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断罪予定の私ですが、予定は未定だったようです。  作者: 夏嶋咲衣
1.物語の始まり

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ちょっと先の未来と…

はじめまして。初の投稿で読みにくさや、誤字脱字があると思います…。

「実に難解だわ」



 ホノカは学園の廊下の窓から足早に歩いて学園の門をくぐった、自分より少し年上の青年を見つめ溜息を零した。


 彼の名はユリウス·ド·ラ·カートレット。


 このミラージュ王国の国王の妻マリアの弟であり、この国唯一の公爵家の当主だ。

 漆黒の髪にエメラルドの瞳を持つ彼は、未婚の頃はご令嬢達の視線を一人で集めてしまう程に整った容姿をしている。政略結婚をしたホノカの夫。 


 そして、ユリウスの後ろを小走り気味に追いかける男の子。


 ジェイル·ド·ラ·カートレット。


 ユリウスの一人息子…



 ということになっている。


 いわゆる訳ありだ。



(あぁ。まったく。ジェイルは小さいんだから、抱っこでもしてあげればいいのに…)



といってもジェイルは9歳になったので、そこまで過保護にする必要はないのだが…。


 ホノカにとってはまだまだ子供。


 ついついそういった目で見てしまうのが、悪いところではある。



「はぁぁ」


 またまた、溜息が出てしまったのだが、ホノカの溜息と同じくして横を通った女子生徒がびくっと身体を強張らせて引きった顔でホノカを見た。


 本人は意識してはいないのだが、つり目気味な彼女が少し心配そうに目を細めるだけで、一般人の4割増くらいにはきつい顔になってしまうので、初めて会った女生徒が怯えても仕方ないといえば仕方ない。


「おはよう」


 最大限に穏やかな笑みを作り、女生徒に笑いかけてみたが、頭を何度も小さく下げ走っていってしまった。


(体調でも悪いのかしら…?)


 眉間にシワを寄せ女生徒の後ろ姿に視線を送っても、ホノカの心情が彼女に届くわけもないのだから、第三者がさっするなんて不可能に決まっている。


(仕方ないわね…)


「毛玉ちゃん」


 人に聞かれないように小さな声で名前を呼べば、ポンッという擬音を共にしてポメラニアンの様な動物が姿を現した。


 初めて出会った頃は仔犬と信じて疑わなかったのだが、実はただものではなかったと知った出来事はのちのちのお話で…。


「あの子の様子を見てきてくれる?」


 仔犬もどきは不思議そうにこてっと小首を傾げたが、大好きなホノカのお願いとあらば仕方ないといった表情で、尻尾をぶんぶん振ると女生徒が走り去った方へと宙を駆けていった。

 

 その後ろ姿を見送っていたホノカだったが、ジェイルの姿を確認をしながら、これからの事などをぼんやりと考える。

 

(…平和だわ…)


 澄み渡る空を見ても闇の者が来る気配はないし、家族関係も良好だ。


 本来なら闇の者との戦争が始まっていて、こんなのんびり過すなんてありえなかった。


 だが、そうならなかったのは彼女のせい。


 ホノカがことごとくフラグを折ってしまったから。しかも、無自覚にだ…。


(あと、5年でこのゲームの世界がスタートするのね…。気を引き締めて、断罪を回避しなければ!)


 ジェイルを見ながら未来へと思いを馳せるが、残念ながらスタートする要素がないのだ。


 ジェイルはママっ子?になってしまったし、ユリウスは…察して欲しいが、ご多分に漏れずホノカラブ。


 ただ、不器用だから自分の本心は隠したまま、想いを募らせては、こそこそライバルを排除しているのだが、彼を理解するにはホノカの恋愛偏差値は低い。


 そして、ユリウスもまたモテる割には恋愛偏差値は非常に残念だった。


 まぁ、完璧な人間なんていないのである。


 そんな二人がしっくりくるまでには、時間がかかって当然だ。



(ふふっ。ジェイルってば本当に可愛いわっ)



 あまりの可愛さに悶絶寸前、理性がぶっ飛びそうな程の自分自身を戒める為にホノカは2度程咳払いをして落ち着きを取り戻す。


 しかし、ホノカの精神はまた心電図の頂点を叩き出すように、ドクンと大きく波打った。


 ジェイルが足元の石に囚われ前のめりに体が倒れかけたのだ。



「ジェイル!危ない!」



(嫌ぁぁぁぁ!)



 ホノカの声に気が付きユリウスが寸前のところでジェイルの体を支えた。



「ホノカ母様―!」



 ジェイルはエンジェルスマイルで小さな手をホノカに向けて大きく振った。


 安堵から少しだけ涙が出てしまった。


 本当に少しだけ。


 号泣すると周りがドン引きする事は分かっていたから、自制心が働いてくれた。


 良かった…!



