第76話 このままでは悔いが残ります
私の目の前に煮えたぎったマグマの池があります。まさかこれに入れとは言わないですよね。
「さあリーサ、このマグマに入って忍耐力を付けるのだ」
本当に言われてしまいました。
「100%死にますよね?」
「わからんぞ。1%位の確率で助かるかもしれん」
「絶対に無理です!」
「なるほど一理あるな」
ミーニャさんが目を閉じて何かを言っています。絶対に一理どころではないですよね。
「う~む。やはり無理か・・・・・・・・」
気付くの遅くないですか? まさか根拠のない訓練をさせるつもりだったんじゃないでしょうね?
「わかった。この雨合羽を着るがいい」
「特殊な合羽なのですか?」
「普通の雨合羽だ」
「何の解決にもなってません! 一瞬で燃えて終わりです!」
私はさっきから爆笑しているナナカさんに尋ねました。
「こんな特訓、絶対に無理ですよね?」
「大丈夫、骨は拾ってやるから。あ! 骨も一瞬でなくなるのか」
「ナナカさん!」
聞いた相手を間違えまた。
でも、ミーニャさんは本当にこんな過激な訓練をしてきたのでしょうか?
「ミーニャさんはこのマグマに入れるのですか?」
「入れるわけなかろう」
「は?」
「私は氷属性だからな。熱いのは苦手だ」
「え? え? え? どういうことですか? たった今、私にこの訓練をさせようとしてましたよね?」
「リーサを早く裏ボスにしたかったので言ってみたのだ」
「ミーニャさん! 根拠のある訓練をお願いします!」
ほんの一瞬ではありますが、もしかして大丈夫なのではと思ってしまった私がバカでした。
それにしてもミーニャさんて本当に怖い人です。ミーニャさんの思いつきに付き合わされていたら命がいくらあっても足りません。
「今『訓練をお願いします』って言ったな?」
ミーニャさんがにやりと笑って言いました。
「え?」
「これでこの訓練は強制ではなくなったな」
「そんなのインチキです!」
「この火山には究極のファイヤードラゴンが生息しているはずだ。それと戦って炎に対する耐性をつけるのだ」
「ファイヤードラゴンというのは強いのですか?」
「ファイヤードラゴンではない。究極のファイヤードラゴンだ」
「もしかして『究極の』も名前の一部だったのですか」
「そうだ。ファイヤードラゴンの3758倍強い」
「帰らせていただきます」
「何でもすると言ったではないか」
「言ってません!!!」
このままでは本当に殺されます。ここは情に訴えて逃れることにしましょう。
「ミーニャさん聞いてください。私は小さな頃から貧乏で欲しいものも与えられませんでした。今ここで死んでしまっては悔いが残ります。お願いですから命を落とすような修行は辞めてください」
「ほう、貧しかったのか?」
「それはもう」
「飢え死にしそうだったのか?」
「いえそこまでは・・・・あ! それはもう死ぬ一歩手前でした」
「何だ私と同じではないか。なおさら究極の修行をして成り上がりを目指さなくては」
逆効果でした。
「今、死んだら悔いだらけなのです」
「どんな悔いだ?」
「例えばフォアグラを食べてないとか」
「何だそんなことか。ナナカ出してやれ」
「ほい」
ポン。
「・・・・・・・・・・」
「どうした食べないのか? ノンカロリーだぞ」
これを食べたら終わってしまう気がするのは気のせいでしょうか?
「望みが叶ったら修行だ」
やっぱり。
「早く食べて究極のファイヤードラゴンを倒しに行くぞ」
「因みに究極のファイヤードラゴンを倒すとどんないいことがあるのですか?」
「伝説に残る」
「どれだけ強いんですか!」
私は回れ右をすると歩き出します。
「どこへ行くのだ?」
「私にはフォアグラ以外にもたくさんの望みがありますので」
「何だ言って見ろ」
「そうですね。四つ葉のクローバーを見つけたことがないとか。金のエンゼルを当てたことがないとか。目玉焼きを焼いたとき双子だったことがないとか・・・・」
「ナナカ」
ほい、ポン。ほい、ポン。ほい、ポン。
ダメです。私の望みってしょぼすぎます。そうだ!
「私がなりたいのは裏ボスじゃなくてラスボスなんです!」
し~ん。一瞬辺りが静まりかえりました。そして不穏な空気が。
「仕方ない。戦うとするか。リーサ、これは本番だ。手加減はしないから覚悟しろ」
「どうしていきなり戦うことになるんですか!」
「ラスボスの座は戦って勝った者が手に入れることになっておる」
「ひええええ!」
「では行くぞ!」
「ごめんなさ~い!」
私は必死で土下座するのでした。




