4.
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正午を回った頃にユリウスの元を訪れて、ホノカの動向を伝える事がカートレット家の騎士三人の日課になっていた。
婚約当初は殺伐としたこの日課も、ホノカの人となりを知ってからというもののマテオスやクラークは分からないが、アオイにとってはまるで友達の一日をお父さんに報告している様で、当主ユリウスとのコミュニケーションの一環としてもまぁ、苦痛ではなくなっている。
「朝食のチーズオムレツを二人で仲良く半分こしていらして、癒されました!あとは、最後のご報告ですが、ホノカ様のお引越しが完了しました!」
三騎士の中で唯一の女性騎士アオイはツインテールを踊らせながら、一礼した。
「そうか」
机上の書類から目を離そうともせずに、ユリウスは淡々とアオイの報告を聞いているふりをしている。
もう周りにはバレバレなのだが、ホノカを深く知りたいとはっきりと宣言する事はまだ恥ずかしいわけで…。
あまり興味ない素振りをしてしまっている。
報告といっても今までは、ジェイルと食事をしたやら、かくれんぼをしたなどといった、たいして変わり映えもない日常の報告だったのだから、今日も特別な何かなんてないはずだ。
(いや…今日は婚姻式を挙げた翌日だ…。ホノカ嬢…いや、妻が私の事を何か言っていたかも…)
「他は?」
「はい?」
極めて冷静にいつも通りを装ったユリウスを小首をかしげてアオイが見た。
「他には何か言っていなかったか?」
「…特には…?」
(特には…だと…?)
ユリウスは眉間に深い皺を寄せ、目の前のアオイに鋭い視線を投げるが、主君の鋭い双眸には慣れ慣れで萎縮する事はない。
「特にはないですね~」
いつも通り軽い口調でとどめを刺してくるアオイに対して若干イラつきを憶えたが、自分にはまた大した事ではないと納得させ、明日こそは新婚の夫婦らしく一緒に出かけるのもいいなと思う。
確か若い女性に人気のカフェが出来たとクラークが言っていた。
初めて二人で出掛ける…。
想像し思わず緩んだ頬をアオイに見られぬように、いつもより更に険しく表情を引き締めた。
「それはそうと、ユリウス様はご一緒にお食事されなくてもよろしかったのですか?」
「見ればわかるだろ?」
アオイを一瞥しユリウスは書類の山へと再びペンを走らせるが、普段より多い書類達に溜め息が溢れた。
執務室の机上にはユリウスをセンターにして、左右に天井まで届くほどの未処理の書類が積み上げられている。
本当に何故か普段より格段に高い山だ…。
まぁ、冬季に入る前だから仕事が増える事は仕方ない。
ユリウスだって、食事くらいは一緒にとりたかったが、時間を合わせる事が難しく、どのタイミングでとれるかもはっきりと断言できない。
だから、ジェイルはともかく、ホノカに合わせてくれとは言えなかった。
ホノカだったら、お願いすれば待っていてくれただろうが…。
まぁ、書類は今日中になんとかすればよい。
だから、特になくても…物凄くショックではあるが、いつも通りの報告であるなら、まぁ、良い。
彼女が平穏な生活を送っているなら、それが一番なんだから。
「そうなんですけど…」
「何が言いたい?」
「先程、ジェイル様からお聞きしたのですが…」
アオイは視線を斜めに下げ言い淀む。
「言え」
ギロリと鋭い双眸がアオイを射抜くが、何度も言うが慣れっこである。
しかし、今回ばかりは次に訪れる怒号?か、はたまた、主君の狼狽えぶりを想像すると、アオイ自身も気が重くなる。
「暫く湖畔の別邸へ行くそうです!」
「は?…いやいや、待て!湖畔の別邸だと!?これから冬季になるというだけでも、過酷であるのに、母がいるんだ…賛成できると思うか?」
「そうですよね…」
アオイは耳が猫や犬のようにあったのなら、ぺたんとしょげさせていたに違いない。
そう思えるほどに見るからに、眉根を下げしょんぼりしていた。
「いつからだ?」
「…週明けとジェイル様は仰っておりました」
「週明けか…」
次の怒号が飛び出すかと目を閉じ項垂れたアオイとは裏腹に、ユリウスは顎に手を当て思索するのだった。
************
おもえば嵐の前の静けさとは正にあの日だった。
ベルツリー家にしては穏やかな一日は小さな小鳥の囀りから始まった。
ホノカの婚姻式から帰ってから荒れていたベルツリー夫妻達も、1週間もたてば落ち着き、ホノカの婚姻で得る予定の利益で笑いが止まらない。
取らぬ狸の皮算用である。
ただ、それが娘ホノカの犠牲から得る物だったとは少しも考えなかった。
ユリウスとジェイルがホノカへ好感を持った事は嬉しい誤算だったけれど…。
まあ、ホノカにとってはベルツリー家で虐げられるよりはよほど幸せだ。
見栄のために続けているアカデミーも、開校しているだけで赤字が大きくなるのだが、プライドが邪魔をして閉校する事は出来なかったのだが、カートレット家との契約でプライドも守られ、下手したら利益も出る。
「早くホノカに命令して、カートレット家の資産を自由にしたいな」
太った狸がにたにた薄気味悪い顔で笑えば、
「あの子は鈍臭いから、私達が上手くやらないといけないわ」
と、ごてごてに着飾った痩せ狐がこちらもまた、下品に笑みを浮かべる。
「シンヤ、近いうちにお前からもホノカに助言してやれ」
「…わかりました。近々カートレット家ご当主様にご挨拶に向かいます」
と、シンヤも笑う。
この獣達と同じ場所で同じ様に笑うシンヤもまた、同類なんだろう。
シンヤは狸か狐か…?
…いや、どちらでもいい。
無意味な質問はしても意味がない。
例え自分が踏み入れてはいけない場所へ向かっていたのだとしても、気が付かなければ知らないまま終える事が出来ると思っているから…。
自身が何であれ、未来は変わらない。
そう思う事でずっと生きてきた。
変わらない…。
変わらない…。
ベルツリー家最後の平穏な日常が静かに崩れ去っていこうとしている事に、彼らはまだ気付けずにいるんだ。
「あの…どなたかいらっしゃいますか?」
深い淵にいるような声が聞こえた。
窓から外を覗けば暗い色のマントを纏った影が見える。
(誰だ?)
予定にない来客にシンヤは首を傾げたが、両親は何も違和感を感じてない様でその人物を屋敷に招きいれるように使用人に告げた。
(俺が聞いてない来客のようだな)
ベルツリー家では夫妻の来客は子ども達に知らされてない事も多く、お互いに知らない人間の出入りに気が付きにくい。
今までは特に不便はなかった。
しかし、これが闇への始まりだったと後になって気が付いたんだ。
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