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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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18.

いつもありがとうございます!

 街外れの薄暗い小道を、男は一人歩いている。




 その手には2枚の写真が握りしめられていた。


 1枚は若い女が、そしてもう1枚には幼い子どもの姿が写っている。


 よほど強い力が込められていたのか、写真には何本か皺がよってクシャクシャになった跡が見て取れる。



 不意に足をとめた男は写真に視線を落とすと、もう用はないと言わんばかりに衣服のポケットへと2枚の写真を乱暴に突っ込んだ。



 再び男は歩き出した。

 その足取りに迷いはなく、目的地へとただひたすらに向かっているように見える。



 やがて大通りへとやってきた男は、そこでピタリと足をとめた。



 視線の先には賑わいをみせるバーが一軒。



 流行病のせいだろう。

 シャッターを閉めて明かりの灯らない建物が多い中で、煌々と照らされるそのお店はひときわ目立っている。



「うん、そろそろ頃合いかね〜」



 男は笑みを浮かべると、再び暗闇へと姿を隠した。




 不穏な影に、気づく人は誰もいない。






 **********



「ん〜〜〜♡」


 ホノカは差し出されたアップルパイを一口頬張ると、とろけるような美味しさに思わずうっとりと目をつぶった。



 熱々のパイの上にはひんやり冷たいバニラアイスがのせられており、パイの熱で溶かされたアイスがじんわりと染み込んでおりこれまた美味なのだ。


 向かいの座席に座るジェイルは、にこにことアップルパイを頬張るホノカを微笑ましげに見つめている。




 ここは大通りにあるバー。

 ホノカたちが街にやってきてから食事をとらせて貰っている食堂とは違い、普段はお酒の提供をメインでやっているそうだ。



 ではなぜここで夕食をとらせてもらっているのかというと。

 それはひとえに街の人たちの好意によるものと言える。




 エミリの言伝により、夕食をとるためにホノカとジェイル、そしてアオイはこのバーへと足を運んだ。



 なんでもバーのご夫人がホノカたちに大層恩を感じてくれているようで、そのお礼がしたいとのことだった。(医療部隊がやってくる前に、倒れた旦那さんをアオイが診療所までかつぎ込んだのだ。おかげで一命を取り留めることが出来たとか)



 そのほかにも病に倒れた母親の代わりに遊んであげた小さな姉弟や、店番を手伝った小道具屋の店主などホノカたちに恩返しをしたい街の人たちがこのバーへと集まり、それぞれ手料理を振舞ってくれたのだ。




 今食べているこのアップルパイだってそうだ。

 子どもたちがホノカたちのためにと一生懸命作ってくれたらしい。




「ホノカ様どう?」

「私たちの自信作!」

「すっごく美味しいわ!ステラにも食べさせてあげたい」




 残念ながらステラは宿で留守番である。

 マリモちゃんや毛玉ちゃんを連れてくる訳には行かなかったため自ら申し出てくれたのだ。




「じゃあ包んであげるから宿まで持ってきな。ステラさんにもお世話になってるから」

「ありがとうございます!」




 これほどまでに美味しく、なにより心のこもったお土産にきっとステラも喜ぶだろう。

 お言葉に甘えて、しばしの間ホノカたちは美味しい食事に舌鼓をうった。






 食事を終える頃には、夜もすっかり更けていた。

 眠そうに瞳をこする子どもたちに気がついた女将さんが、彼らの肩をポンと優しく叩く。



「さぁ!遅いから子どもはもう帰る時間だよ」

「え〜〜〜〜?」



 女将さんの言葉に子どもたちは不満気な声をあげた。

 しかし窓から覗く空がすっかり暗くなっていることを知ると、渋々といった具合に帰る準備を始めた。




「……またね〜」

「ホノカ様おやすみなさ〜い!」

「うん、おやすみなさい。暗いから気をつけてね」



 幼い姉弟のお姉ちゃんの方が弟の手を引いて店を出ていく。



 子どもたちが帰っていくのを見送り、さてホノカたちもそろそろお暇させてもらおうとしたその時。



「あっ」



 アオイが小さく声をもらした。

 子どもと入れ替わりで赤い小鳥が店内へと入ってきたからだ。



(あら?あの小鳥は確か……)



