記憶の中と…。
今日もお読みくださりありがとうございます!
鈍器で殴られたんじゃないかと思うくらいお腹が痛い。
(これ、昔もあったな…。いつだった?…あぁ、確か小学校低学年の頃に一輪車の練習をしてて、地面にお腹からダイブした時と似てる)
「ほのかちゃん、一輪車乗ろう!」
「私はいい…」
「どうして?もしかして乗れないんだ!」
同じクラスのちょっと気の強い女の子が言った。
「乗れるもん!」
「じゃあ、やって見せてよ!」
子供は残酷だ。
相手より無意識に優位に立ちたいから、自分の出来る事で主導権を握ろうとする。
そんな押しの強い友達に負けないようにとする事がほのかの一種の自衛であり、また、子供ながら自分のプライドを守る為の拙い行動だった。
運動神経に自信がないほのかは案の定失敗するのだが…。
この記憶は鈴木ほのかだった頃のもの。
それから、他にもいくつかの経験が静止画としてホノカの思考を邪魔してくる。
歯を食いしばって涙を堪えるホノカのお腹を蹴る男…。何度も流れるという事は、何度も暴力を振るわれたということ。
そのいくつかは、男の顔の部分がクレヨンで塗り潰した様にぐちゃぐちゃで見えない。
けれど、この髪の色はホノカと同じ銀糸。
若い男でこの特徴を持つ男はホノカの周りでは一人しか浮かばなかった。
シンヤ·ベルツリー。
ホノカ·ベルツリーの兄だ。
(ははっ。やだな、思い出したくなかった…。さっきまでは完全に忘れていたのに。まだ、ホノカ·ベルツリーとしての記憶が完全に同期されていないせいね…)
ベルツリー家では唯一の男子、ご長男様であったシンヤはホノカの双子の兄ながら対照的にとても可愛がられベルツリー家の中では彼は王様であった。両親から見下されていたホノカを彼もまた、自分より下にみていて、自分の意にそぐわない事があるとホノカに暴力を振るい言う事を聞かせる。
ただ、それもホノカに執着するあまりに起こしてしまっている衝動的な行動だが、暴力が許されるわけでは勿論ないのだ。
(シンヤや両親の事も考えないと…)
「起きて!」
ホノカの意識を覚醒させようと、若い女性の声が聞こえた。
その声は戻り始めた意識と記憶の隙間に落ちた、本来の鈴木ほのかへと伝わり糸を辿る様にゆっくりと現実世界へと戻していったのだ。
(…朝にしては暗いけど、もう目を覚ます時間みたい。また、後で考え)
「うっ…」
お腹の痛みで目を覚ますと、殺意のこもった目でアオイがジーッとホノカを見つめていた。
(朝じゃなかったわ…)
「起きました?」
可愛らしく尋ねるが、やった事は決して可愛らしくなく野生のゴリラみたいだ。
「えぇ」
「あまり痛くないですよね?すぐに目が覚める様に力は入れてないですから」
「ふふっ」と笑うが、痛くないわけないじゃないかと思う。
「痛いですわ」
「そうですか~?」
厭味ったらしい口調に少し苛ついたホノカだったが、アオイの性格を設定したのは自分だと思い返し、深呼吸するとアオイになるべく優しい口調でたずねた。
「どうしてこんな事をしたのですか?」
「…わかりません?」
この名状し難い感情は何なのだろう。
ホノカからしたら間違いなく逆恨みだ。
鳩尾を殴られ、どこか分からない暗い場所に閉じ込められている。
(それにしてもここはどこなの?)
アオイに気付かれない様に周りを見渡すが、鍬とかシャベルとかいった農耕具があるだけで、特に変わった小屋ではない。
差し込む日差しから、長い時間が経ったわけではない事は分かった。
「人の話はちゃんと聞きなさい!よ~く考えてみて。こんな事される憶えがあるでしょ!」
ホノカはは額に手を当て考えてみるが、マテオスの事しか思い浮かばない。
「まさか、マテオスの事ではないわよね?」
「そのまさかよ!だって!だって!だって!マテオスってば、貴女の事ばかり褒めるのよ!そりゃ、私は子供みたいなスタイルだし、剣術とか魔術しか取り柄がない女よ!でも…でも、マテオスはそれでも可愛いって言ってくれた!なのに…なんで貴女を褒めるのぉ?どうして、貴女を好きになっちゃったの…?」
アオイは溢れ出す涙を止めようともせず、わんわんと子供の様に泣いている。
大の大人が他人の前でこんなにも感情を曝け出して泣ける事が羨ましかった。
物心ついた時にはホノカは人前で誰かに心を許して、泣くことはなかった。
勿論、心から笑う事なんてない。
と、思っていた。
なのにこの屋敷に来てから、ホノカ·ベルツリーは知らず知らず笑っていたのだ。
これはもしかしたら、鈴木ほのかとシンクロしているからかもしれない。
しかし、それだけではない気がする…。
だけど、自分の感情を押し殺していたホノカにとっては、アオイの我儘な感情なんて自分勝手で怒りしか湧いてこない。
(貴女は自分の気持ちを曝け出して泣けるのでしょう?それを咎める人なんていなかったのでしょう?)
「本気で私に気が移ったと思っている?」
「へ?」
「気が移ったという事は一時でも好きになってもらった自覚があるのでしょう?…私は一度も誰かが自分を好きだと思った経験なんてないわ」
怒りは止められない。
さっき、夢をみたせいだ…。
自分で制御できない感情なんていらないのに、この理由のわからない感情がホノカを支配する。
「貴女、泣いてるの…?」
アオイの戸惑った声で自分の頬に触れてみると温かい液体が頬を濡らしている事に気がついた。
「どうしてホノカ様が泣いているんだ?」
ホノカとアオイではない第三者の声が、この小さな小屋に響いた。
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