定番と…。
いつもありがとうございます!
「私が貴女を愛する事は一生ないでしょう」
(あ、これラノベでよく読んだセリフだわ)
自分が脚本家に頼んだセリフをまさか自分自身が言われる事になるとは思わなかった。
「政治的な繋がりが必要な事は理解している。だが、私にはなんの関係もないと思っていた」
淡々とした口調で話すユリウスからは、一応王家からの婚姻を断る為に仕方なく住まわせているとはっきりと壁を作られた過去があるので、多くを語らなくても理解しているつもりだ。
また、念を押すんだ。
(そんなに警戒しなくても良いのに)
ホノカだってそんな事は重々分かっている。
それに、ホノカ·ベルツリーはユリウスに出会い一目で恋に落ちた設定だが、彼女は鈴木ほのかであり、ホノカ·ベルツリーとは違う人格なのだ。
簡単に言えば、ユリウスに恋心なんて抱いていないのだ。
「貴方の気持ちはわかりました」
「だが、この契約を無かった事にはできない」
(ふ~ん。婚姻を契約って言うんだ)
「そうですね。ベルツリー家もユリウス様と婚姻関係を結んで融資をしていただけないと、学院の継続が困難であるのが現実。ですので、私も契約を望んでおります」
「はぁ」とユリウスは大袈裟に溜息をつき、ホノカを見る事もなく言葉を続けた。
「学院か。陛下の姉の末娘がそちらの学院に通っていてね、無くす訳にはいかないから、私に白羽の矢がたった。…ベルツリー子爵家との契約は私が望んでいない事は今一度言っておく」
(だから、分かってますよ…)
「はい、畏まりました」
淡々とした口調でホノカも返した。
「結婚式は1ヶ月後とする」
「は!?1ヶ月では準備が間に合いません!ドレスを作るにしても」
「ドレスならこちらで準備した」
ホノカの言葉を遮ると、ユリウスは面倒臭そうに天井から吊るされた紐を引く。
「今、メイドを呼んだ。これからドレスの試着及び公爵夫人としての教育を受けてもらう」
トントンとノックの音がし、ユリウスの許可が出るとメイドが一人入って来た。
先日ティータイムをジェイルと過ごした時に世話をしてくれたメイドだ。
「ユリウス様、お呼びでしょうか?」
「あぁ。ホノカ様にウェディングドレスの試着を。それから、今後の婦人教育のスケジュールを伝えてくれ」
「畏まりました。ホノカ様、デザイナーが玄関で待っておりますので、お部屋へ通してもよろしいですか?」
「え、えぇ」
あまりに急な展開に着いていけず、動揺しながらも、ホノカはユリウスに聞かなければいけない事があった。
「ユリウス様、明日ジェイルと外出したいのですが、許可をいただけますか?」
ホノカを見るユリウスの瞳は呆れているようだが、そんな事は構ってはいられない。
気がついていても、気がついてないふりをする事が正解な場合は多々ある。今がその時だとホノカは思った。
「先日殺されかけた事をもう忘れたのか?」
「クラークさん達がいらっしゃいますし、ジェイルに危険はないはずです」
生意気だと言いたそうな視線は痛いが、今引くわけにはいかない。
約束したホノカがそれを反故になんて出来ないし、したくない。
「1週間後、私も同行するのが条件だ。これ以上は譲る気はない」
反論したかったが、ユリウスのエメラルドグリーンの瞳は「もう何を言っても無駄だ」と語っている。
ホノカは小さく溜息をつくと、
「…分かりました」
と言うしかない。
「では、自室に戻って結構」
メイドに連れて行く様に指示をすると、黙々と机に向かい書類仕事をするユリウスに見えないようにもう一度、溜息をついたホノカだったが、もうこれ以上ここにいても無駄だと小さく礼をしてユリウスの部屋を後にしたのだ。
(ユリウスも一緒か…)
気乗りしないが、あれが、精一杯の譲歩のようだったので、ホノカとしても従うしかない。意固地になって、外出できなくなっては、もともこうもないし。
「ホノカ様、本日より私がホノカ様付きのメイドになりました。ステラと申します」
「よろしくね。違っていたら、申し訳ないのだけど、何度かステラに会った事あるかしら?」
「はい。それもあり、この度ホノカ様付きのメイドに任命されました」
(迷惑そう…ではないわよね?)
