親子(仮)お出掛けと…。
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緩やかな坂道には桜色の花をつけた162センチほどのホノカの背を少し超えるくらいの小さな木や、すみれ色、おひさま色といった色とりどりの野花が咲いている。
ゲームの世界を作る時に日本の桜をモデルにした、『恋勝』の小桜は秋に咲く小さな木。
好きな人に小桜を渡し愛を告げると永遠に失う事はない愛を得られると言われている。
侯爵家の庭とは違ってはいるが、日本生まれの鈴木ほのかにとっては懐かしく穏やかな気持ちを取り戻した。
「見てジェイル!お花がとっても綺麗!」
「ホノカ様は花が好きなんですか?」
「ええ」
「僕が世界の花を全てホノカ様に差し上げます」
(なんて可愛いの〜!やっぱり私の推し天使!)
「だって、ホノカ様が幸せであれば他はどうでも良いですもん」
ニッコリと笑ったジェイルであったが、腹黒さが滲み出てしまっている。
「嬉しいですわ。でも私はほんの少しでいいの。素敵な事はみんなで分け合いたいもの!」
「どうしてですか?」
「そのほうがみんな幸せだからよ。それに、この小桜はジェイルに好きな人が出来たらその子にプレゼントしてね」
難しい問題でも出されたようなジェイルだったが、軽く首を横に倒し顎に手を当てじっと見つめ尋ねた。
「ホノカ様はそのほうが嬉しい?」
「うん!」
「じゃあ、そうします!今はね…」
「?????」
ジェイルの返答は何だか胸に引っかかりを残すが、その理由は分からない。
(あれ?ジェイルってこんな感じだった?)
彼にとって世界はホノカ中心であり、全て彼女の言っている事は例え世間が間違っていると言ってもジェイルにとっては正しいのだ。
ホノカはジェイルの言動に違和感を覚えたけれど、その違和感の理由に気付けなかった。
それはまた、ユリウスも同じくジェイルの変貌に戸惑っていた。
(…ジェイルはこんなに子供らしかったろうか?…いや、コレは子供というより、異性に対する愛情にも見える。いや。そんなはずない…)
「ベルツリー嬢、今日は丘に行くのか?」
「はい!外で食べるご飯は美味しいですよ」
「他には?」
「え?えっと、小さな羽のついたシャトルという物を打ち合う遊びをやります」
「シャトル?」
ピクニックバッグとは別の鞄から白と黒の羽がついた物を取り出し、ユリウスに見せた。
現実世界で言うところのバドミントンだ。
ラケットは昨日急いでカートレット家の魔道具師に説明して、作ってもらった。少しラケットの持ち手が短く太いが、ホノカの拙い説明で作ったにしては、力作と言って良い。
しかも、魔道具師に作って貰ったので、盗難防止や紛失した際に場所を探知出来る機能がついている。
ユリウスはラケットとシャトルを凝視していた
が、つまらなそうに顔を背け、
「何が楽しいのかわからないな」
と、不躾に言葉を放つ。
「ユリウス父様はやらなくても結構ですよ」
「何?」
ユリウスの右眉がぴくりと動いた。
「まぁまぁ!せっかく家族で遊びに来たんですから、仲良くして下さい!」
「まだ家族ではないがな」
余計な一言が出てしまうのが、ユリウスの欠点だ。しかし、本人には自覚はない。
「父上!」
怒りを滲ませたジェイルの双眸はホノカだけでは無く、長年一緒に暮らしているユリウスですら、初めて目にするようだった。
戸惑いを隠せないユリウスはまだ無言で反抗的な息子を見ている。
(この2人一体どうしたの…?)
険悪な空気が漂う2人の間に挟まれ、居心地悪気に周りをキョロキョロしながら、溜息をついた。
「ホノカ母様、どうかされましたか?」
心配そうにジェイルは覗き込むが、原因の1人だと気が付いていないようだ。
「ううん、なんでもないのよ。あ!ほら、着きましたわ!ステラ、敷物を出したいのだけれど…」
ホノカ達の斜め後ろを着いてきていたステラに声を掛けると、同じく後ろを歩いていたクラークも側に来る。
「ホノカ様、どちらにしかれますか?」
斜めに掛けたカバンからライトイエローの敷物を取り出しながら、ホノカに尋ねた。
「ありがとう!今日は少し肌寒いしあちらの日がよくあたる場所にしましょう」
ステラと協力し、敷物を広げ四隅に風で飛ばないように軽く重石を乗せた。そこへ、各々持ってきた荷物を置き腰を下ろす。
ユリウスは「地べたに座るのか?」と最初渋っていたが、クラークに促され渋々皆に習い座ると、ステラに頼みお茶を準備させようと声を掛ける。
「お待ち下さい!今日は携帯ポットに準備しております」
「携帯ポット?」
「はい」
ピクニックバッグから、人数分の筒を取り出すと、ホノカは3人に渡す。
「こちらも、カートレット家に魔道具師さん達に作っていただいた、飲み物の温度をそのままに持ち運び出来るポットです。こちらでしたら、各々のタイミングで好きな時にお茶を楽しめるんです!」
カートレット家の魔道具師さん達に感謝しながら、携帯ポットに頬ずりした。
ユリウスは奇妙なものを見るような目で、ホノカを見ると、
「ステラに淹れて貰えればいいのではないか?」
「それでは、ステラはいつ休むのです?」
「は?」
キョトンと驚きユリウスを見る瞳は純粋に不思議そうで、ユリウスは自分の考えがおかしいのではないかと思いそうになる。
「ホノカ様!今は業務時間ですし、これも私の仕事ですので…」
ステラの発する言葉で、自分の考え方は至極真っ当であると安心した。
「そうね。他の方はそう思うかも。だけど、私は今日はステラやクラークさんにも楽しんでもらいたの」
「ホノカ様…」
目を潤ませて自分の事を労ってくれるホノカに感激しているステラにユリウスは言葉を失った。
母から貴族は使用人にやらせて当たり前だと聞き、自分もまた当然だと思っていた。いや、人に聞けば、ユリウスがこの世界では正しいと言う。
それが、階級の差だから。
しかし、目の前のこの人は平民のメイドにさえも心を配る事ができる人なんだ…。
(…この人は何なんだ…。私のペースが狂ってしまう…)
ユリウスはホノカに渡されたポットを握り、優しげにステラに笑いかける彼女をぼんやりと見ていた。
感じたことのない五月蝿い感情が湧き上がり、耳の辺りが温度を上げていく。
「ユリウス様?」
彼女の問いかけにユリウスは慌てて、
「何でもない」
と、抑揚の無い声で返す。
「そうですか?…さぁ、今日は動くと喉も渇くと思い、アイスミントティーも用意致しました。今手元にあるのは、ホットのジンジャーミルクティーですわ」
鈴木ほのかの世界のいわゆるチャイだ。
ユリウスは蓋を開け一口飲んでみる。
「美味いな…」
思わず溢れた笑みにホノカもぎこちないながら、笑みを向けてくれた。
ジェイルやステラに向ける笑顔とは明らかに違う笑みに、もどかしくなる。
(いつか…同じ笑顔が見れるのだろうか…?)
何故だが湧いて来た温かい感情がくすぐったかった。
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