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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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15/66

泣いてる理由と…。

いつもありがとうございます!

「どうしてホノカ様が泣いているんだ?」


声に驚き、そちらを見ると怒りで体を震わせたジェイルが立っていた。


 開かれた扉の向こうには見知ったビリジアングリーンの木々がさわさわと風に揺られている。


 太陽の反射で顔は見えないが、大きな影と子供であろう、小さな影。小さな影は声からしてジェイルだ。だとすれば、大きな影はクラークかマテオスに違いない。


(泣いている顔を人に見られた…)


 自分の弱みを見られた様で落ち着かなさで、ホノカは視線を外した。


「あの…」


 体を硬直させ、震えながら立っているアオイの顔は真っ青で血の通っていないビスクドールの様で無機質で人間味を感じさせない。


「どうしてホノカ様が泣いているんだと聞いているよ?」


 ニッコリと笑うジェイルは表情とは裏腹に、他を圧倒するばかりだけではなく、張り付いた顔から何を言っても無駄だと語っている。


(私がゲームで見てきたジェイルではないわ…)


 彼は誰だろう?


 ホノカが知っている彼は物静かで、優しい笑みを称えてるまだ幼い少年だ。


 大人になったゲームの世界でも大人しい青年だったはずなのに、目の前に存在するジェイルは幼い少年とは言い難い成熟した、いや、無理に大人びている様に見える。



「坊っちゃん!まぁ、まぁ、そんなに怒らないでください!」


 マテオスがジェイルとアオイの間に入り声を掛ける。


 ジロリとマテオスを一瞥したジェイルだったが、聞く耳を持たないといった態度で、話を続けた。


「アオイ、僕は聞いてるよ?さっさと理由を教えて?」


 首を傾げながら笑顔で笑うが、目は怒りの色を隠せていない。


「ジェイル様…あの…」

「申し訳ございません!」


 マテオスはアオイを守る様に前に立った。しかし、ジェイルのカートレット家が身に纏って生まれる炎の圧倒的な力がマテオスとアオイを包み込みそうになり、アオイは観念してギュッと目を閉じた。


「待って!違うの!」

「ホノカ様…違うって?」


 ぎゅっと閉じていた瞼を持ち上げると、アオイを華奢な腕が包み込んだ。


(何が違うと言うのだろう?)


 アオイがホノカの鳩尾にパンチし、この小屋に連れてきた事はジェイルだけではなく他の二人もきっと見ていた。いや、クラークは確実に見ていた。だから、勘違いというわけもないし、勿論思い込みではない。


(なぜ?自分に害を与える者を庇うんだ?)


「ジェイル、誤解させてごめんなさいね。目にゴミが入ったみたいなの!」

「え?」

 

 自身の思考とはかけ離れたホノカを不思議な気持ちで見ていたが、あたふたと両手を上手に動かし、一生懸命に言い訳をしたホノカを見ていると何故か毒気が消えていく…。


(面白い人だな…)


 知らないうちに緩みそうになる口角をジェイルは懸命に堪え、表情を強張らせていた。

 第三者には怒っているように見えるだろう。

 ホノカも何かまずいと感じているようで言い訳を思い付くままに話す。


「あの、あの」


 無茶な言い訳だと思っているが、周りを納得させられる程の言葉は見つからず、こんな「目にごみが入った」だなんて、誰も信じない程の陳腐な理由しか言えない。

 

「あの、その、だからね…誰も悪くないの!アオイさんとは、女の子同士仲良くなりたくて、私が2人で話したいって頼んでここに連れてきて貰ったのよ!」

「はぁ!?」


 制圧されかかっているアオイですら、思わず声が出てしまった。


「だから、ジェイル…アオイさんやマテオスさんを怒らないであげてくれる?」


 ぎゅっとジェイルの手をホノカは包み込んだ。


「…わかりました。それに、僕はそんな事では怒りませんよ。ね、クラーク」


 いつの間にか小屋の扉の近くに来ていたクラークにジェイルは同意を求めた。


「そうですね」


 感情を殺し表情を変えずに返答するクラークを恨めしそうに見ているマテオスと、「助けて…」と目で訴えかけるアオイ。


 クラークはアオイを見捨てるわけにもいかず、言葉を続けた。


「ジェイル様、アオイも反省しております。何より、ホノカ様はアオイの処分を望んでいないと思いませんか?」


 ジェイルは口を噤みクラークの話を聞いていたが、


「処分なんてしない。僕は怒っていないから」


 と、笑顔で答えた。


(いや、さっきまでかつてない程怒っていましたが…?)


 クラークの中でモヤモヤとした気持ちが脳を過ったが、気が付かないふりをした方が安牌だ。


 白黒はっきりしない方が良い時もあるのだ。


「そうですわね!誤解がとけて良かった!」


 本当に気がついていないのか、わざと気がついていない振りをしているのか、第三者には分からない素振りでホノカは声をあげる。


 おっとりと発せられた声は他者の悪意を萎えさせてしまう力もあるらしい…。


「さぁ、宝探しの続きをしましょう!」


 明るい顔で笑いかけたホノカのキラキラとした瞳にうっと息が詰まったが、ジェイルにしては珍しく心からの気持ちが唇から溢れたのだ。


「はい。ホノカ様の思うままに」

「?」


 不思議そうに首を傾げたホノカだったが、


「ジェイルの楽しい事がしたいのですよ」


 と、頬を緩ませて笑いかけた。


「僕のしたい事…」

「ええ!」


 目を大きく見開き驚いていたジェイルだったが、クシャッと顔を崩し瞳を潤ませ、陶器の様だった肌はぽっとピンクに染まり満面の笑みを浮かべたのだ。


 ホノカはジェイルの頭を優しく撫でると手を取り開いた扉の外へ駆け出した。 



「待って…」


 スカートの腰部分を掴み、恥ずかしそうに頬を染めたアオイが上目遣いにホノカを見る。


「あの…」

「なに?」


「ありがとう…」

「え?」

「何でもない!」


 先程までと変わらず、アオイはツンと顎を上げ顔を背けだが、その表情は柔らかく穏やかだった。


「さあ、アオイさんも行きましょう」


 アオイはコクリと頷くと、二人の後を追った。

 

「あのさ」


マテオスにしては珍しく憮然とした顔でクラークを見て、お腹あたりを拳で軽くコツいた。


「遅いよ」

「すまん…」


 残された2人の騎士は互いに思う事はあったのだが、今は結論を出さない方が良いと判断した。









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