鈴木ほのかが作った設定だが、世間でいうホノカ·ベルツリーの評判はあまり良くない。いや、悪い。
好き好んでそんな相手のメイドなんてしたくないと思われても仕方ない。
「迷惑ではない…?」
「へ?」
ステラは驚いた様に目をキョトンっとさせた。
「私、評判悪いでしょう?」
「あ!いいえ!いや、はい」
「やっぱりそうよね…」
しょんぼりと項垂れたホノカに慌てて、ステラは顔の前で両手を振り否定した。
「違うんです!確かにお会いする前は正直良い評判は聞きませんでした。ですが!」
力説したステラの次の言葉を待つホノカだったが、ステラの目に自分に対する悪意が無い事が不思議で堪らない。
(ホノカ·ベルツリーは蔑まれていたはずでしょ?)
過去を逡巡してみるが、ホノカを見る貴族達の視線は冷たく辛い思いをした記憶しかない。
使用人達だって同じだったはず。
「実際にお会いしたホノカ様は使用人の私にもお優しく、あの…噂で聞くような悪い人には思えませんでした。ですから、ユリウス様がホノカ様付きのメイドを探していると聞き、恐れ多くも立候補したんです」
ステラはぐっと力こぶを作り、
「ですから、ホノカ様付きのメイドになれて幸せです。全身全霊でホノカ様にお使え致します!」
ニッコリと笑った。
悪意などないステラの微笑みは、ホノカ·ベルツリーにシンクロした鈴木ほのかの心をざわつかせ心臓を高ぶらせ仕舞いきれない感情が溢れる。
(最近変だ…。今迄閉じ込めていたホノカ·ベルツリーの心が揺れている…。私がシンクロしているから?…苦しいよ…だけど…)
それは透明な雫となり零れ落ちた。
悲しみや辛いとは違ったホノカ·ベルツリーが初めて感じた感情。
とても澄んだ涙だった。
「ホノカ様!私、失礼な事を言ってしまいましたか!?」
オロオロと慌てふためくステラへと感じたホノカ·ベルツリーのこの温かい感情は大切に心にしまっておこう。
大切な宝物のように…。
「まぁ、貴女がホノカ様ですね。私はシャーリー洋服店の店主シャーリーと申します。早速ですが、事前にドレスを拝見させていただきました。鮮やかなお色目がお好きなんですね。宝石やスパンコールをたくさんつけてお美しいホノカ様にピッタリな華やかなドレスにいたしましょう!ホノカ様は、胸元がバックリ開いたタイプと背中が開いたタイプとではどちらがお好みでしょう?」
ドレスデザイナー兼店主のシャーリーは矢継ぎ早に言葉を紡ぐと、カバンから一冊のスケッチブックを取り出し、自身のデザイン画をホノカに見せた。
「あの、えっと…シャーリー様、まずは椅子に座りませんか?」
応接セットを指し、ニッコリと微笑んだホノカにシャーリーは恥ずかしそうに笑うと、
「シャーリーとお呼びください」
右掌で胸を叩いた。
「あの、ではシャーリー」
「何でしょう!」
テーブルに両手を乗せ前のめりにホノカへと向かう。
(グイグイくるわね)
ホノカはこほんっと一回咳払いをし、
「シンプルにお願いしたいわ」
「はい?」
「スパンコールや宝石は無くていいの。最低限の装飾を施したドレスにしていただける?」
ホノカの真意が分からず困惑していたシャーリーだったが、貴族相手に自分が疑問を呈して良いか分からず、言葉に詰まる。
だが、デザイナーとしてお披露目パーティを失敗させる訳にはいかない。
花嫁には一番輝く素敵な1日にしてほしい。
穏やかそうに笑う目の前のホノカなら聞いても大丈夫ではないか?
そんな思い出シャーリーは口を開いた。
「あの、真意をお尋ねしてもよろしいですか?」
「真意?」
不安気に頷く目の前の彼女にホノカは聞き返した。
「はい。今までのドレスを拝見いたした所、どれも体のラインを強調し、宝石やフリルをふんだんに使った物が多いように思います。…今仰ったデザインではホノカ様のお好みとはかけ離れてるのではないかと思うのですが…」
「貴女はどう思う?」
「え?」
真っ直ぐにシャーリーを見つめ彼女の意見を尋ねた。
「私は…どちらもお似合いだと思います…」
俯きがちに出された言葉が本音を隠しているようにしか見えない。
「嘘ね。先程の貴女は今までと違った私の提案に驚きながらも、気持ちが昂ったんじゃなくて?」
「私はお客様の望むデザインのドレスを作るだけです。そこに私の好みは入りません」
頑なに自分の意見を言わないシャーリーに、ホノカは優しく尋ねた。
「誰かにそう言われたの?」
「……」
「シャーリー、貴女は服を作る機械ではないわ。私は、貴女がデザインしてくれた服が着たいの」
さっきまで俯いていたシャーリーは顔を上げ、ホノカの瞳を不思議そうに見つめ、首を傾げている。
「私の…?」
「えぇ。シャーリー、貴女がデザインして私の婚姻のドレスを作ってくださらない?」
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