から出してあげようと小鳥に手を伸ばした。

 しかし……。



「あ、あれ?」



 いくら指先を伸ばしても小鳥に触れることが出来ない。

 まるで見えない薄い膜のようなものに全身が覆われているようだ。


 困惑するホノカを他所に、じっくりと小鳥を観察していたアオイは驚いたような少し上擦った声色で呟いた。



「ホノカ様、このコは闇金糸雀の……雄のようです」

「闇金糸雀?」



 聞き馴染みのないワードにホノカは思わず聞き返す。

 闇と名前につくだけあって闇族に関係する生き物なのだろうか。



「はい。正確には魔獣ではなく闇族の種族の一種です。幼児期を金糸雀の姿で過ごし、成人になる直前に隠れていた巣穴から世界に出てくると習いました。このように全身を膜で覆うことで外敵から身を護るんだそうです」



 アオイは指先で小鳥を覆う膜をツンツンとつつく。




「……でも、変ですねぇ?」


 アオイは首を捻り、なんとも不思議そうに眉間に皺を寄せ、小鳥を見ている。


「え?」

「本来、闇金糸雀は単体でいる事はなく、二三体の兄弟で成人になるまでは眠っているはずなんですよね……」



 アオイと共に周辺を探すも、土の中に小鳥の姿が一羽あるだけだ。

 対となるもう一羽の存在は確認できない。



「いないわね……。迷子にでもなっちゃったのかしら?」

「……!もしかしたら侵入者の狙いは闇金糸雀だったのかもしれません」



「どういうこと?」

「闇金糸雀はそもそもの個体数が減少傾向にあるんです。その希少性から高値で取引をされることもあるのだとか……ホノカ様、お手を貸していただけますか」



 アオイは闇金糸雀を傷つけぬように丁寧な手つきですくい上げると、ホノカに手を差し出すように促す。


 言われるがまま差し出されたホノカの手のひらに闇金糸雀をのせると、汚れるのも厭わずに闇金糸雀が埋まっていた地面を両手で掘り始めた。




 土の中からそっと何かを拾い上げると、それをホノカの眼前にかざした。



「ホノカ様。やっぱり侵入者はこのコの兄弟を連れ去ったんでしょう」



 それはホノカの手のひらにのった黄色い小鳥とは異なる、白い羽。

 アオイはその羽を見つけたことで得心がいったという表情をしているけれど、ホノカには一体なんの事なのかわからない。



「これは……鳥の羽?」

「はい。そのコと色は異なりますがこちらも闇金糸雀の羽だと思われます。恐らくこの羽の持ち主こそが兄弟に間違いないでしょう」



 アオイが頭上に羽を掲げると、月の光を受けてそれはキラリと白い輝きを放つ。




「さきほど闇金糸雀の個体数は減少傾向にあると話しましたよね」

「えぇ」

「鑑賞目的での乱獲や奴隷化など、その要因は様々であるとされていますが、1番の理由はやはり雌の個体数が圧倒的に雄より少ないことにあります。雌は雄の5分の1ほどの個体数しか存在しないとされていて、希少な闇金糸雀の中でも特に人気が高いんです」



 ホノカの手のひらの上で、闇金糸雀はぴぃぴぃと小さく弱々しい声を上げる。

 膜があるため小鳥に直接は触れられないが、ホノカは安心させるように小鳥の周囲を優しく撫でる。



「人気が高いのは個体数が少ないからだけではありません。特筆されるのはその美しさで……雌の闇金糸雀は雄と異なり輝くような純白の羽をもつんだとか」

「!」


 その言葉に、ホノカはハッと目を見開いた。

 そしてホノカの視線はアオイのもつ白い羽に釘付けになる。



 つまり、アオイが言いたいことって……。



「このコの兄弟は雌の闇金糸雀で、その希少性を知る誰かによって連れ去られてしまった、ということね?」

「はい、私の推測ですけど」

「闇金糸雀の雌がとてもレアなのはわかったけど……雄だって十分珍しいのよね?どうしてこのコだけ残されてたのかしら……」

「んー……そうですねぇ。家主が思ったより早く気がついたから2羽の闇金糸雀を連れ出す時間がなかったのか、そもそも狙いは雌だけだったのか……」

「……だけど、どちらにしろ今回の襲撃と関係があるかはわからないわね」



 結局アイリスやフェンネルに繋がるような痕跡は見つからなかった。


(私の気にしすぎだったのかも……)



