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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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28/66

私の気持ちと…。

いつもありがとうございます!この回で1部完結です。次回から数話番外編の後2部スタートになります。

 目が覚めると深い森の中に私は倒れていた。


 足元には銀細工の手鏡が落ちている。アンティーク調のデザインは初めて見るものだった。


 それを手に取り立ち上がると、足に力が入りにくくふらつく。周りに体を支える物がなかったので、一度転んでしまったが、二度目の挑戦で上手く立ち上がる事ができた。


 寝起きは最悪ね…。


 悪夢から目覚めた時のように体が重く、ズキズキとこめかみが痛む。


 起きたばかりのぼんやりとした頭で漸くさっきまでの記憶を辿るが、何故だが霞が掛ったように記憶を包み隠し私の心をざわつかせるばかりだ。


 不安に襲われ両腕で自分の体をきつく抱き締めるが、体は血の気を失い寒くカタカタと震えている。


 歯もカチカチと当たるし、世界は歪み始めていく。


 体調が悪いと気分までどんよりと落ち込んで、自分はなんてダメな人間なんだと思い、暗い思考で頭が一杯になってしまう。


 あぁ……。


 やだ……。こんな気持ちになるなんて……。


「わん。わん!」

「毛玉ちゃんも一緒だったの?」


 膝を折り地面にお座りしている毛玉ちゃんの頭を撫でると、少しだけ気持ちが軽くなった……。



 私は独りぼっちじゃない。



 揺れ動く感情は何かを求めているからだと学者が言っていたのを聞いた事がある。


 あの人達に会ってからというもの、実家の時とは違い楽しい事や嬉しい事もあったわ……。


 ジェイルは可愛くて優しい。


 毛玉ちゃんは私のそばにいてくれる……。


 ステラはいつも私を綺麗にしてくれるし、笑いかけてくれる。


 シャーリーは素敵なドレスを作ってくれた。


 クラークは距離を感じるが、何だかんだ気にかけてくれているようね。


 アオイはツンツンしているけど、実は私を好きでいてくれる。


 マテオスはまだ謎な部分が多くてチャラいけど、悪い人ではないと思う。


 ユリウスは……最近、優しくなったと思う……。前とは違って、私に対する気遣いが見えるの……。



 そう思うと自分は好きなモノがあると実感し、少しずつ幸せな気持ちになった。



『ずるいわ!貴女と私は何が違うというの?』



 声に驚き周りを見てみるが声を発する様な人なんていない。


 しかし、どこからか声を掛けられているのは、確かだ。



『だから、貴女が持つ鏡の中を覗いてよ!』



 声に従い恐る恐る手鏡を覗くと、今のホノカにそっくりな女性が鏡の中で目を吊り上げ鬼の様な形相で、ホノカを睨みつけていた。



『貴女がいるのは私の体なの!なのに何が違うというの…?』



 表情とは違い、涙に濡れた声は悲痛な叫びとなり、鈴木ほのかの心を揺さぶった。


「全てが違って当然なの」

『私がダメな人間だと言いたいの?確かにヒロインに意地悪をしたし、両親に言われるままに男達を誘惑した。……だけど、そうじゃないと生きていけなかったのよ。……私はただ幸せになりたかっただけ!!独りぼっちは嫌なの!!』


 悪役令嬢とは思えない程に顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして、彼女は泣いていた……。


 そっと鏡に手を触れると、ホノカ·ベルツリーの感情が激しい勢いで洪水の様に鈴木ほのかへと流れてくる。それはとても、苦しく息もできないくらいで深い水の中に沈められているようだ。


 何度も呼吸を試みるが、上手に息ができない…。


 ホノカはいつもこんなにも苦しい思いをしていたの…?


