第54話 起きないミーニャ
随分沖まで来ました。舟を漕いでやって来たと言うよりは流されてきたといった感じでしょうか。陸地が遙か彼方に見えます。もう暗くなってきました。このままでは舟の上で夜を過ごすことになりかねません。先ほどからナナカさんはぐったりとして眠っています。舟を作るのに魔力を使いすぎたと言ってましたので、おそらく疲れているのだと思います。一方ミーニャさんはと言いますとこれまた眠っています。「漕げー」と言ってただけのミーニャさんが疲れるわけないですよね?
私も少し休むことにしましょうか? 今日はとても疲れました。ん? 待ってください。このまま3人が寝てしまったらこの舟は流され放題ですよね。起きたら陸地とはほど遠い場所にいる可能性もあります。更に海の上ですから方角も分からなくなる恐れがあります。これは完全に漂流状態ですよね。陸地が見えている今のうちに戻らなければなりません。
「ナナカさん、ミーニャさん、起きてください」
全く起きる気配がありません。私は二人の体を揺すります。効果はないようです。かなり深い眠りに入ってますね。仕方がないので私一人で舟を漕ぐことにします。
もう30分ほど漕ぎましたが一向に陸地は近づいてきてくれません。むしろ離れているような。もしかして私の漕ぐ力より潮の流れの方が速いのでしょうか? だとしたらかなりのピンチです!
私は再び二人を起こしますが、全く起きる気配がありません。その時、遠くの方に見てはならぬものがいるのを発見してしまいました。
「何でしょう?」
私は目を凝らして観察します。かなりの大きさです。鯨の3倍はあるでしょうか? 形状から言って海のドラゴンです。こちらをじっと見ています。あんな大きなドラゴンに襲われたらひとたまりもありません。ミーニャさんが起きていたら大丈夫そうですが、今は深い眠りに入ってます。
ん? さっきより少し大きくなったような? まさか近づいてきてる?
「ミーニャさん! 起きてください。大変なことになってます!」
これほど寝起きの悪い人物っているのでしょうか? 全く起きません。ドラゴンはどんどんこちらに向かってきています。
とうとうさっきの倍以上の大きさになりました。私は慌ててオールを持って舟を漕ぎ始めました。かつてない回転力で漕いでいます。こんな力があったのかと思えるレベルです。ただ舟はあまり進みませんが。
これはもう一度ミーニャさんを起こすことに挑戦するしかありません。服の襟を持って揺すります。頬をビンタします。髪を引っ張ります。ラスボスにこんなことをしたのは私が史上初めてだと思います。それでもミーニャさんは起きません。
ふと何かの気配を感じ顔を上げるとすぐ横に大きな海のドラゴンがいました。
「キャーーーー!!!」
予想以上に大きいです。これは例えミーニャさんが起きていても負けるレベルだと思います。もうダメですね。観念することにしましょう。
「お困りですか?」
予想に反して爽やかな声が聞こえてきました。
「え?」
「先ほどから沖に流されているようにお見受けしましたが」
「私は美味しくないですよ。この二人は美味しいと思いますけど」
「食べたりはしませんよ」
「本当ですか?」
「はい、私はラスボス様をそっと見守るように命令されているドラゴンですから」
助かりました! これでもう安心です。私たちはドラゴンに引っ張られて陸地に行くことが出来ました。
「ありがとうございました」
「これくらいなんでもありません」
すっかり目を覚ましたミーニャさんがぼそりと言いました。
「リーサ。聞きたいことがある」
「ミーニャさん、起きたのですね」
「私の着衣が乱れておるようだが寝ている間に襲ったか?」
「そんなわけないです!」
あ! 思い当たる節はありますが別に襲ったわけではありませんので黙っていることにします。
「ラスボス様、おはようございます」
「おー、シードラゴンではないか。なぜここにいるのだ?」
「ラスボス様の舟が潮に流されておりましたので岸までお連れいたしました」
「そうか。礼を言うぞ」
「ありがたき幸せに存じます」
「ところで私はなぜこのような淫らな格好になっているのだ? まさかお前じゃないだろうな?」
「滅相もございません」
「ここにいるメンバーで男はお前だけだぞ」
「こちらの女性が何やらやっておりました」
「ちょっとちょっと何言い出すんですか!」
ミーニャさんが私を見ています。
「本当かリーサ」
「いえ、あのう、本当です」
「寝ている私を襲ったと」
「起こしただけです」
「起こしただけでこんなに服装が乱れると言うのだな? どんな起こし方をしたのだ?」
「それは言えません」
正直に言ったら多分消されます。
「お前の気持ちはよく分かった。しっかり責任を取れよ」
「どういう意味ですか!」
またまた泥沼にはまっていく私なのでした。




