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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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21.

 少女アイリスと傭兵らしき男フェンネルが立ち去った店内は、先程までとは違い呼吸の音一つ感じられない程静けさに包まれていた。その空間で、ホノカ達はただ立ち尽くす事しかできず各々、思考の迷路にでも入ったかと思う程、ただ前を見据えている。



(……力の差が歴然で、私達には何も出来なかった……。大人の私だって、突然の出来事に思考が追い付いていないもの。まだ、8歳のジェイルはカートレット家の血筋といっても怖くない筈はないわ……)



 ちらりと横目で見たジェイルの、いつもとは違う雰囲気にホノカは心配で堪らなくなる。



 まだ覚醒していないジェイルでは、刃が立たないのは当たり前だ。

 ホノカの記憶が正しければ、相手はあのフェンネルなのだから。


 だったら、ユリウスがこの場にいたのならかわっていたのだろうか?


 いや、今はユリウスがいたらとか考えても仕方がない。本来なら、こんな時期にこの場所でフェンネルと出会うはずはないのだから……。


 物語が変わってしまったから、それぞれ主要人物との出会いも変わってる?


 だとしたら、ホノカが持っている記憶は何の役にも立たないのだろうか。


 ホノカは眉を下げ困惑していた。


 口元に手を当て思考するが、考えは纏まるはずもなく「なぜ?」が脳内をぐるぐると回る。



(それに、あの、アイリスという少女は何者なの?)



 制作者側である『ほのか』なのに、記憶の隅々を辿っても、やはり【恋勝】には『アイリス』と名乗った少女に思い当たる人物は出てこない。



 気のせいであればいいのだが、マリモちゃんと毛玉ちゃんと面識があるような素振りをしたアイリス……。



 いつもは気怠げにほぼ眠たそうにうだうだしているマリモちゃんが険しい目付きで2人を睨んでいた……。




(それにしても……マーガレットという名前を口にした事が気になる……)




 【マーガレット·ド·ラ·カートレット】



 ユリウスの実の母であり、ジェイルの祖母。今はホノカ達が目指す湖畔の別邸で隔離されている。


 もし、先程の2人がマーガレットと呼んだ者があのマーガレットであるのなら、これから先一筋縄では行かない筈だ。


 ジェイルの母マリアを壊し、ジェイルの幸せを奪った張本人なのだから。



「ホノカ様……」




 小さな手が知らぬうちに小刻みに震えていたホノカの手をそっと掴んだ。


(だめよ!私が不安がっていたら、ジェイルだって不安になるわ)



「ジェイル……、怪我はない?」


 ホノカは精一杯の笑顔でジェイルへ問う。


「僕は大丈夫です!ホノカ様こそ、お怪我はございませんか?」

「私も、ジェイルが守ってくれたおかげで怪我一つないわ!」


 ジェイルは安堵したように小さく息を吐くと、もう一つの疑問をホノカへと投げかけたのだ。


「マーガレットとはお祖母様の事なのでしょうか?」


「わからないわ。ほら、ありふれた名前だもの」



 不安に揺れるエメラルドを安心させる為に、茶化しながら話すが、ホノカの心もまた黒雲に包まれ謂れのない不安が襲うのだ。



「そうですよね」

「うん!」



 ガタン!



