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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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3/66

私を嫌いな彼のお話と…。

休日の為本日は3本更新できました。

 肌触りが優しい若緑色の芝生の上にホノカは身を委ね、瞼を閉じた。


 9月の頭のせいか照り付ける太陽はまだ肌を刺すように強く皮膚を赤く染めていく。


(少し眩しいわ)


 太陽を遮る様に手のひらで目を覆うと幾分ましに思えてくるから不思議だ。


(ここって『恋勝』の世界じゃない?今朝目覚めた時にジェイルやユリウスがいたし…)


 ホノカは今朝のユリウスとの一連の出来事を思い出し、暑い筈なのに背中に氷でも入れられた様にゾクッとした肌寒さを感じてしまう。


(…ゲームの様にホノカはユリウスに嫌われてる)


 まだはっきりと思い出せないが、ユリウスに嫌われる何かが二人の間に合ったのだ。


 多分、既定のルートを進んでいたから嫌われた。


 『恋勝』とは『恋の勝利は誰の手に?』というタイトルの恋愛シミュレーションゲーム。いわゆる乙ゲーだ。


 内容はいたってシンプルで、百年振りに生まれた聖女が困難を乗り越えながら好きな人と結ばれるという話。

 この身体の持ち主ホノカ·ベルツリーはヒロインに毒を飲ませようとした罪で、わりと序盤に断罪される。

 少し捻りがあるというならば、悪女ホノカ·ベルツリーは転生者でハッピーエンドで真実の愛を得る為にゲームを繰り返しているのだ。このストーリーをプレイするにはかなりやり込んでロックを解除し、逆ハールートでユリウスの好感度を一度上げる必要がある為、難易度がかなり高い。いわゆる、レアなストーリー…。しかも、断罪を避けるのも難しい…。

 

 そして、鈴木ほのかが制作に携わっているゲームだ。


(困ったわ。このままだと私はまた断罪される)


「まだ眠いのですか?」


 幼いジェイルの声が頭上から聞こえるのと同じくして、何かが太陽を半分隠す。

 

 ホノカは驚き目を開けると、逆光でよく見えないが小さな影を落とした。 


「ジェイル…?」

「はい!」

「もしかして、太陽を隠してくれてるの?」


 ジェイルは照れ笑いを浮かべ、


「はい。これなら、眩しくないですよね?」


 ニッコリとホノカに向ける笑顔は可愛くて、恥ずかしくてホノカは目を逸らした。


「あの…迷惑でしたか?」


 しょんぼりとした声色にはっとジェイルへと向き直ると、落ち込んだ様に俯く姿が映ったのだ。


「迷惑じゃないわ!…あのね、少しびっくりしたの…」

「びっくり?」


 ホノカは小さく頷く。


「そう。…こんなふうに優しくして貰った事なかったから…。ジェイル、嫌な気持ちにさせてごめんなさい…。どうしたら、許してくれるかしら?」

「許すも何も僕は怒ってません!」


 ホノカは目尻を下げて微笑むと、


「本当?だったら良いのだけれど…。あの、もし時間があるなら、私とティータイムを過ごしてくれる?」

「え!?僕と?」


 驚いた様に瞳をパチパチとさせたジェイルだったのだが、戸惑いは隠せていないが、嬉しそうに笑っているのがわかった。


「そうしてもらえると嬉しいわ!あ、急だから大したおもてなしは出来なくて申し訳ないのだけど…」

「嬉しいです!」


 近くに控えていたメイドにお茶の準備をお願いして、二人はホノカの部屋のある離れへと向かった。


 ものの数メートル進んだ先には、本邸よりは控えめながらも立派な屋敷が鎮座していた。

 こじんまりとしながらも、色とりどりの花や木が庭を飾り華やかさを醸し出している。


「ホノカ様、こちらにティータイムのご用意をいたしました」


 濃紺のワンピースとシンプルなエプロンのお仕着せは上品で侯爵家の品格を出していた。


「他のお仕事もあるのにありがとう」


 メイドは驚き表情を固くしたが、戸惑いを隠しきれない笑顔で、


「とんでもございません…」


 と、呟き作業を続ける。

 

 レースのテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には、桜の様な薄ピンク色のティーポットとそれに合わせたティーカップ。ビリジアングリーンの染具で描かれた蔦が桜色に合ってる。


(誰が選んでいるかは分からないが、センスを感じるわ)