「そろそろ店の中に戻りましょうか、ジェイルが心配してるだろうし」

「そうですね。とりあえずこのコはここに残してはおけませんから……私の方で一時保護します」

「そうね。また誰かに狙われるかもしれないし」



 再びアオイに闇金糸雀を預けると中庭の隅の方で不思議そうにホノカたちのやりとりを眺めていた女将さんに礼を言い、店の中へと戻ろうとドアノブを掴んだ。



 次の瞬間、ホノカがドアノブをひねるよりも先に内側からドアが開いた。

 内側から強い力で引っ張られたせいで、思わず前のめりに体がよろめいてしまう。



「わっ……」

「ホノカ様……!」



 体勢を崩し転びかけたホノカを支えようとアオイが手を伸ばすよりも早く。



 前方から伸びてきた暖かい腕がホノカの体を強く抱きとめた。




 ***********



 発病してから幾つの街を訪れたのだろうか。


 たった今踏み入れた街はレティシアと訪れた数多の街とは違い、隣国との境目に位置する港町だった。




「ここはどこだ?」




 荒い呼吸を調えながらレティシアへ問うが、彼女は「さぁね」とはぐらかし魅惑的な笑みを俺に向けるばかりだ。


 不思議と発病したての頃の、自分の命が削られていく恐怖を感じる事はもうない。



 今はレティシアのいうとうり、静養を兼ね旅を続け少しでも早い回復を待つんだ。



「それにしても暑いな……」



 全身の赤い発疹を隠す為、目深くフードがついたローブで身を包んでいるせいで、怖ろしく発汗し、俺の足元にはじわっと嫌な水たまりがいくつか出来ていた。



「仕方ないわ。その姿が見られでもしたら、この街から追い出されるかもしれないでしょ。それに、シンヤだって、また、あんな目で見られるのは、不快なはずよ」



 あんな目……。



 あれは、ベルツリー領を去って初めて足を踏み入れた少し大きな街でおきた出来事をレティシアは指しているんだ。




「あぁ。不快だな」




 思い出しただけで、俺の体内は血が沸き立つように煮えたぎり自分ですら制御できない苛つきに支配されるんだ。



 あの女が悪い。そうだ。



 俺より身分の低い自らを売る生業で生きている女のくせに、汚い物を見るかのように俺を見ながら罵倒した。



『近寄らないで!あんた、病気持ちなんだろ!?』


『鏡見たことある?顔中いたるところに赤い発疹があるじゃない!』


『あたしを騙したの!?』




 お前を騙す?




 は?




 そもそも勝手に近寄り媚びを売ってきたのは、お前だろ?



 レティシアが店に入っていなければ、話しすらしなかった。




 ……そういえば、レティシアは今どこにいるんだ?




『聞いてるの!?』


『あ、あぁ』


『慰謝料払って』


『は?』



 女は厭らしく口角を上げると、矢継ぎ早に言葉を投げた。



『あんたみたいな病気持ちと話をしたんだから、伝染ってたらどうするの?あたしの生活の責任、あんたにとってもらわないとねぇ』




 俺を蔑む目は小さな頃に見た誰かににていた。


 まだ小さな俺の手を掴む、皺が多めの手。


 いやだと泣いて懇願しても、何度も振り下ろされた鞭で皮膚は裂けしゃくり上げる声は掠れてしまう。


 何度も繰り返されたそれを、俺は実の妹へとしてしまったんだ。


 仕方ない。


 そうでもしなければ、間違いなく俺は壊れていた。


 仕方ない。


 仕方ない。




『あ……ぁぁぁ!!』



 路地裏で女の口を左手で抑えつけ、地面に押し倒し馬乗りになると、俺は腰に帯刀してい短剣を抜き、何度も女の少し日焼けした肌へ下ろした。




 ざしゅ!ざしゅ!




 と、鈍い音がし、沈み込んだ剣を引き抜くと生暖かい液体が俺の顔を汚していったんだ。





 あぁ。




 気分が悪い。




 俺を汚していいのは、こんな奴の汚物じゃない……。




 こんな汚い肌ではなく、あいつの肌はもっと白くて美しく、ピンクの瞳が潤む姿はきっと人形のようだろう。




「ふふふ。ははは……」





 知らぬ間にこぼれた笑いとあいつとそっくりな双眸から溢れる雫で、視界はぼんやりとしていた。




「シンヤ、これで血を拭いなさい」


 気がつけば俺の傍らにはレティシアがいた。


 あの汚物は最初から何もなかったかのように存在を消している。



 そして俺は婚約者だというレティシアに促され、最低限の血をぬぐうと彼女に支えられ馬車に乗せられ、すぐに来たばかりの街をはなれた。




 あの日見た世界は全てが真紅で染まったんだ。





「シンヤ、どうしたの?」


「なんでもない。さぁ、宿屋は決まっているんだろ?」




 レティシアはあの件があってからは、俺を一人にすることはなく、事前に必ず滞在先を用意していた。




「ええ。ここは魚が美味しくて、素敵な宿場町だそうよ」


「ああ。楽しみだ」




















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