【役に立たない女だ!】『申し訳ございません』


【貴女を愛する人なんていないわ】『はい…申し訳ございません』


【これ以上食べるんじゃない。見た目だけが唯一の取り柄なのに、商品価値が無くなるだろ!】『申し訳ございません』


【あの毒婦のせいで婚約者が私を捨てたの】『申し訳ございません』


【下品な女】『申し訳ございません』


【❋❋❋❋❋❋❋❋】『申し訳ございません』『申し訳ございません』『申し訳ございません』




『私は何度謝ればいいの?』

『私は何に対して謝っているの…?』


 放心したようにホノカ·ベルツリーは立ち尽くしていた。


 傷付いてボロボロでも、幸せになる事を諦められず藻掻いていた。


 でも、藻掻くから苦しいんだ……。


 諦めれば私もホノカ·ベルツリーも楽になれるかしら?


 自分が作った過ちは自分で責任をとる。


「一緒にいよう」

『え……?』


 鏡の中のホノカは涙に濡れた瞳で不思議そうに小首を傾げた。


「1人になんてしない」

『そう言ったって、貴女もいつか私の前から消えるんだわ』


 私は鏡の中のホノカ·ベルツリーと向き合い、諭すようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「ううん。絶対そんな事はしない。だって…私と貴女は同じ人間なんだもの」

