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第5話 お忍び

 私は今日も大魔王の椅子に座って一日を過ごしている。はっきり言って退屈だ。

「痛!」

「ラスボス様、どうなさいましたか?」

「なんでもない。気にするな」

「は!」

突然ラスボスらしからぬ声を出してしまった。原因は私が座っている椅子なのだが、ラスボスらしさを出そうと椅子のあちらこちらに太いトゲを付けてしまったのが間違いだった。このトゲに当たると非常に痛い。これは完全に私の設計ミスだな。


「ご報告いたします。ミ・・・・」

「ミ?」

「ラスボス様、大変です」

「何だ?」

「イエローキング様が勇者率いるパーティーと抗戦した際、部下の一人が突き指をしたもようです」

「それで結果は?」

「イエローキング様が完膚なきまでに勇者一行を壊滅させました」

「ん? いつものことではないか? 何が大変なのだ?」

「はい部下の一人が突き指を・・・・」

「それがどうした! いちいちそんなことを報告するな!」

「申し訳ございません」


 全く平和すぎる。ただここに座って下らん報告を聞いてるだけでは美容にも悪い。何とかこの状況を打開できぬものだろうか? そうだ!

「町にお忍びで偵察に行ってくることにする」

「は! 直ちに準備いたします」

「準備?」


 暫くすると先ほどの部下がこれでもかというくらい屈強なモンスターを三体連れて戻ってきた。

「何だこれは?」

「グレイテストドラゴン、スペシャルゴーレム、エルタークにございます」

「そんなことは見ればわかる! なぜこいつらを連れてきたのか聞いておるのだ!」

「ラスボス様の護衛にございます」

「こんなの連れて歩いたらお忍びにならんだろうが!」

「しかし、もしものことがあってはいけませんので・・・・」

「いいか私はこの世界のラスボスだぞ! 簡単にやられるわけがなかろう?」

「それはそうですが・・・・」

「では行ってくる」

「あ、ラスボス様!」


 心配する部下を無視して出かけてはみたが久しぶりの城外だ、見る物全て新鮮に見えてしまう。

「よし、この町でいいか。適当に飛んできたからここがどんな町なのかさっぱりわからん」

私が町の入り口でキョロキョロしていると、右から美人がそして左から普通の女が歩いてきた。私は何の躊躇もなく左から来る女に声をかけた。


「おいそこの女、この町の様子を聞かせてくれ」

「こ、この町の様子ですか?」

何だこのおどおどとした娘は。

「この町の情報が知りたいのだ」

「私はこの町のことをよく知りません。町の情報でしたら酒場へ行くと大体わかりますよ」

「そうか。では案内しろ」

「え? 私は今から行くところがありますので・・・・」

「無礼者!」

「ひぇーごめんなさーい。ご案内いたします」

大丈夫かこいつ。こんな性格でよくこの世界で生きていけるな。


「ここです」

私たちが酒場の中に入った途端、酔っ払った大男が近付いてきた。

「おや、姉ちゃん。戻ってきたのかい? さっきはよくもこの俺様の酒を断ってくれたな。今度は逃がさねえぜ」

「ひぇー」

「何だお前は?」

「これまた偉いべっぴんさんが一緒じゃねえか。俺と一緒に飲もうぜ」

大男が私の手を引っ張ろうとする。

「無礼者!」

私は当然のように大男の手を振り払った。


「おい! 俺様に逆らうのか? この町で一番強いこの俺様に。いいか良く聞け。俺様は剣士レベル45だ。お前なんぞ一捻りだ。わかってるのか?」

「ははは。剣士レベル45? 笑わせるな」

「何だと!」

大男は剣を抜いて振りかぶった。

「ダメです。こんな美しい方を攻撃するなんて」

まさかこのおどおどした娘が両手を広げて私の前に飛び出してこようとは思わなかった。


「そこをどけ! さもないとお前も殺すことになるぞ」

「ダメです。女性に剣を向けるなんて」

「うるせい!」

「キャー!」

大男が刀を持つ手に力を入れると、

「キュピ」

と言う鳴き声と共に黒い何かが鞄から顔を出した。

「な、何だ? お前モンスター使いか!?」

「出てきちゃダメ!」

ん? これはクロシッポ?

「キュピーー!」

「おお! 体が燃えるようだ! た、助けてくれー」

大男は床に転げてもがき苦しみ始めた。


 するとその時、店の前から大きな声が聞こえてきた。

「大変だー! グレイテストドラゴン、スペシャルゴーレム、エルタークがこの町に向かってきてるぞ! 避難しろー!」

「おい、私たちも逃げるぞ! こっちに来い!」

「は、はい」

私は取り敢えずこの娘の手を引っ張って森へと走った。勿論、逃げる必要など全くないのだが、もし、『ラスボス様ご無事で』などと言われたら溜まったものではない。ラスボスの姿などは最後の最後に見るものだ。ラスボスとはそう簡単に知られてはいけない存在なのである。


 森に入ると私はこの娘に声をかけた。

「おい娘。先ほどはよくかばってくれた。礼を言うぞ」

「いえ、夢中でしてしまいました。私なんて何もできないのに」

「だからこそ嬉しいのだ。よくぞやってくれた」

「ありがとうございます」

「ところで、そのバッグに入ってる黒い物だが」


「ラスボス様。ご無事でー?」

「さらばだ娘、また会おうぞ」

私は慌ててその場を離れた。全く後先を考えない部下には困ったものだ。

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