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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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2/66

創られた世界と…。

2話目更新です!


世界は空虚な現実で出来ている。


 他人から見たら幸せな人でさえ、自身では満足してはいない。


 強欲で、


 貪欲だ。



(多くを求める事はいけないことなの?)


 あまり働かなくなった頭で必死に考えたけれど、結論はでない。まぁ、今にして思えば間違いだったのかもしれないとは…認めるしかない。今の私が未来を変えられなかった原因だもの。


(私は今回も多くを求めすぎた…)


 選択を間違えたからこそ、私はまた死ぬんだ。

  

 ズルズルと地面と摩擦した両足の皮膚は裂け、断面は黒く濁った血が取り留めもなく流れている。

 痛みがホノカを現実に戻し、思考を遮りまた、逡巡した。


 ホノカは時折小さく顔を顰めた。


(まだ痛みは感じるみたいね…)


 えぐれた皮膚を何度も地面が傷をつけ、声を上げそうになるが、そんな弱みは見せたくなかった。


 ホノカが泣き叫んだところで、民衆達は喜び自業自得だと嘲笑うに違いないからだ。


 ホノカのシルバーの髪は光沢を失ったボロ糸の様で、かつてのシルクの面影はない。令嬢達に羨まれていた、ピンクルビーの瞳も雲が影ったようで、月の様な儚い美しさは無くなってしまった。

抵抗する力もないまま、また何度目か分からない処刑台の上に酷く汚れた布で目隠しされ立たされたのだった。

 両足を伝う真紅の液体は止まることもなく、小さな水溜りを作り上げていく。


「早く処刑しろ!」 


「悪魔!」


 誰だか知らない筈の人々から罵詈雑言を浴び、ホノカの心はズタズタの筈だった…?


 しかし、ホノカは口角を薄っすらと上げ笑っている。


(あぁ。今死んだって、どうせまた始めから始まるに決まってる)


 ホノカは大袈裟に溜め息を着くと、両脇に控えている兵士に向かって質問をした。


「は?」


 兵士の一人は間抜けな声を出しただけで、言葉を失う。

 もう一人は怒った様にホノカに向かって何やら怒鳴りつけた。


「ごめんなさいね。滑舌が悪くて貴方が何を仰っしゃりたいのかわからないのだけど…」


「処刑はいつ?さっさとやってくださらない?」  


 何度も殺され続けた。


 一回目は自分が悪い。


 二回目は濡れ衣を着せられた。


 三回目は…?


 もう思い出す事もできなくなってる。


 滑稽ね。


 自嘲気味に笑い、顔をそむけた先に愛しい彼の姿があった。

 漆黒の髪にエメラルドの瞳。優しく光が灯る瞳は幼い頃からずっと変わらない。


 ずっと大好きな貴方だ。


 いつも優しく私を愛してくれてたでしょ?

 

 彼なら私を信じてくれるわ!


 …私は…あの子に毒なんて盛ってない…!


 


 …ユリウス…!


 ユリウス!


 あなたを愛していただけなの…。


 私は必死に瞳で訴えかける。



 


 


 あ…は…は…




 すっと逸らされた瞳は彼のものとは思えない程に、冷たく私の心を凍てつかせるには十分すぎた。


(あぁ。ユリウスも私を信じてくれないのね…)


 他人が私をどんなに悪く言ったって貴方さえ信じてくれたら、こんな空虚な気持ちにはならなかった。


 笑え。笑え。


 最後の意地で私はユリウスに向けて笑顔を送った。


 ユリウスと私の視線は交わるけれど、私の気持ちがユリウスに届く事はなかった。


「処刑を始める!」


 振り降ろされた手。


 ユリウスの声が聞こえる…



 頬を伝う雫はもう温度を感じられない。


 私は…



 この世界から消えるの…





 さようなら…


 

 足場を無くし支えられなくなった身体は虚しく振り子時計の様にゆらゆらと揺れている。



 出せるだけの力で首に絡み付いたロープを外そうとするが、無駄に怪我を増やすばかりで、外れる事はない。

 

 それに、もう生きていたって仕方がない。

 けれど、人間とは不思議で死のうと思っても体は反射的に生きようと足掻いてしまう。


 

 耳障りな歓声だけが私を包み込み、自分の死は喜びの対象だと改めて突き付けられた様だ。




 私が死んだところで、誰も悲しまない。


 そんな事は知っている。

 また、繰り返す事も分かってる…。



 だけど、


 だけど、


 何度だって後悔してしまうの…。




 罵声を浴びながら、ホノカの世界は漆黒の闇夜に包まれていったのだった。


 【恋の勝利は誰の手に】悪女:ホノカside






 カタカタ、






 カタカタ、




 