『え?何言ってるの?』

「就職祝いで買ってもらった枕も、一緒にいて楽しかった事も全部私の願望。ホノカ·ベルツリー、貴女は私の願いを叶える為に作られたもう一人の私…」


 ぷつんと光を繋ぐ糸が途切れた様に世界は黒一色になった。


 嵐の様に荒れていたこの空間が最初から何もなかったかのように、静かに無機質な世界になっている。


 鏡から出て立っている女性はホノカ·ベルツリーだ。


 ホノカは顔をぐちゃぐちゃにして涙を拭かないまま、私に尋ねた。


『思い出したの…?』

「うん…」

「ごめんなさい。貴女に背負わせて…。ありがとう。私を助けてくれて…もう、大丈夫。だから、だから、戻っておいで…」 


 もう無理に愛情を望んだりしない。


 自分を否定したりなんてしない。


 私だけは私の味方でなくちゃいけないもの……。


「ホノカ……」


 私が両手を伸ばすと、ホノカも伸ばし私の指に自分の指を絡めた。


 繋いだ指先から桜色の光が放たれ、私とホノカを包み込み、絡めた指は光に溶け、私の身体に吸収されていく事を感じた……。


 光の中ホノカは優しく私に笑いかけると、


『ずっと一緒よ』


と、告げ消えていった。


 堪えきれず涙を零しながら膝を着くと、毛玉ちゃんが私に寄り添い励ましてくれる。


「ありがとう。励ましてくれるの?」


 ドサッと倒れ込み大の字に空を見上げポツリと呟く。


「不思議ね…。今、私凄く心穏やかなの。欠けていた私の欠片が戻ったからかな?」


 ふふっと笑うと、毛玉ちゃんは不思議そうに目を細めまるで人間の様な表情で私を見ていた。


 それは、なんとも不思議な顔で、そういえば、この子は何者なのか?と疑問がふと過ったが、何でも深く考える癖は止めたほうがいいかもしれない。


 今は、私と同化したホノカ·ベルツリーの温もりを感じていたい……。


 私の心は穏やかに凪いでいて、このままこの包まれた空間で侵食され溶けてしまいそうだと思った。


 めちゃくちゃでぐちゃぐちゃな世界だけれど、私はこの世界、この思いに身を投じて行こう。


 それから、もう少し思考を纏めたらこのどこか知らない場所から出る方法も考えないとね……。


 あぁ。


 でも、今は意識を失いそうに眠いわ……。


 少しだけ、もう少しだけ眠らせて……。


 私はゆっくり目を閉じて、



「ホノカ様!僕の手を掴んで!」


 空から聞こえた声に驚き目を開け、顔を上げると、ポッカリと開いた穴から小さな手が見える。


「ジェイル?」


 小首を傾げて尋ねると優しい声が頷いた。


「そうです!」

「届かないよ……」


 精一杯のつま先立ちで腕を伸ばすが、指先ほども触れられなくて、じわっと涙が瞳に溜まっていく。


「大丈夫です。頑張って。僕が必ず掴むから!」 

「うん!」


 涙で霞む視界はクリアーではなくなり、ジェイルの手さえも朧げに見えるだけだけれど、もう一度力の限り手を伸ばした。


 でも……やっぱり届かない……。


「ジェイル……ありがとう……でも」

「ホノカ様?だめだよ!諦めないで!」


 私が手を下ろそうと体の力を抜いたその時、ふわりと私の体を誰かが持ち上げてくれた。


「もう起きる時間だ」


 優しく囁きかける声はさっき夢の中で聞いたあの声だった。


「あれ……?佐久間主任……?あれ?ここは夢だったんですか?」

「残念ながら、❋❋❋の世界だよ。時間がないから簡潔に話すからよく聞け。君は○○○の花嫁になり、ホノカ·ベルツリーの断罪を回避しろ。そして、❋❋❋❋❋❋❋元の世界に戻れる筈だ!❋❋❋❋❋❋❋」

「え⁉聞こえません!佐久間主任?」

 

「ホノカ様!」


 ジェイルの手が私を掴み、力強く引き上げられる。


「毛玉ちゃん!」


 私の体に飛び付いた毛玉ちゃんをもう片方の手で掴むと、ゆっくりと膜のような物を抜ける感覚が襲った。


 眩しい光に目を細めると懐かしい部屋……。


 暗闇の世界から抜け出すことができたんだ……。


「ホノカ様!大丈夫ですよ」


 にっこりと笑うジェイルと少し離れた所から私を見つめるユリウスが安堵の表情で微かに微笑んだ事を、私は見逃さなかった。


「あの……これは?」


 バルコニー近くの壁はボッコリと抉れ、絨毯やカーテンは煤にまみれ、花瓶は割れていて、絵なんてズタズタだ。


「この犬が暴れたんだ……」


 ユリウスに首輪を摘まれた、毛玉ちゃんより少し大きな犬が牙を剥き出し怒っていた。


「まあ!可愛い!この子も飼うんですか?」

「は?」


 ユリウス様は目を見開き驚いている。


「名前はマリモちゃんが良いですわ!」


 毛玉ちゃんは嫌そうにしたが、とっても似ているから兄弟かも……。


「ホノカ嬢、今日は色々大変でしたので、別邸でお休みください」

「……はい……」


 やっぱり婚姻しても、私は別邸で過ごすのね……。


「明日は、引っ越しなので後でステラに荷物の整理をさせましょう」

「え?」

「婚姻式を挙げたんです。夫婦同室が自然ではないですか?」

 

 そんなユリウスを見たこともない様な生温い目で、クラークが見ていた事には気が付かない振りをした。


「はい。畏まりました」

「ホノカ様、さぁ」


 ステラに付き添われ部屋を出ると、ステラがニッコリと笑い私に尋ねる。


「荷物の整理は後にして、まずは湯浴みをしましょう。ホノカ様にも煤がついてしまってますから……」

「えぇ。よろしくね」


 この通路を通って別邸に行くのも今日が最後になるのね。


 本邸に移れるという事は、バッドエンド回避に近づいていると思っていいよね?


 それに、佐久間主任が言っていた……。

 よく聞こえなかった所が何カ所かあったけれど、私から再度確認する事は出来ない。まずは、ユリウスとの関係をもっと良くする事が重要だわ。


 私は、固く決心すると背中を伸ばし別邸までの廊下を毅然とした態度で歩く。


 部屋に戻り翌朝引っ越し…の予定だったのだが、何故か隣で眠るユリウス様とジェイル様……。


 一体何が起きたの!?


 


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