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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
2.オセロ

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15

いつもありがとうございます!次回亀更新になってしまいます……。申し訳ありません。

 **********



 マリモちゃんとの交信を一方的に終わらせると、執務室の隣にある、普段は業務等で使われている書庫へ向かうためユリウスは足早に廊下を進んだ。


 ただしその目的は、書庫に入ることではない。

 ユリウスの用があるのはその書庫のさらに奥。


 カートレット家の当主にしか入ることの出来ないとある小部屋だ。




 書庫へと足を踏み入れたユリウスは、膨大な書物には目もくれることなく真っ直ぐ狭い通路を進んでいく。


 やがて突き当たりに差し掛かった頃、ユリウスはピタリとそこで歩みをとめた。

 眼前に現れたのはぽつんと隔離された漆黒の扉。

 扉の表面にはなんの意匠も施されておらず、ただ黒いペンキで塗りつぶしたかのように真っ黒なその風体は異様な雰囲気でそこにひっそりと佇んでいた。


 異様なのは雰囲気だけではない。

 よくよく観察するとその扉にはドアノブが付いていないのだ。

 手をかけられるところはどこにも見当たらず、一見すると開けることの不可能なその扉の先に、ユリウスの求めるものがある。




(あまりここには入りたくはなかったが……)


 ユリウスは大きく深呼吸を2度すると、左手をかざした。


 次の瞬間耳につけていた黒炎石は彼の心音に合わせゆっくり揺れると、バチバチッと小さな電気が走り真っ直ぐに眼前の扉へと吸い込まれていく。

 そしてきしむような音をたてながら、内側から扉がゆっくりと開いた。



 扉の先には濃い暗闇が広がっていた。

 窓のひとつも無いその空間には光源がなく、果てしない暗闇が途方もなく続いているようにさえ思える。



 意を決して闇の中へと足を踏み入れると、ユリウスの足元に淡い光が灯った。

 そしてそれは一筋の光となって暗闇の中を真っ直ぐに伸びていく。



 闇を照らす一本の道標のように。


 何度見ても慣れない。



 カートレット家の当主しか入れない小さな部屋へと続く道は、当主から当主へと引き継がれる。


 ユリウスはもう一度深く息を吐くと一歩、また一歩と踏み出した。



 闇の中を光の道に沿って進むと、またすぐに扉が現れる。

 カートレット家の紋章が刻まれた重厚な扉は、何人も寄せ付けないような不思議な威圧感を放っている。



 ユリウスとてこの扉の先に行くのは本意ではない。

 しかし、どうしても調べなければならないことがあるのだ。



 ジェイルのために。

 そして……ホノカのために。



 本日何度目かも分からないため息をつくと、ユリウスは扉のドアノブに手をかけた。





 そこは、カートレット家の秘蔵の書物を保管してある小さな部屋だった。



 表の書庫には置いておくことの出来ない、なるべく人の目には触れさせたくない書物がここにはひっそりと保管されている。


 ただし司書もこの小部屋に入ることは出来ないため、貴重であるはずの書物のいくつかは乱雑に床に積まれており部屋は散らかってしまっていた。

 掃除も満足に出来ていないためホコリがそこかしこに積もっており、息苦しささえ感じるほどだ。



 うっかり床に置かれた書物を踏みつけてしまわないように注意しながら、ユリウスは近くにあるものを手に取ってはそれが目的のものであるかを確認する。


 ひたすら書物を手に取ってはあれではないこれではないと繰り返していたユリウスであったが、1冊の古ぼけた書物を手にするとピタリとその動きを止めた。




「他者を肉体から蝕み破滅へと導く……」


 以前亡き父が遠征の間際にユリウスへと語った、カートレット家が負った呪いであり、力……。


 ジェイルの本当の父である、ジェラルドとは真逆の力……。


 











 *********






 宿屋から少し離れた商店街を抜け、この街の町民が暮らす地域へ、ホノカはアオイとお散歩へと出掛けている道中だ。



「ホノカ様、本当にすぐに帰りますからね」



 ホノカの頭より1メートル程高い屋根から、アオイか声をあげた。


 何故屋根の上を歩くか尋ねたら、高い場所から危険がないか確かめる為だと言った。



 軽快に屋根の上を歩く拍子にツインテールが肩の上でぴょんぴょん跳ねる。まるで小動物のようだとホノカは思ったが、ご機嫌が斜めになるかもしれないので、直接言うのはやめておく。



「ホノカ様?」



 ホノカからの返答がなかったので、ホノカの名前をアオイはもう一度呼びながら地面に着地した。


 その拍子にザッと地面の砂が舞う。



「本当に少し確認したいだけだから、大丈夫!」



 ホノカは慌てて返事をすると、食事後に一度戻った客室内でのジェイルとのやり取りを思い出す。


 別れ際の逸らした瞳が忘れられず、胸がちりっと痛んだ。




(……ジェイル、怒らせちゃったかしら……?)




