第3話 クロシッポの実力
翌朝、私が目覚めるとすでにお日様がすっかり顔を出していました。どうやら無事に夜を過ごせたようです。一応、端っことは言え村の敷地内に寝ておりましたのでモンスターに襲われる可能性は低かったのですが、これほどの美人が無防備な状態で寝ているのに誰一人として声をかけてくる男性がいないというのはどういうことでしょうか?
あっ! 今『これほどの美人』と言いましたが、これはあくまで私の基準です。もしかして美人の基準が高い方からすると『どこが美人だ?』と評価されるかもしれません。でも美人と言いたかったので言ってみました。
思い出しました。私は慌てて自分の周りをキョロキョロと探します。クロシッポがいました。私が寝ている間に逃げていかなかったようです。もしかして懐いてくれたのでしょうか? 私は思わずクロシッポを持ち上げ頬ずりをします。ペチペチペチ。またシッポの先で往復ビンタを食らいました。まだ懐いていないようです。
さて、朝食にしましょう。しかし15ブロンズだとパン一切れしか買えません。こうなると私に与えられた選択肢は二つです。まず一つは森に生えている自然いっぱいの植物を採集して食べること。そしてもう一つは適当なモンスターを倒して朝食代を稼ぐことです。当然、私は後者を選びます。ここは異世界。何が食べられて何が毒なのかさっぱり見当がつきません。私の知り合いの女性は空腹のあまりそこら辺に生えているキノコを食べて毛むくじゃらになりました。これは女として最悪です。
私は仕方なく森に入りました。そして歩くこと数歩。早速出てきました。ブルースライムにオオモグランにクレイジーバッファローです。このレベルのモンスターなら私でも何とか・・・・。ん? クレイジーバッファロー!? これはまずいです。とても私の勝てる相手ではありません。最も私の実力ではオオモグランの時点で怪しいのですが・・・・。
ではいつものように大声を出して逃げることにします。
「キャー!」
どうしたことでしょう? モンスター達は全く動じません。こうなったら実力で逃げることにします。
・・・・回り込まれてしまいました。これは非常にまずいです。クレイジーバッファローが太い腕を大きく振り上げています。私のHPはわずか250、クレイジーバッファローのパンチ力は300を超えてます。と言うことは250-300で・・・・。もうダメですね。どうすることもできません。私は覚悟を決めてゆっくりと目を閉じました。思い残すことは山ほど有りますが・・・・。
「キュピピー!」
突然クロシッポが大きな鳴き声を上げたかと思いましたら、空が真っ黒な雲に覆われ強烈な雷がモンスター達目掛けて落ちました。どういうことでしょう? 三匹のモンスターが目の前で倒れているではありませんか。あの強いクレイジーバッファローも倒れています。
「ええっと-」
「キュピ」
どうやらクロシッポが最弱モンスターという噂は間違っていたようです。腰を抜かして座り込んでいる私にクロシッポが甘えてきました。もう二度とクロシッポを倒して宿代を稼ごうなどとは考えないことにします。本当にごめんなさい。
今日の朝食は豪華になりそうです。何しろクレイジーバッファローを倒したのですから。私にしてはかなりの大金を手にすることができました。好きな物を食べ放題です。ただ大きな問題が・・・・。この子を連れてお店に入ることはできません。仕方ないので最後の手段に出ることにします。
「ねえ、クロシッポちゃん。私の首に巻き付いてくれる?」
「キュピ」
レストランに入ろうとすると私より少しだけ美人の店員さんが声をかけてくれました。
「いらっしゃいませ」
私はすました顔で店に入っていきます。
「何になさいますか?」
「モーニングを一つ」
本当はコース料理が食べられるくらいのお金を手に入れたのですが、貧乏生活が身についた私にはそのような豪華な料理を注文する勇気はありません。それにしても格安でお得感満載の料理を注文してしまうとは。私の貧乏も筋金入りですね?
「ところでその首に巻いている黒い毛の塊は何でしょうか?」
「勿論マフラーですわ。それがどうかいたしまして?」
「今は夏ですけど」
「私は極度の寒がりなんです」
とは言ったもののとても暑いです。クロシッポも暑いのか首から離れようとしています。マフラーがクロシッポであることがばれたら朝食が食べられなくなってしまいます。私は必死で暑さに耐えながら朝食を急いで食べ終えると慌てて店から出ました。何だか食い逃げをしている気分です。
鞄屋さんの前を通り過ぎようとしたとき、クロシッポが激しく鳴き出しました。どうしたのでしょうか?
そうか、わかりました! よく考えたらお店や宿屋に入る時は大きめの鞄にクロシッポを入れておけばいいのですね。鞄の横に付けるのもありです。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのでしょう。どこか抜けている私です。
早速、このお店で大きめの鞄を買うことにしましょう。
「キャー! モンスターを店に持ち込まないでください!」
やはり、どこか抜けてる私なのでした。




