2.
いつもありがとうございます!亀ペースでの更新申し訳ありません。。
柔らかなミントグリーンを基調としたダイニングルームへ足を踏み入れれば、背筋をぴんと伸ばし椅子に座るジェイルが顔をほころばせてホノカへと視線を送ってくれた。
「ジェイル、お待たせしてごめんね」
「全然待ってません!」
結婚して初めての朝だというのに夫であるユリウスの姿はなく、朝食のメニューもこれと言って特質だってお祝いの料理感は無い。
ただカートレット家の朝食は豪華で勿論不満はないのだが、少しだけ寂しくもあった。
(ユリウス様は一緒じゃないのね…)
ふとごく自然に湧いた感情に戸惑い、少しぎこちない表情でジェイルへと視線を移せば、心配そうに見つめ返す彼の瞳に心臓が波打つ。
「どうかされたのですか…?」
「ううん!昨日いろいろあったでしょ?だから、多分疲れが出てるのよ。あぁ。お腹が空いて死んじゃいそう!食事を始めましょう!」
ジェイルの心配そうに揺れる瞳は変わらないが、ホノカに合わせ笑みを浮かべ頷く。
「はい。食事の準備を」
ジェイルの指示で配膳係のメイド達がカートを押してやって来た。
ケースを開けると中からほわっと温かな湯気が溢れ、鼻腔を擽る香りで食欲が本当に湧いてくる。
スコーンにはクロテッドクリームやはちみつ、苺やブルーベリージャムが添えられ、甘くないパンケーキや数種類のパン、マフィンなどもあり、テーブルが朝からご馳走で埋め尽くされていった。
冷たい肉料理として、いつもはハムやテリーヌが並べられており、日によっては魚料理もある。今日は何だろうか?
そして、卵料理はオムレツとスクランブルエッグが出来立てで提供されるのだが、各々の好みで具材を選ぶ事ができる。
それらは地下にある厨房から運ばれてきているけれど温くなっている事はない。カートレット家は優れた魔術の家紋故地下から自動で食事を運搬できる小さなエレベーターがあり、ほかほか熱々のまま食事をとる事が出来るのが有り難い。
いくらこの世界がファンタジーだからといって、登場人物には多種多様な職種があり、騎士や魔術師、商人や農民までいるのだから、各々に得意分野があって当たり前なのだが、魔術を使う魔術師の中でも上位の才能を持つ者がカートレット家だ。
「鴨のテリーヌでございます」
テキパキと配膳されていくお料理の数々を眺めていると鈴木ほのかが大好きなテリーヌが配膳される。
(鴨のテリーヌ!今日は当たりね!)
何度も朝食を経験したが、この世界の貴族の食事は種類が豊富で完食なんて無理だ。
現実世界であったなら、フードロスがどうこうと言われているので、世の常とは逆行してしまってるわけなのだが…。
(美味しそう!…だけど…)
ホノカは誰にも見えないようにお腹に手を当てると、小さく息を吐いた。
ベルツリー家で美しく痩せているこそが、女性の価値だと教えられたホノカにとって、少しでもお肉が付く事が恐怖であり、自分の存在を否定する材料にもなってしまう。
(食べたいな…。でも、太ってしまったら私は…)
「ジェイル様、オムレツはどういたしますか?」
ホノカ専属メイドステラがジェイルに問う声で、はっと現実世界に引き戻された。
「僕にはチーズを。ホノカ様はどうされますか?」
チーズオムレツを選択するなんて、なかなか良いチョイスだ。料理長が作ってくれるオムレツはとろとろでふわふわで舌の上で、溶けてしまう。
毎日同じ物を食べても良いくらいに美味しく、ステラが言うには来客にも人気の品だそう。
ホノカも本当は食べたいのだけれど、今日は前日のパーティーで高カロリーを叩き出してしまったので、泣く泣く諦めた。
「私は朝は軽めにしているから、オムレツは大丈夫よ」
相変わらずぎこちないが笑みを浮かべる事はできた。
ステラのアドバイス通りに口角を少し上げればいい。
無理に笑おうと思うから不自然に引き攣ってしまうのだから。
ただ、分かったからといって簡単に出来ないからこそ、ホノカの悪評が世の中にわたっていた事は本人も重々承知のうえだった。
「ホノカ様は痩せすぎですよ」
「え?」
「スタイルを気にされているのではないですか?」
エメラルドグリーンの宝石がホノカを静かに見つめるものだから、彼女は何も答えられずただ顔を伏せ両手を膝の上でぎゅっと握るしかない。
ジェイルの言っている事はあまりにも正論でホノカが反論する余地なんてなかった。
けれど、それを認めてしまったら今まで我慢してきた事は何なのだろう…。
「…そんな事ないわ…。ただ、今日はあまり食欲がわかないの」
矛盾している事は分かっている。
つい先程「お腹が空いて死んじゃう」って言っときながら、食欲がわかないなんておかしな話だから。
「だったら、僕を助けてくれませんか?」
「……え?」
「僕は今日スコーンをたくさん食べたいんです!ただ、チーズオムレツも食べたくて…」
ジェイルが上目遣いにホノカを見て、そっと右手をホノカの左手に添える。
「え、えぇ」
「ホノカ様が半分食べてくださるとシェフへの罪悪感が無くなると思うのです。いつも仰いますよね?食べ物や作ってくれる人に感謝の気持ちを持てと」
確かにジェイルと食事の度に言っていた。
自分の言葉が自分に返って来た。
普段口煩く言うホノカへの反撃ではなくて、優しいジェイルの気遣いに動揺と驚きを隠せず、瞬きを何度もしてジェイルの次の言葉を待っている。
「ホノカ様、僕と半分こしましょう!」
8歳のジェイルはいつも驚くほどよく食べる。
痩せの大食いとはこの事かといつも感心しているのだから、本当は今日も楽勝で完食出来たであろう事も知っている。
けれど、
けれど、今日はジェイルの優しい嘘に騙された振りをして自分を甘やかしてもいいのではないか?
(そうね。私は母親だから…)
「わかった!私と半分こしましょう!」
「はい!よろしくお願いします!」
ジェイルが触れた左手は何だか普段より体温が上がっている気がして、ぽかぽかと心地良くとっても優しい温もりだった。
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