「ホノカ様、茶葉はいかが致しますか?」


 首を傾げ少し考えたホノカだったのだが、自身が一番好きなハニーティーをジェイルに飲んで貰いたいと想った。


「アールグレイに蜂蜜をつけてもらえるかしら」


 「畏まりました」とメイドはホノカに一礼すると、離れの厨房へと向かったのだ。


「ジェイル、ハニーティーは飲んだ事あるかしら?」


 ホノカが引いた椅子に腰かけながら、ジェイルは首を傾げ考えている。


「…多分、ありません」


 パンと両手のひらを合わせると、ホノカは今一度ニッコリとジェイルに笑いかけたのだ。


「それは良かったわ!私はね、ハニーティーが一番大好きなの。昔、母が作ってくれたの。是非、ジェイルにも飲んでもらいたいわ」


 今まで、ホノカから笑顔を向けられた事のないジェイルはくすぐったそうな顔をしたが、コクリと頷く。


「お待たせいたしました」


 メイドが運んできた茶葉を蒸らし、そっとカップへと注いだ。


 ふんわりとした蒸気がホノカを包み込み、ゆったりとした時間が心地良く穏やかな気持ちになる。


 ジェイルは少し緊張しているようで、背筋を伸ばし小さな手を両膝に置いている。


(緊張がほぐれれば良いのだけど…)


 柑橘類のベルガモットの香りがつけられたアールグレイに、ハチミツを落とす。 アールグレイは渋みも少なく、すっきりとした香りが楽しめるから、ハチミツの上品な甘さを楽しめるのだ。


 きっと、子供でも楽しめるはず。



「ふーふーして飲んでみて」

「はい!」


 ホノカに言われた通りにカップへふーふーと自分の息を吹きかけ、慎重に一口飲んでみる。


 ジェイルの瞳はキラキラと輝き、優しくカップを包み込むと興味深気に紅茶を眺めた。


「どう?飲めそう?」


 小刻みに頷くジェイルを愛しそうに目を細め見守るホノカを邪魔する様に、鋭い声が空気を裂いた。


「飲むな!」


 ユリウスは素早くジェイルからカップを奪うと、中の液体を地面に流した。


「何するんですか!?」

「何をするだと?貴女こそ何を企んでいるのだ?」


 ユリウスはジェイルの腕を引っ張り自身の後ろに隠すと、鋭い目つきでホノカを睨んだ。


「は?私は何も企んでなんておりません!」

「じゃあ、何故貴女がジェイルとこの様にティータイムを過ごしているのだ?」


 眉間がぴくりと引き攣りホノカは強張った笑顔でユリウスを見た。

 

「将来の息子とティータイムを楽しんではいけないのですか?」

「何?」


 ホノカはもう一度、今度ははっきりと分かるように言葉を紡ぐ。


「私達は婚約関係です。ジェイルが貴方の子供でしたら、私ともいずれ親子になるのです。その息子と食事をしたりティータイムをするのは極々、普通の事ですよ」

「私は貴女と結婚するとは言ってない」


 最後の足掻きでユリウスは、彼女を拒む様に強めに言葉を発した。

 鋭い目つきは、決して彼女を受け入れないと誓っている様に思えるし、実際ホノカを受け入れる気はないのだ。

 

「お父様、ホノカ様は本当に僕にお茶を入れてくださっただけです」


「ジェイル、気を使わなくてもいいんだ」


 ユリウスははなからホノカがジェイルに嫌がらせをすると決めつけているようで、諭すように笑顔を向けて優しく話そうとしている様だ。


 しかし、本来表情筋が硬いユリウスには、人を和ませる笑顔は無理なのだ。



 ジェイルは少し震えながらも口を開く。


「本当にお茶を入れてくださっただけなんです…!お父様!もう部屋へ戻ります」


 ジェイルは席を立ち、


「ホノカ様、美味しかったです。ご馳走様でした…」


と淋しそうな笑顔で一礼するとこの場を離れようて背中を向けた。


「待って!ジェイル、またティータイム私に付き合ってくれると嬉しいわ!」

「はい…!」


 ジェイルの後ろ姿を無言で見送っていたユリウスだったが、ホノカを見ることはなく背中を向けたままボソリと呟く。


「上手く取り入ったな。だが、私は貴女の本性を知っているし、見た目だけで騙される男ばかりではないと知っておいてください」

「え?」


 ユリウスは今度はしっかり視線を合わせると、


「私は貴女には騙されないと言ってるのです。では」


 ホノカの返答も聞かず去って行く後ろ姿は、自分以外の何者も信じない。

 いや、拒絶しているんだ。


 だから、


 だから、ジェイルの言葉も信じられないんだ。


(貴方は、ジェイルの事も本心では信じられていないのね…) 


 今はホノカが出来る事がまだ見つからない。


 だが、何かを変える事は出来るかもしれない。


 ホノカは自身も椅子から立ち上がると、二人が去っていった方を見つめてポツリと呟いた。


(本当は淋しいのよね…?)









 

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