 その時、突然の物音と共に奥からこの店の女将さんが顔を出した。



「ホノカ様……」

「女将さん!」



 襲撃者がやってくる直前に店の奥に引っ込んで以来姿を見ていなかったがどうやら無事であったらしい。

 襲撃に気を取られてすっかり存在を失念してしまっていたが、怪我ひとつない様子にホノカはほっと胸を撫で下ろす。



 真っ青な顔色でよろよろとホノカのすぐそばまで来ると、ホノカの両手をぎゅっと握った。



「あぁ、無事でよかった……。あたしは奥で隠れてるだけで何にも……」

「いいえ、気になさらないで。あなたに怪我がないようで本当によかった……。それに」



 ホノカは店内をぐるりと見渡すと表情を曇らせた。


 辺りに散らばる瓦礫の山々。


 男たちの攻撃によって店内は半壊状態である。

 見るも無残な有様にホノカは気まずげに頭を下げた。



「あなたの大切なお店を壊してしまってごめんなさい。カートレット家の方で修繕をさせていただきますわ」


「そんな……ホノカ様はなにも悪くないのに」



 女将さんは遠慮をする素振りを見せるもホノカだって引く気はなかった。


 襲撃の標的はホノカたちで間違いない。


 にもかかわらずなんの関係もないこのお店をホノカたちの事情に巻き込んでしまったのだから。



 しばし繰り広げられた押し問答も女将さんが折れることで決着がついた。


 すばやくアオイに修繕の手配をお願いしたホノカは、とりあえずはホノカの宿泊先のホテルに移動しようと声をかけようとして、ピタリと動きをとめた。


 女将さんが不意にこぼした独り言にひっかかりを覚えたからだ。



「それにしても、また変なやつらが来るなんて……」

「?」



 一体どういう事なのだろう。

 不思議そうな表情をみせたホノカに、



「あぁいや、つい数週間前にも変なやつらがやって来てさ、店の一部を破壊しやがったのさ」


「!」


「この店は自宅も兼ねてるんだけど……深夜に物凄い音がしたと思ったら塀の一部分が壊れててね……何があった?と思ったら走り去っていく怪しい二人組の男女がいたんだよ」


「二人組!?まさか、さっきのふたりじゃ」


「いや?男の顔はよく見えなかったけど女の方はあんなに小さい女の子じゃなかったよ」



 どうやらアイリスとフェンネルのことではなさそうだ。



「それで慌てて警吏の人に報告して探してもらったんだけど、結局犯人は見つからなかった」



 あれは一体何だったんだろうねぇ、と女将さんが頭を悩ませるのを他所にホノカとアオイは互いに顔を見合わせた。



「あの、女将さん。もしよかったらその壊されたっていう場所に案内していただけませんか?」

「? 別に構わないけど……」



 不思議そうな女将さんに曖昧な笑顔を返すとホノカはじっと思案する。



 数週間前にやってきたという侵入者。

 それがアイリスとフェンネルではないということは、今回の件とは無関係かもしれない。




 しかし妙に気にかかった。









 **********



 女将さんの案内でホノカとアオイがやって来たのは店の裏手。

 建物への出入口はなく、高い塀に囲まれており中の様子を見ることはできない。


 ずらりと侵入者を拒むように高く連なる壁は、たしかにその一部分だけがやけに真新しいように見えた。

 確かめるようにアオイが軽く触れると、他の塀とは異なりサラサラとした手触りで汚れも少ない。


 女将さんのいう破壊されたという場所はここで間違いないのだろう。




「元々そこには出入口があってね。あの時も施錠してあったんだけど……やつら扉ごと破壊しやがった」

「この内側にはなにがあるんですか?」

「小さいけど庭があるんだ。店で使うハーブとか花とか栽培してる。見てみるかい?」

「……ぜひ」



 女将さんのご好意に甘えて連れてきてもらったのはこじんまりとした小さな庭。

 話の通り色とりどりの花々やホノカには分からないがいくつかのハーブがきちんと整えられた花壇で生育されているようだ。


 これといって特筆すべき点のない、いたって普通の庭。



(わざわざ扉を破壊してまで侵入する目的がこの庭にあるようには見えない……)




 やっぱり数週間前の出来事と今回の件は無関係なのだろうか?


 ただの物盗りが家に侵入しようとして失敗して、なにも盗らずに逃げたとか?




 兎にも角にもこれ以上調べてもなにもなさそうだ。

 アオイに声をかけて店の中へと戻ろうとして。



「あ!」



 ふとアオイが声をあげた。



「ホノカ様!見てください」

「どうしたの……。これは?」



 アオイが指し示したのは花壇の隅の方。

 植物に隠れてよく見えなかったが不自然に土が盛り上がっている部分がある。



「一体なにかしら?」

「わかりません、しかし微かですが魔力の気配があります。……すみません!ここを掘り返してもよろしいですか?」

「え?構わないけど……」



 許可を貰ったアオイが素手で盛り上がった土を掘り返す。


 するとそこに現れたのは……。




「……小鳥?」



 少しくすんだ黄色の羽をもつ小鳥が、ホノカに答えるようにピィと小さく鳴いた。



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