第58話 罠
「私に逆らうとこの村ごと消し去るぞ!」
「うわー!」
村人は誰もいなくなりました。
「よし、これで今日もふかふかのベッドで寝られるな」
もうやりたい放題ですね。これで5日連続この調子です。さすがに心が痛んできました。
「この村はあまりいいものがなわね」
すっかり盗賊になったナナカさんがぼやきながら民家の箪笥をあさっています。
「食材もほとんど無いぞ」
これは少し困りますけど。
「ミーニャさん、こんな生活は良くないと思います」
私は思わず提言してしまいました。
「だったら野宿生活に戻るか?」
「それは嫌ですけど、随分の距離を来ましたし、そろそろ瞬間移動を使ってもいいと思うのですが」
「まだだな」
「どうしてですか?」
「せっかくの楽しい旅行をすぐに終わらせてはもったいないではないか」
私はあまり楽しくないのですが、これを言うと大変なことになりそうなので封印します。
「それにしても何もない村ね」
あちこち見て回っていたナナカさんが戻って来るなり言いました。
「仕方ない。飛び兎を捕まえてくるか」
「それはダメです」
「なぜだ?」
「可愛いからです」
ミーニャさんが辺りを見回します。
「よし、あそこにいるヘビでも食すか」
「絶対に嫌です!」
「それ以外のタンパク質というと」
ミーニャさんの視線がクロシッポで止まりました。
「キュピー!!」
クロシッポが慌てて私の後ろに隠れます。
「冗談だ冗談」
その時ナナカさんの大きな声が聞こえてきました。
「ちょっとこっちに来て!」
私たちが急いで声の方向に向かうと、そこには金属製の建物がありました。入り口には食材庫と書かれています。
「何々? どんな食材でも揃っています? これは凄いな」
「早速入ってみようよ」
ナナカさんに背中を押されて建物の中に入りました。中はうす暗いですがかなりの食材が置かれています。
「これってもしかしてフォアグラですか?」
「そうよ。やったー!」
「調味料もあるみたいですし、早速宿に行って調理しましょう」
私は思わず笑みがこぼれてしまいます。
「その必要は無いみたい」
「え?」
「ここにダイニングキッチンがあるわよ」
何と至れり尽くせりの建物なんでしょう。この運の良さだとキャビアやトリュフもありそうな気がします。
「おー! これはもしかして!」
ミーニャさんが何かを見つけて感動しています。
「これを料理しようぞ」
「これは何ですか?」
スライム型をしたキノコのような食材です。
「異世界の珍味中の珍味で、一流のコックが調理するのを断念してきた食材だ」
「そんなもの私たちに調理できるわけないわよ」
「調理は至って簡単だ。この食材を細かく切って調味料を入れて煮込むだけでいい」
「だったら断念しないんじゃないの?」
「まあ、いいからやってみろ。ほっぺが落ちるくらい美味しいぞ」
ナナカさんは半信半疑で台所に立ちます。
「まずは適当な大きさに切ればいいのね」
幻の食材をまな板の上に置くと包丁で切り下ろします。
えい! ひょい!
「あれ?」
えい! ひょい! ええい! ひょうい!
「何で食材が逃げるのよ!」
「こいつの素早さは通常の食材の2700倍。簡単には切れぬのだ」
通常の食材は逃げませんから。私は心の中でツッコミを入れました。
ガシャン! その時玄関の方で大きな音がしました。
「何だ、今の音は?」
私たちは慌てて入り口に向かいます。
「玄関が閉まっていますね?」
ガチャガチャ。ドンドン! 私たちは扉を押しましたが、開く気配は全くありません。
「よし! ラスボス達を捕まえたぞ!」
建物の外から誰かの声がします。どうやらこの建物は罠だったようです。なるほど、村中の食材を無くしておけば自然と食料庫と書かれたこの建物に入りますよね。見事な作戦です。
「人間どもめ。小癪な真似をしおって。こんなことしても無駄だ。瞬間移動で外に出るぞ」
シーン・・・・。
「どうしたのですか?」
「瞬間移動の魔法が封印されているようだ」
「ええーーー! どうするんですか!?」
私はプチパニックになっています。
「大丈夫だ。こんな建物など私の超砲撃魔法で・・・・」
「ちょっと待ってください」
「なぜ止める?」
「そんな強烈な魔法を建物内で出したら、建物の中にいる私たちが大ダメージを受けます」
「そんなものやってみないとわからんだろう」
「わかります!」
私とナナカさんはミーニャさんを抱きかかえて止めます。
「おい、ラスボス。よく聞け。お前をこの村から強制追放する。行き先は我々にも不明だ。ではさらばだ。二度と来るな」
とんでもない声が聞こえてきました。
「発車10秒前、9、8・・・・」
ちょっと待ってください。何カウントダウンしているのですか?
「0、発射!」
ドカン! ひえー! 建物が飛んでいます。私たちは立っていられずに見事に転びました。ドスン!。どこかに到着しました。果たしてどこなのでしょうか。私たちが痛みをこらえながら立ち上がると玄関が開いていました。落ちたショックで扉が開いたのでしょう。
「えらい目に遭ったな」
ミーニャさんが建物の外に出て言いました。
「ところでここはどこだ?」
随分飛んでいた気がしますので、相当遠くまで来てしまったと思います。できれば目的地に近付いていて欲しいです。
「おー! あそこに見えるのは」
ミーニャさんの声に注目します。どうか目的地でありますように。
「我が魔王城ではないか」
「振り出しに戻ってどうするんですか!!!」
もう一度この旅を最初からしなくてはいけないかと思うと私は思わず座り込んでしまうのでした。




