16.
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「ホノカ様!」
背後から自身の名を呼ばれホノカは我に返り、声の主へと振り向いた。
「あの男は誰です?」
心配性のアオイは辺りをキョロキョロと忙しなく確認しながら、ホノカへと駆け寄った。
男が去った方へもう一度視線を向けるが、もういない。
「ただ、ぶつかった人よ……。アオイは心配性ね」
くすくすと笑ったホノカにアオイは頬を膨らませ不満を見せる。
「それより、早く診療所に行かないと!」
「待ってください!」
「反対されても行くわ!」
「反対しません」
「へっ?」
思いもよらぬアオイの返答に、ホノカは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
ぽかんといささか間の抜けた顔でアオイを見つめるホノカに、
「ただ、1人では行動しないでください!ホノカ様は公爵夫人として無自覚すぎます!それに、方向が逆ですよ。ホノカ様が今向かおうとしているのは、臨時待合室です。そちらは、先生や看護師さんはいらっしゃらないので、患者を寝かせるのなら、診療所に向かわなければなりません」
アオイは道を歩いていたスタッフに声をかけると、テキパキと事の経緯を説明しベッドをゲットし、更には体調の悪そうだったお婆さんに声までかけた。
行動力はあるが、最短で何をすれば分からなかったホノカは、感心し心からのお礼を告げる。
「アオイ、ありがとう」
「え?」
「私ではこうは出来なかったわ」
一瞬目を丸め驚いた表情を見せたアオイだったが、クフッと口角を上げ、ぴょんっとホノカの腕にしがみついた。
「無礼で申し訳ありません!だけど、こうせずにはいられません!……ホノカ様は自分がどれだけ凄くて清廉でお美しい心をお持ちなのか分かってない!」
「え、えぇ!?」
恥ずかしげもないくらい、アオイが褒めてくれるのでホノカは耳たぶだけではなく頬まで真っ赤に染めて所在無く慌てふためいた。
「褒めすぎですわ……。私は何も出来ていないし、段取りよく手配したのはアオイですもの。さぁ、私達もお役に立てる事を探しましょう!」
「はい!」
……そうはいっても、ホノカたちにできることはそれほど多くはなかった。
アオイの言う通り感染を避けるためにも患者と直接接触して看病することはホノカがすべきことではない。
それに医療行為に精通しているわけでもないただの素人が現場にいても邪魔になるだけである。
意気込んだはいいものの早速壁にぶつかってしまった。
どうしようかしら、とあたりをキョロキョロと見回していたホノカは、視界の端に蹲る子供の姿を捉えた。
(あの子、さっき診療所に運ばれていった……)
具合の悪そうなお婆さんに肩を貸していた女の子だ。
邪魔にならないように診療所からは離れた隅の方で膝を抱え座り込んだその少女は、時折肩を大きく震わせており遠目から見ても泣いているのは明らかである。
驚かせないようにそっと少女に近づくと、ホノカは視線を合わせるように膝を地面について優しく話しかけた。
「こんばんは」
「!」
少女は体を大きく1度揺らすと、おそるおそるといった様子でそっと顔を上げた。
随分泣いたのだろうか、潤んだ瞳は赤く充血しており瞼は腫れぼったさを感じさせる。
頬には涙の跡が幾筋も残っており、少女の瞬きに合わせて大粒の涙がまたひとつその頬を伝っていく。
あまりにも痛ましいその様子にホノカの胸はぎゅっと締め付けられたかのように痛んだ。
思わず顰めっ面になってしまいそうなのをぐっと堪えて、少女をなるべく安心させるように微笑んだ。
「さっきおばあ様に付き添っていた子よね?」
「……」
少女は何も言わずただ頷く。
「あなたおひとり?」
「……はい」
「そっか……それじゃあ不安だよね……」
少女いわく、幼い頃に両親を亡くした彼女にとって共に暮らすたった1人の家族だという。
数日前に突然街で原因不明の病が流行りだし、祖母は高齢であるため不安に感じていたところ、今朝になって症状が見られるようになったそうだ。
医者に診てもらおうにも同じような急病人が列をなしており、それもままならずこんな時間にまでなってしまった。
「どうしよう、もし、このままおばあちゃんが死んじゃったら……!」
再びしゃくりあげるようにして泣き出してしまった少女に、ホノカはそっと寄り添うと優しく背中をさすった。
絶対に大丈夫だなんて無責任な励ましは決してしてはいけない。
医療行為のできないホノカが今、出来ることは……。
少女の小さな手を両手で包み込むようにしてぎゅっと握ると、泣き腫らした瞳を優しく見つめる。
「いま、おばあ様は懸命に病気と闘っているわ。お医者様も死力を尽くして治療にあたってくださってる。私たちにできることは信じて待つこと」
「……」
「きっと良くなると、そう信じて」
ホノカの言葉にじっと耳を傾けていた少女は、1度両目を固く閉じた。
そして、再び開いたその目には先ほどまでとは違い、強い光が宿っているように見えた。
「……ありがとうございます。わたし、おばあちゃんのこと信じて待ちます」
「……うん。あなたのおばあ様が元気になりますように、私も祈っているわ」
「はい……!」
少し元気を取り戻したかのように見える少女と別れると、離れたところでホノカの様子を見守っていたアオイのもとへと戻る。
「ホノカ様、おかえりなさいませ」
「うん。……ねぇアオイ」
「はい」
「私にも出来そうなことを見つけたわ」
直接病を治すことは出来なくても、話を聞くくらいならホノカにも出来る。
病に苦しむ患者、そしてその家族の心を少しでも癒せたら……。
「さぁ!他にも困っている人がいないか探してまわりましょうか」
ホノカはアオイを連れ立って、再び患者のひしめく街中へと繰り出していった。
**********
宿屋で待っていると約束したけれど、自分の目で安全を確認し、自分の力で守らないと不安だ。
僕はホノカ様とアオイが宿屋から出たのを確認すると、部屋の窓から飛び降りる。
「坊ちゃま!いけません!」
身分がバレない様に外出先では、なるべく名前を呼ばないようにするのが、カートレット家のルール。それを守りながらも、ステラは僕を制しようと窓から身を乗り出し叫んだ。
「すぐに戻る!」
僕は2人に遅れを取らないように走り出した。
背後からはまだステラの声が聞こえるが、今は後を追う事が優先順位の先端だ。
(見つけた……)
ブレスレットの位置情報を辿り走った先には、よく見知った2人の姿……と見慣れない男。
(あいつは誰だ?)
気配を消し近づくと初めて会った人間だとわかったけれど、何故か嫌な感じがする……。
注視が必要だ。
それにしても、寂れた町だ。漁業を中心として生計を立てている町故の独特の生臭さは、慣れないホノカ様にはキツイのではないだろうか?しかし、嫌な顔一つ見せる事なく病人へと話しかけている。
気遣う姿は時折無感情な顔を緩ませながら、自分が感染する事も恐れない姿は神から人間に遣われた天使の様に見えるんじゃないかな……けど、約束は忘れないでくださいね……。
「指切りげんまん……」
誰にも聞こえないくらい、小さな声で歌ってみれば、僕を一人にしないと約束し、指切りげんまんという契約をした日の事が、まるで昨日の様に鮮明に思い出された。
大好きな、大好きなホノカ様……。
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