「ジェイル〜、怪我はない?」


「は~い!今そちらに向かいます!」


 ユリウスはジェイルに何か言っているようだが、ホノカには聞こえない。


 少しムッとした顔でジェイルに向かって更に言葉を発しているが、ジェイルはわれ関せずといった態度を貫いている。


 ジェイルはユリウスへ不敵な笑いを向け学園の入口に姿を消した。


 ユリウスがチラチラと気まずそうにホノカを見ていた事には気が付かない振りしよう。


 この1年で何か親子関係が変わったように思う。



(さて、私も教室に入ろう)



 窓から離れざわざわと賑やかな声がする一番近い扉を開けた。



「乙女遊戯ってご存知?」

「勿論ですわ!乙女遊戯を知らないご令嬢がいらしたら、お会いしたいものですわね!」



 歳の頃は12、13歳であろう女の子達が現代でいうセーラー服の様な襟の制服を着て楽しそうに話している。

 その姿はまるで小鳥達が囀るように可愛らしく可憐であり、庇護欲をそそらせる。



(あら、可愛い)



「さぁ、みなさん席に着いてね!」



 シルバーの髪を無造作に一つに束ね、教師らしくシックなデザインのドレスでホノカは教室の扉を開けた。

 ラベンダー色のドレスの裾が空気でふわっと踊り、シンプルながらもホノカの美しさを現すには十分すぎる。


 ホノカはお行儀よく背筋を伸ばし着席している令嬢達を見渡すと、掌をパンと叩き話し始めたのだった。



「みなさん、ご機嫌よう。今日はみなさんがこの学園で学び始める記念の日です。三年間みんなで仲良く切磋琢磨して素敵なレディを目指しましょう!」


「「「はい!」」」



 伸ばしていた背筋を更に真っ直ぐに伸ばした令嬢達は声を揃えて返事をする。


 その姿に満足そうに頷いたホノカは、



「では、みなさんの目標は何ですか?」


 令嬢達はお互いに顔を合わせ戸惑う様な表情を見せた。

 まだまだ、深い事は考えられないみたいだ。



「勿論、それぞれ目指す場所は違うと思います。それで良いんです。…う~ん、」



(視線が痛いわ…)



 いつの間にか教室の窓からユリウスとジェイルが覗いている。



(まるで授業参観ね…)



 大人になってまでも自分の発言や発表を家族に見守られるのは、幼い子供時代に戻った様で気恥ずかしさで一杯だ。


 そんな恥ずかしさを振り払う為にホノカは自身最大の笑顔を作り、令嬢達に笑いかけた。


 静寂。静寂。静寂…。



(嫌ぁぁぁぁ。私、私…笑うの苦手なのよぉぉ…!)



 くるりと背中を向けて立ち去りたいのを、ホノカは使命感だけでなんとか笑顔を貼り付けたまま立っていた。


 ホノカは無自覚であったが、普段の大人びた無表情から『氷の女神』と裏で呼ばれている彼女の笑顔は恐ろしく可愛らしく、そのギャップから人々を魅了してしまうのだ。

 ただ、強調するが無自覚なので自分の周りの人間の反応にも少し疎く、怖がられていると勘違いしている。



「という事ですので、次回までの宿題はそれぞれの目標を作る!…よろしくお願いしますわ!まずは、自己紹介を始めましょう。…そうね、窓側の一番前の貴方からお願いします」


 突然指名された令嬢が慌てて席を立ち、幼さの残る声で自分の名前を告げた。


(もう1年か…。少しは結末を変えられているのかな…)


 ホノカはジェイルとユリウスへと視線を送ると、二人共穏やかな笑みを浮かべてホノカを見ていた。


 ホノカの視線に気がついたジェイルは小さく手を振ってくれている。


(可愛いくて優しいジェイル…。貴方は幸せになるべきなの。人に操られる人生ではなく貴方らしい温かな人生を歩んで…。ゲームの作製者が言うのはおかしいけどね)


 少女達の心地良い声を聞きながら、そっと記憶を辿る。



 ホノカは自身がこのゲームに入ってしまった1年前に記憶を遡らせる。




 あの日、



 あの日、私はホノカ·ベルツリー。



 ううん。



 ホノカ·ド·ラ·カートレットとして生きる事になった。










 1年前。



「ホノカ様?」





 まだ変声期前のボーイソプラノがたどたどしい発音でホノカの名前を呼んだ。




 声の主であろう少年は、まだ微睡みの中にいるのだろうか、時折、小さな右手で目を擦りながらホノカを見つめている。




 クリクリとした緑色の宝玉の様な瞳は第三者を惹きつけて止まない魅力。


 少し癖のある髪は濡れたカラスの羽の様にしっとりとし、艶めきだっている。




 


(ホノカ様…?)