「佐久間主任!【裏ステージ:悪女ホノカside】なんてどうですか?」


 ホノカの後ろから画面を覗き込む様に見た佐久間一実は呆れたように溜息をこぼすと、ホノカの後ろにある自身の椅子にどかっと腰を下ろした。


 部屋一面にパネルが犇めき合っており、一つ一つの物語が繰り広げられている。

 

 いや、繰り広げられると言うのはあまり良い言葉ではない。 


 一つ一つのパネルの向こうではキャラクターそれぞれが、生活をしているのだから…。



「需要があるか?…ほのか·S。君は自分と同じ名前をつけてしまったこの子に愛着を持ってるんだろ?」


「だって…急いでたから…」


「その場にいたから分かってるよ。だから、あれ程、余裕を持って仕事しろと言ってるんだ」


 ほのかは両手のひらで耳を押さえ、


「聞こえませんよ〜」


 そんなほのかから視線を外すと佐久間は呆れたように溜息をはいた。


「主任、溜息多すぎですよ」

「…誰のせいだよ。それに、救われなさすぎる」


 悪ぶれないほのかを見ながら、佐久間は自身のプログラムに向き合い、暫くキーを打ち続けていたが、ふとその手を止めて席を立ち反対側のほのかの席に近付いた。



「執着するな。ヒロインやヒーローがいれば、悪役が存在するのが物語ってものだろ。このゲームをやる人達だって、ザマアやハッピーエンドが見たいからやってる。君だって、ストーリーにワクワクしたから、ゲームを作りたいって思ったんじゃないのか?」



 ほのかを諭すように話す佐久間をじっと見ていたほのかの口が小さく震える。


「…分かってますよ…。でも、この子だって私の大事な子なんです。それに、人気がでればsideストーリーももっと作れるわけですし、この子がハッピーエンドになる派生作も制作できます!」

「理想論だな」

「だから、分かってますよ。理想論です。でも、いつか私は叶えてみせます。悪役だって私はみんな幸せになってほしいから」



『だったら何故私が断罪されるストーリーばかりを作ったの?』



 聞き慣れたメゾソプラノの声にほのかの動きは止まり、思考回路が正常に動かなくなった。


 冷たい何かが這うようにほのかを探す。

 その何かはほのかを見つけると、ほのかの指先を握り、画面の向こうへと引っ張っていく。


「え?いや、いや…」

「ほのかどうした?」



 ほのかはイヤイヤと首を何度も横に振りながら、自分の指先から何かを剥がそうとしている。

 

 何故、佐久間にはほのかが何から逃れようとしているのか分からない。

 彼の瞳にはほのか以外の第三者の姿なんて見えないのだから。


「主任!…助けて!」


 ほのかの瞳は涙で潤み、唇は強張りガクガクと震えている。

 髪を乱しながら、力の限り彼女はその何かに抗うのだが、彼女の精一杯は何の力にもならなかった。


(何かが起きてるのか?) 


 ほのかの体はビクビクと波打つように痙攣し、彼女は彼女で無いようなピンク色の瞳へと変わっていく。


 何かに侵食されていく…。


 チョコレート色の瞳は光のないピンクの石になり、そして、焦げ茶の髪は銀糸に変化した。


「ほのか!」


 急いでほのかの指先を握った佐久間はあまりの冷たさに思わず手を離してしまった。


 佐久間が触れた部分は、人の体温とは思えない程に冷たく無機質である。

 目には見えない何かがほのかを包み込む様に存在していた。

 

 いや、今佐久間の目に映る人物はかつての鈴木ほのかとはかけ離れている。


(何かが…いる?それとも、この子は鈴木ほのかじゃないのか…?)