 部屋を出る際のジェイルの悲しそうな顔が脳裏をちらつき、ため息がこぼれそうになる。


 けれど、やめる事は出来なかったし、ジェイルを一緒に連れて行くなんてもってのほかだった。



 二つの町の様子からも分かるように、伝染病が拡大している……。


 カートレット家の当主であるユリウスが同行していない今は、領地を守る責任が自分にあるのだとホノカは思っている。


 自分が領民を守るのは当たり前。



 公爵夫人なのだから……。


 けれど、幼いジェイルはまだその責任を背負う必要はないのでは?


 それに、大人のホノカが感染するよりも、重症になるリスクは子供の方がうんと高いのだから。


 だから、ホノカはジェイルとステラには宿屋で待っていてもらおうとこっそり客室を出る予定だった。


「アオイ、行きましょう」


 声を潜め耳打ちすると、椅子代わりに使っていたベッドを立ち上がり扉へ向かう。


 ジェイルはステラに部屋着へ着替えさせられていたから、気が付かない……と思っていたのに……。


 ガタンっと音を立て、片袖を着ないままバスルームから出てきたのだ。



「ホノカ様、僕も一緒に行きます!」


 ホノカの思惑に気が付いたジェイルは、両手を広げ行く手を遮った。


「ジェイル?」

「町へ行かれるのでしょう?」


 ジェイルを8歳の子供だと侮っていてはいけなかった。

 ホノカが考えるよりジェイルは聡い子で、思慮深い。

 だから、さっきの食堂での会話でホノカが行動する事を導き出してしまう。


「すぐに帰ってくるわ。だから、ステラと少しお留守番していてくれる?」

「……」


 黙って俯くジェイルに対し何を言ってあげればいいのかわからない。言葉が喉の奥に詰まったまま出てこなくなってしまったのだ……。


 ホノカを加勢すべくアオイが言葉をはさむ。


「ジェイル様、すぐに帰って参りますのでご安心下さい」

「本当に……?」

「はい!ホノカ様が嫌がっても、私が担いでまいりますから!」


 ニコッと微笑むアオイだったが、ホノカは心の中でツッコまずにいられなかった。


(鳩尾に食らわせてが抜けてるわ!)


「嫌だと言ってもホノカ様は行かれるのでしょう?」


 瞬き一つせず、ジェイルはホノカを見つめ問いかけた。


「……ごめんね」


 無言で頭を横に振ると、ジェイルは口を開いた。


「では、ホノカ様、右手を出してください」

「え、ええ」


 右手をジェイルの前に差し出すと、ジェイルは自分の手首に付いていたブレスレットを外し、ホノカの手首にそっとはめる。

 大人のホノカには小さいと思っていたブレスレットは、ホノカの手のひらを通る瞬間に大きくなりホノカのサイズピッタリになった。


「これは?」

「ホノカ様を守ってくれる魔道具てす。僕はここにいるから、ホノカ様が持っててください」



「アオイ、頼んだよ……」

「はい!かしこまりました!」


 と、敬礼した。






 街はホノカが想像していたよりもはるかに酷く、重病人の患者が、列を作り医者からの診察の順番を待っている。


「アオイ、本邸に連絡して医療部を派遣して」

「わかりました!」


 アオイが胸のあたりに魔力を集めると、青色の尾の長い小鳥が生まれアオイの肩に飛び乗る。


「本邸に向かってユリウス様へ知らせて」


 小鳥はアオイの言葉が分かるようで、一度ぴいと鳴くとカートレット家の本邸がある場所めがけ羽ばたいていった。


「ホノカ様、宿屋へ戻りますよ」

「でも、私に手伝える事は」

「ありません。高貴な貴族ができる事は今、この場では一つもないんですよ。お手伝いをして、ホノカ様に感染したら誰が責任をとるのです?」


 アオイが冷静に諭すのでむかっとした。


 正論だ。


 けれど、こんな何人もの人が大変な時に何もしてはいけないなんて……。


 両手を握り締めて俯くホノカの耳に、少女の声が聞こえた。


「お祖母ちゃん、もう時期順番だから肩で寝てもいいよ」


 そうよ。何も出来ないホノカでも、診察室で寝られないか聞いてくることならできる。


「アオイ…わたし、診療室が使えないか聞いてくるわ」



 一方的な言葉を話すと走り出した。





 とんっと何かにぶつかり振り向くと、背が高い傭兵の様な身なりの男性がホノカの肩を支え見下ろしている。


「お嬢さん、ごめんね。おっ、素敵なブレスレットをつけてるね。これなら、感染しないか……」


 軽く手を上げて謝罪をすると、ホノカの肩をはなしさっていった。






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