 普段は聞き慣れない呼ばれ方に疑問が頭を過ったが、それよりも無性に少年の頭を撫でたい欲求に抗えずに、しっとりとした髪に手を触れ、優しく撫でてみる。


 


 ツルッとした手触りが心地良くて思わず何度も繰り返していると、




「ふふっ。くすぐったいです」





 少年は身を捩らせながら、くすぐったそうな嬉しそうな笑い声を上げたのだ。




(…やっぱりジェイルは可愛いわ~)




 ホノカは一人納得したように、2度程頭を立てに振り、大好きな少年の顔を見つめた。




(あ…あれ?)




 ほっこりとした幸せな気持ちに包まれていたホノカだったのだが、妙に気持ち悪い、自分とマッチしないような小さな棘みたいな何かが彼女の心に刺さり、鈍く重い跡を残していく。




(…ジェイル…?え?え?私…どうしてこの子の名前を知ってるの?)




 日本人離れしているこの少年を知らない。





 知らないはず。




 なのに、なのに、何故か家族にでも会ったかのような、懐かしく温かい感情がホノカを包み込む。




(…あれ?よく見えない…)




 目を擦って見るが、視界は鮮明になることはなく、ぼんやりとした頼りない輪郭を保っている。


 


 だけれど何故か、ジェイルの顔ははっきりと認識できているから不思議だ。




 いつもの様に枕の横に置いてある眼鏡を手探りで探すが、自分の眼鏡らしき物はないのである。


 


 ホノカの物とは違う手触りの枕があるのみだ。




 入社が決まり、一人暮らしを始めた時に両親に買ってもらったお気に入りの物。




 ふわふわした心地良い弾力のマット。滑らかな肌触りのシーツは、今までの寝心地とは違い上質である。


 今までの違和感を感じ、素肌が泡立つ様な感覚がホノカを襲った。


 驚き辺りを見渡すが、白いレースをふんだんにつかった天蓋付きベッドなんて知らない。


 そもそも、今の日本にはそんなベッドを使う人がどれだけいるのか、想像も出来ない。




(おかしい!)




 ホノカは勢いよく上半身を浮き上がらせようとするが、体は自分が思う通りに動いてくれない。


 唯一、腕から指先までが辛うじて持ち上げられるのみだ。



 自分の意志では言う事をきいてくれないみたいだ。




(体が重い…熱でもあるみたい…。それに、やっぱり視界がぼんやりとしてよく見えない…)




 自分の体が自分じゃない違和感に襲われ、軽く目眩がした。




 体温を測ろうと持ち上げた右手は日本人のホノカとは思えない程に白く、そして、折れてしまいそうに細い指先…。




 顔にかかった髪を一束手に取ってみるが、ホノカが普段目にしていたダークブラウンではなく、白髪に近いシルバーだ。



 何もかもが自分が知っている自分ではない。 



 


「ホノカ母様、頭痛い?」





 さっきの少年が眉間に眉を寄せ、心配そうにホノカの腕を掴む。




(私は鈴木ほのか…よね?…そして…、この子の名前はジェイル…どうして、この子の名前を私は知ってるの?初対面なはず…でも、この子には見覚えがあるような気がする…) 




 確認しようにも、強い近視のせいか、ぼんやりとした輪郭と顔の配置が分かるくらいだ。




 ホノカはぐぐっと顔を近付かせ、自分に話しかける少年らしき影の正体を探る様に凝視したのだ。


 ホノカの喉がひゅっと鳴る。 


 見覚えがあるはずだ。この子は…私達が作っているゲームのヒロインの相手役…。



 カタカタ。


 カタカタ。


 カタカタ。



 (ゲーム。…ゲーム?)



 聞き慣れない音がホノカの脳を占領し、他の事など何も考えられない様にしてしまう。


 初めて聞くわけでもないのに、今この世界のホノカにとっては聞き慣れない音なのだ。



(ゲームって何?そんな言葉知らない。…いや、ゲーム…ゲームを私は知ってる…)


 ズキンと頭に痛みがおき、ホノカは思わず呻き声を上げた。



「ホノカ様⁉どうしたの⁉」


 不安気にジェイルは小さな腕一杯でホノカを強く抱きしめる。



「また、同情を引くつもりか?」


 ホノカの足元から、凍てつく様に低い声が響く。


 痛む頭を押さえ声のする方へ視線を送ると、背の高い男性らしいシルエットが見える。


 表情までは確認出来ないが、きっとホノカを蔑む様に見ているに違いない。


 反射的にホノカの体は体温を失っていった。


 顔が見えなくても本能的な何かがホノカに警告をつげたのだ。


(この人に近づいちゃダメよ…)


 


 この男は多分…ユリウス。


 ユリウス·ド·ラ·カートレット。


 ジェイルの父親であり、ホノカの夫になる男。



 そして、



(…私を殺す人…)


ここまでありがとうございます!

次回も読んでくださると嬉しい。

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