第61話 氷の洞窟
洞窟の中は薄暗がりの世界でした。壁一面が氷で覆われ地面も凍っているため油断をすると転びそうになります。
「そこのソファーに座って」
「ありが・・とう・・ございます」
ソファーって大きな氷の塊ですよね。
ただでさえ冷え性な私にこの環境はきつすぎます。中学生の時、体験学習で遠洋漁業で穫ってきた鮪を保管する冷凍庫を見学したことがありますが、その冷凍庫の方が確実に冷たくなかったです。
「遠慮しないで座ってね」
別に遠慮をしているわけではありません。氷の上に座るのが嫌なだけです。でも、いつまでも立っているわけにはいきませんよね。ここは意を決して座ることにしましょう。えい! キャー冷たい!
「今、冷たい飲み物を用意するわね」
「気にしないでください!」
本気でこの言葉を使ったのは初めてです。
「それでさあ、私が雪だるまんに凍える吐息をかけちゃったわけ。だったら凍ちゃって。この地方に住むモンスターのくせに最低よねえ」
うつらうつら。は! つい眠りかけてしまいました。この眠さってまさか! 『眠っちゃダメだ! 死ぬぞ!』の世界では? 危ないところでした。私は慌てて自分の頬を叩きます。
そして時間が経つにつれてミーニャさんが言っていた、『それまでは死ぬなよ』の意味が分かってきました。かなり限界が来ています。こうなったら。
「あのう、おトイレをお借りしてもいいでしょうか?」
「ごめんなさい。暑かった? 暑いとトイレが近くなるのよねぇ」
普通、逆だと思うのですが。
「帰ってくるまでに気温をもっと下げておくわね」
「これ以上下げなくていいです!」
「またまた遠慮して」
「してないです!!!」
私が部屋に戻るとドアが開きにくいレベルで冷えていました。
「お帰り~。マイナス50度くらいにしといたけど、もっと下げる?」
これは真剣に死ぬパターンですね。何とかしないと・・・・。
「私そろそろ帰らないと・・・・」
「えー、今日は泊まっててよ」
冗談じゃないです! 300%凍死です。
「本当は泊まりたいんだけど、今日はしなくてはいけない用事があって」
「やったー! 泊まりたいんだ!」
このモンスターはミーニャさんと同じタイプですか? 話の一部しか聞いていませんね。
「また、遊びに来ますから」
「ええーーー! あと1時間だけ」
これでも死ぬパターンです。
「そうだ。だったら一緒に散歩しませんか? 私はこの辺りをあまり知りませんので案内してくれたら嬉しいです」
「別にいいよ」
凄いです! 私は天才かもしれません。
私たちは洞窟から出ると森の奥に向かって歩き出しました。ここも十分寒いとは思うんですが、私にとってはまさに天国です。
「暑くない? 今日は日差しが強いから気をつけて」
「大丈夫です」
「これを羽織るといいよ」
雪おんなんがポンチョのような布を出してきました。
「これは羽織るだけで体感温度がマイナス30度になる優れものなんだよ」
「絶対にいりませんからね!」
「またまたまた遠慮して」
雪おんなんは私にひょいっと布を被せました。死にそうに寒いです!
「どう? 暑くない? もっと強力なのもあるけど」
「本当に本当に本当に大丈夫ですから」
ミーニャさん、早く来て下さい。本気で凍えます!!
「あ、向こうにアイスドラゴンがいるわ。彼の真剣に凍える吐息は超冷えるのよね~。人間なら即死だけど私たちには丁度いいって感じ。吐息掛けて貰おうか」
「お休みのところ変なお願いをしても悪いですから」
私の口調は真剣そのものです。
「大丈夫だって。とてもいいモンスターだよ」
非常に不味い雰囲気になってきてます。
「おーい」
「何だリリサじゃないか」
リリサって言うんですね。名前まで似てるじゃないですか。
「私たちに真剣に凍える吐息を掛けてよ」
「いいよ。じゃあ、そっちに行くね」
「さあ、掛けて貰お・・・・あれ? いなくなっちゃった」
死ぬか生きるかですから、必死で隠れました。
「わかった。かくれんぼね。すぐに見つけてやるんだから」
命がけのかくれんぼなんて経験する人は殆どいないと思います。
「こっちかな?」
私は必死で木の上に登って隠れましたが、そのすぐ下をリリサが通過していきました。まさにハラハラドキドキものです。運動神経皆無の私がワンピース姿で木の上の登ったのですから、どれだけ必死かがわかると思います。もうミーニャさん達は何をしているのですか? もたもたしていると本気で死んでしまいます。
その頃。
「リーサ、助けに来たぞ!」
「本当にこの洞窟であってるの?」
「間違いない。だが、なぜいないんだ?」
こうして私の運の悪さが証明されるのでした。




