20.
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男の放つ氷の剣があわやアオイの体を貫こうとした、その時。
「トネール」
幼い少女の声が聞こえた次の瞬間、放たれた氷の剣に向かって雷撃が降り注いだ。
空気をビリビリと揺らすほどの激しく鋭い音が炸裂し、氷の剣はその場で粉々に砕け散る。
突然何が起きたのか。
現状を正しく理解できないアオイは、その場で腰を抜かさないように足に力を入れて踏ん張ることしかできない。
「アイリス……」
男はやれやれと頭を掻きながらバーの入り口へと視線を向けると、そこには小さな体躯の少女がちょこんと佇んでいた。
深い海を思わせるマリンブルーの髪は腰ほどまでの長さで、毛先だけが緩やかにカールしている。
黒を基調とし、フリルとリボンがふんだんにあしらわれたワンピースに身を包んだ少女は、血のように赤いルビーの瞳で男を見つめた。
呆れを多分に含んだ声で少女の名を呼んだ男は、深いため息をついた。
「どうして邪魔をするんだ」
「だって約束と違う」
男をじっと見つめる少女の瞳には非難の色が宿っている。
アイリスと呼ばれた彼女はむすっとした顔で男を睨め付けると、男の背後でホノカを庇うように立つジェイルをチラリと見た。
「心配しなくとも殺すつもりはなかった」
「うそ」
「本当だ。そりゃ、抵抗できないくらいには痛めつけるつもりだったが……」
アイリスは男に詰め寄ると、鋭い視線で睨みつける。
あまりの勢いに男はうっ、と言葉を詰まらせた。
「それが問題」
「でも相手はカートレット家だぞ?しかもあいつの血を引いてるんだ。これくらいじゃ……」
弁明するように言葉を重ねる男に対し、アイリスは深いため息をこぼした。
そして、
「まだ弱っちいんだもん。フェンネルが殺すつもりじゃなくても死んじゃうよ」
その口元には明らかに嘲るような笑みが浮かんでいた。
目の前で繰り広げられるやりとりにその場にいる誰もが困惑を隠せない中、ホノカただひとりは別の理由で頭を悩ませていた。
襲われてすぐはそれどころではなかった為に気が付かなかったが、どことなく男の外見にひっかかりを覚えたためだ。
なぜだかホノカは男のことをよく知っているような気がする。
そんな妙な既視感を覚えたのだ。
(ん……?フェンネルって……?)
なんだか聞き覚えのあるような気がして、ホノカは必死に朧気な記憶を探る。
そして、ハッと思わず目を見開いた。
(フェンネル・ターナー!)
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
ホノカたちを襲撃したこの男、フェンネル・ターナーは【恋勝】に登場するヒロインの攻略対象のひとりである。
初登場時は聖女たるヒロインと対立しているのだが、なんやかんやあって最終的に味方になってくれる年上のお兄さん(おじさん?)ポジションのキャラクターだ。
だけど、彼と共にいる少女・アイリスに見覚えはない。
ホノカが知る限りではゲーム本編においてこの少女が出てくることはなかったはずなのだが……。
ホノカたちの間に言い知れぬ緊張感が漂う中、そんな空気をぶち壊すように別の乱入者が現れた。
バーの入り口からふわふわの犬が2匹、飛び込んできたのだ。
2匹の犬とは、言うまでもなくマリモちゃんと毛玉ちゃんのことなのだが……。
毛玉ちゃんはホノカの元へ真っ直ぐ走っていくと、ホノカを背に庇うようにしてアイリスの前に立ち、威勢よく吠え始めた。
マリモちゃんは入口から動くことはせず、しかしアイリスの動向を監視するようにジッと睨みつけている。
「……あー、そういうこと」
アイリスは不思議そうに2匹の犬を見つめていたが、合点がいったのか納得したように頷くとその口元に笑みを浮かべた。
「随分と可愛らしい姿になってるから気が付かなかった。最近見ないと思ったらこんなところにいたんだ?」
「う゛〜……」
マリモちゃんは低い唸り声をあげアイリスを威嚇する。
アイリスはマリモちゃんに触れようとして伸ばした手を引っ込めると、残念そうに眉を下げた。
「せっかくの再会だけど……。帰ろう、フェンネル」
「ジェイルのことはいいのか?」
「うん。今すぐ戻ってこいって」
「マーガレットさんが?」
「!」
突然飛び出してきた名前にアオイは大袈裟に肩を揺らした。
ジェイルとホノカを狙った男から出た『マーガレット』という名前。
(やはりこの男もマーガレット様がけしかけた刺客……!?)
クラークからの報告にあった通り、ジェイルのことを探りこの街にやって来たという不審な男の正体は目の前の男に違いなかった。
アオイはレイピアの柄に手をかけた。
この男を確実に無力化出来るほどの力はアオイにはない。
それでも今ここで見逃せば、再び彼らはジェイルやホノカを狙ってやってくるだろう。
だが仮に男を倒せたとして、残る少女のことはどうする?
圧倒的な雷撃を前にアオイに為す術はない。
一体どうすれば……!
逡巡するアオイの手に、小さな手がそっと添えられた。
考えに没頭するあまり周りが見えていなかったアオイは、飛び込んできた光景に思わず息を呑んだ。
目の前には少女の笑顔。
アイリスが近づいてきていることにすら気が付かなかった。
「っ!」
「大丈夫、今日はもう帰るから」
笑顔といっても目は全く笑っていない。
底冷えするかのような冷たい視線に、アオイの背筋に冷や汗が伝う。
「それでは皆さま、ごきげんよう」
スカートの裾をつまみ、ちょこんとお辞儀を披露するとアイリスはマリモちゃんの横をすり抜け、颯爽と入口から外へと出ていく。
フェンネルは慌てた様子でその小さな背中を追いかけた。
どんどん遠ざかっていく二人の背中をその場にいる誰もが追うことすら出来ぬまま。
辺りには重苦しい沈黙が支配していた。
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