 カタカタ、


 カタカタ、


 カタカタ、


 ほのかでも佐久間でもない何かがキーを操作している。


 その直後、耳障りな高い警告音が室内を包み込んだ。




【シンクロ完了。只今より、鈴木ほのかはホノカ·ベルツリーの世界へ移行しました】



 ピー。


 ほのかの体は力を失い、床へと崩れ落る。彼女の体は生きた人間とは思えない程に重く鈍い音を奏でた。


「ほのか!」


 佐久間はほのかの肩を揺するが、彼女の体は家主を失くした人形の様に力も無ければ、生気をも感じられない。


「何が起きたんだ…?」


 何が彼女と自分の身に降り掛かったかを理解出来ず、心臓は激しくリズムを刻んだ。

 

 彼女を見ているしか出来なかった自分は何て無力なんだろう。


(何が起きたのかは分からない。だけど、最後に微かに見えたほのかの瞳はホノカ·ベルツリーの物だ)


 信じがたい考えに佐久間は大きく頭を横に振った。


(まさか、そんな筈はない…。だけど…)


 ほのかを簡易のソファーに運び、足早に佐久間はほのかの席に戻りモニターを再度開いた。


 軽快なリズムと乙女ゲームらしいオープニングサウンドが流れ、エンターを押しログインする。


(いつもと同じだ)


 だが、それは自分の勘違いだと直ぐに気が付く事になる。

 本来はヒロインの部屋のベッドが画面に映るはずが、空虚な暗闇の様な空間が表示されるのみだった。

 

 真っ暗だ…。


(俺が知る景色じゃない)


 何度もキーを押すが、画面は変わる事はなく静寂だった。


 このまま、暗闇に飲み込まれるのではないかと思わずにいられない。


(プログラムに異常がきたしている…)


 焦りから、佐久間は髪をかきむしる勢いでグシャグシャと手を動かした。

 落ち着かなければと分かってはいるが、信じられないような現実に心が理解を拒否して逃げ出したいと思ってしまう。


(落ち着け…。なんとかして、今の状況を理解して、それから…)


 何度も大きく深呼吸をして、現実へと戻ろうとしているが、次から次へと佐久間の予想を超える自体が起きていた。


 普通に生活していたら、身近な人間がこんな風に意識を失う事はなかなか無い。


 いや、病気ならあり得る話だ。


 だけど、病気とは思えない。


 そうで、あったなら救急車を呼べば良い。


(病気であるなら、俺が見たモノは何だ?…いや、もしかしたら、それは気のせいで、ほのかの脳に何かが起きたとは考えられないか?)


 佐久間は慌てて、ほのかに駆け寄ると携帯電話を取り出し、救急の番号を押そうとした。


 けれど、佐久間の動きを止める様に、再びほのかのディスクから音がした。


 

 カタカタ、



 カタカタ、



 漆黒の場面に文字が浮かぶ。



「裏ステージ:悪女ホノカside…」





 手から落ちた電話は、鈍い音を立てて滑り落ちたのだ。





 




 『責任を取りなさい』


 意識を失う前に聞いた女性の声が脳に響く。


(責任って…?)


 ぼんやりとした意識では、直ぐに誰かわからなかった。


 何故かは分からないが、さっきまでいた仕事部屋ではなく暗い空間に自身が囚われていることを知る。


「あなたは誰…?」

『はっ。本気で言ってるの?』


 呆れたように鼻で笑う女性の声には確かに聞き覚えがあった。


「…ごめんなさい」


 何故だが思い出せない記憶がある。

 それは記憶の隅に引っかかったまま、表には出てくれない。

 思い出さないといけないのに、鍵が掛かったままのほのかの記憶の扉は固く閉ざされているんだ。


「まぁ、いいわ。一つだけ言えるのなら、私はね、貴方達に私を壊されてきたの」

「え?!貴女を壊したって何?それに…私達?」



(彼女が言ってるのは私と誰の事なの?)

 

 声は怒りを閉じ込めた氷の様に尖って周りを傷付けながら、そして、自分自身をも傷付けている。


 思わず声のする方へ指先を伸ばしたが、空虚な空間をもがくように動くだけで、彼女にふれる事は出来ない…。


『さぁ、私の代わりに結末を変えて…』


「待って!私、何をすればいいの⁉」


 闇夜の様な空間にほのかを残し声は消えた。


 宙に投げ出されたままの体はだんだんと輪郭が曖昧になり、ほのかがほのかでない何かになっていくと感じる…。


「…駄目だ。寝ちゃだめ…」


 ぎゅっと瞼に力をいれ開こうとするがいう事をきいてくれず、閉じたまま開けられない。


 今眠ってしまえば、ほのかはきっと鈴木ほのかではない誰かになってしまう。


『ほのか!!』


(…曖昧な意識の中で誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。…ごめんなさい…でも、もう無理です…)


 ほのかは抗うことなく意識を手放した。 


 


 そして、鈴木ほのかはこの世界で目覚める事になったのだ。






 



 


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