第63話 ミーニャさんを怒らせるとこうなります
私たちは森を抜け丘の上に来ています。この向こうにパープルドラゴンの屋敷があるそうです。
「恐らく私が身分を明かせばそれで終わりだとは思うが、窮鼠猫を噛むという諺もある。気を付けるんだ」
異世界にもあるんですかその諺。
「因みに同じ意味の諺に『スライム勇者を噛む』というのがある」
これは異世界らしい諺ですね。でもスライムに歯はあるのでしょうか?
私たちが10分ほど歩くと1軒の屋敷が見えてきました。かなり大きいのでこれがパープルドラゴンの住む屋敷だと思います。門には2匹のモンスターが立っていました。
「おい、ここがパープルドラゴンの屋敷か」
ミーニャさんが怖い声で聞きました。
「何だお前は?」
「いいから答えろ」
「怪しい奴め」
門番が長い棒をミーニャさんの向けます。よせばいいのに。
「邪魔だどけ!」
「ふざけるな!」
「ほれ」
「ギャー!」
言わんこっちゃない。もう一人の門番が慌てて屋敷の中へ逃げていきます。
私たちはミーニャさんを先頭に屋敷の中へと入りました。中はかなり広いです。
「あ! よさげな箪笥発見!」
ナナカさんはすっかり盗賊になってしまいましたね。
さすがに大きな屋敷です。探せばいっぱいの宝があるようです。
「ナナカさん。別に勇者もどき行為を止めはしませんが、その緑に唐草模様の風呂敷を使うのは止めてください」
「どうしてよ。これいっぱい入って便利なのよね」
私は完全に泥棒の仲間ですね。
私たちが中央の大きな広間に入るとたくさんのモンスターが身構えていました。
「何者だ。ここがパープルドラゴン様の屋敷と知っての狼藉か!」
「知っておる。だから来たのだ」
ミーニャさんが中央にいるドラゴンを見て言いました。恐らくあれがパープルドラゴンですね。この中で一番大きいですし。
一番大きなドラゴンはなぜかピンク色です。ピンクだとドラゴンなのに可愛く見えるから不思議です。大きなドラゴンの周りには小さなドラゴンが数匹います。どう見ても強そうには見えません。ボディーガード的なモンスターならもっと強そうなのを選ぶべきだと思います。
「私が誰だかわかるか?」
ピンクのドラゴンは何も言いません。もしかして大物なのでしょうか?
「知らんな」
隣の小さなドラゴンが代わりに答えました。
「お前になど聞いておらんわ。どうやら知らないようなので教えてやろう。私の名はミーニャだ」
「聞いたこともない名だ」
またまた小さなドラゴンが答えます。ミーニャさんへの返事を手下に言わせるとは度胸がありますね。
「おい、パープルドラゴン!」
「何だ」
この中で一番小さなドラゴンが言いました。
「だからお前になど言っておらぬわ!」
「今パープルドラゴンと言ったではないか」
「は? もしかしてお前がパープルドラゴンなのか?」
「そうだが」
「紛らわしい配置で立つな! どうしてこんなでかいのを中心に置くのだ!?」
ミーニャさんの渾身のツッコミです。
「ところでミーニャとか言ったな。どこの冒険者か知らぬがここに来てしまったのが運の尽きだ」
「ほう、これは面白い」
ミーニャさんが不敵な笑みで両腕を組んでいます。余裕ですね。
「ここがお前たちの墓場になるのだ」
「それで?」
「この私を誰だと思っているのだ。この異世界ナンバーワンの実力者で四天王の1人パープルドラゴン様だぞ」
「いつから四天王に入ったのだ?」
「何だと! 私が本気になればラスボスであろうがイチコロなんだぞ」
ああ、言ってはいけないことを言っちゃいましたね。
「だが条件によっては助けてやらぬでもないぞ」
「条件だと?」
「そこの娘」
パープルドラゴンが私を指さしています。
「お前がこの屋敷でメイドとして働くというのなら助けてやるぞ」
「なぜリーサをセレクトした?」
「一番可愛いからに決まっておる」
ミーニャさんのこめかみがピクピク動いています。私的には何気に嬉しいのですが。
「ほほう、では次に気に入ったのは誰だ?」
「そちらの女だ」
ナナカさんを指さしています。もうどうなっても知りませんからね。
「私が3番目だと?」
「当たり前だ。お前は鏡を見たことがあるのか?」
ピクピクピクピク。
「仕方ない。私の正体を明かそう」
完全に声が震えてますね。
「何を隠そう私がラスボスだ」
「へ?」
ドラゴンたちの目が点になっています。
「パープルドラゴン。終わったな」
パープルドラゴンが俯きながら何かを呟いています。
「ラスボスなどここには来なかった。ラスボスはここに来る途中何者かに殺されたのだ。お前たち、こいつを始末しろ」
ドラゴンたちが一斉に身構えました。
「ただしこの可愛い女だけは殺すな!」
「大激怒ー!」
ドカン!!!
「ウワー! パピプペポ-」
パープルドラゴンが怪しげな言葉を残して飛んでいきました。ミーニャさんをここまで怒らせるとこうなるんですね。
こうして私たちは大役を無事に果たしたのでした。
「よし、これで帰ることができるな。まずは隣町に行くとしよう」
そうでした。帰りは歩くんですよね。とほほほ。急に全身脱力感に襲われる私なのでした。