 この街に来た初日もアオイと何かお話をしていた気がする。

 もしかして騎士団と関係のある存在なのかも。




「ぴぃぴぃ」


 小鳥はアオイの肩にちょこんと止まると、耳元で何かを囁くように鳴いた。

 アオイは神妙な面持ちで頷き返すと、



「すみません、少し外に出てますね」



 そう言って足早に店を出ていった。




 いつになく真剣なアオイの様子をしばらくじっと見つめていたジェイルは、ふとホノカの方へ向き直った。




「せっかくですし、もう少しここでゆっくりしていきませんか?アオイもいつ戻ってくるか分かりませんし」

「そうね……お店のご迷惑でなければ」

「迷惑だなんてとんでもない!いつまでだっていてもらっていいくらいだ」




 ジェイルの提案に女将さんは笑顔で頷くと、飲み物のおかわりを取りに厨房へと戻っていく。




「おかわりまで……なんだか申し訳ないわね」

「ここはご好意に甘えちゃいましょう。……もしかしたら、アオイも遅くなるかもしれませんから」

「?……それってどういう」




 カランカラン。


 不意に、扉に備え付けられたベルが軽快な音を立てた。



「?」



 アオイがもう戻ってきたのか。

 そう思って扉へと視線を向けたホノカは、しかし、不思議そうに首を捻った。




 開け放たれた扉の先には、誰もいない。





「やぁ。また会ったね、お嬢さん」




 突如、背後から聞き覚えのあるような男の声がかけられ、ホノカは振り向こうとした。





 **********



 店から少し離れた路地裏へと向かうと、人気が無いのを確認してアオイは伝令鳥に呼びかけた。



 呼び掛けに呼応するように、伝令鳥の首から下げられた魔法石によって、空間に映像が映し出される。


 そこに映し出されたクラークの姿に、アオイはやれやれとため息をついた。





「あ、クラーク?通信は魔力の消費がえぐいんだからなるべく伝令鳥で済ませてって何度も……」

「それどころじゃないんだ!」




 焦りを隠しきれないクラークの大声に、アオイは口を噤んだ。


 よくよく見ればクラークの背後ではなにやら人々が慌ただしく動いている。




「屋敷で問題が?」

「違う。問題があるのはそっちだよ」

「なんですって?」

「ジェイル様を探る動きがある」

「それなら」

「大元はマーガレット様だろう」

「!」




 マーガレット……ユリウスの実母であり、ジェイルの祖母にあたる人。


 ユリウスの手によって別邸へと追いやられ、現在はほとんど隠居状態にあるといっても過言ではないが、なにかと厄介な人物である。



 ジェイルのことを目障りに思っているらしく、何度か刺客を差し向けられたことすらある。(実の孫にも関わらず、だ)


 最近はその動きも大人しくなってきたと思っていたが、なにか企んでいるのだろうか。




 知らず知らず、握りしめる両手に力が込められる。



 ここには騎士団の人間はアオイしかいない。


 何かあった時にホノカやジェイルを守れるのはアオイただ一人なのだ。





「調査によるとマーガレット様の屋敷を出入りする不審な男の姿が目撃されている」

「……」

「身元はまだ不明。だが最近になってその男を宿場町で見かけたとの情報がある」




 その時、少し離れた場所で轟音が鳴り響いた。



 アオイははっとした顔で振り向くと、その音の発生源がつい先程まで食事をとっていた店内からであることに気がつく。



(中にはまだ、ホノカ様たちが……!)



 さっと血の気が引くように背筋が冷たくなる。

 顔色を変えたアオイに、通信越しのクラークが異変を察知して焦ったように声を上げた。



「おい……なんだ今の音」

「緊急事態!話は後にして」

「ちょ……アオイ、まっ」



 ぶつり。

 一方的に通信を遮断すると、慌ててアオイはその場から駆け出した。




 とても嫌な予感がする。


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