最辺境㉗
「ん……」
視界に光を感じて、意識が浮上する。ゆっくりと瞼をあげて目を開くと、そこには見知らぬ天井があった。
「えっと……」
なんでこんな所で寝てるんだっけ? とぼんやりと考えているうちに、右の腕に何か柔らかい感触がある事に気づく。顔をそちらにむければ、俺に体をすりよせるようにしてリズがすやすやと眠っていた。
あれ、なんだろうこの状況。寝る前はどうしてたっけと記憶を漁ってみると、割とすぐに思い出すことはできた。そうだ、俺は瘴気獣と戦って、力を使い果たしてぶっ倒れたんだった。
とりあえずは起きていろいろ確認するかと、横に寝ているリズを起こさないようにして体を起こす……起こそうとしたんだが、少しだけ体を起こしたところで腕から力が抜けベッドにボフンと戻る事になってしまう。
「……お姉様? お目覚めになったんですね!」
その振動で目が覚めてしまったのだろう。俺の横で体を起こしたリズが、こちらの顔を覗き込んでくる。
「ああ、うん。えっと、ここは?」
「ここは辺境近くの街の宿ですわ。今は我々で借り上げておりますけども。お姉様、倒れて丸一日眠ってられましたの」
「丸一日……」
そんなに眠っていたのか。
「えっと、どうやってここまで?」
「アリステラ様が背負ってくださったらしいですわ。わたくしも倒れていたので聞いた話ですが……」
「倒れてた!? リズは大丈夫なの!?」
「大丈夫です、倒れた理由はお姉様と一緒ですので。消火のために力を使いつくしてしまいまして」
「……火災は止められたの?」
「ええ、詳しくお話ししますのでお姉様はそのまま横になっていてくださいませ。あ、その前にお水飲みましょうか」
その後リズに聞いた話では、あの後リズと俺達の元にそれぞれ援軍が現れたらしい。彼らは王都から派遣された俺達を保護するための部隊で、巨大瘴気獣の出現と森林火災に気づいて大急ぎで駆けつけてくれたそうだ。多分こっちに現れた鎖の……グーナーさんだっけ? もその一人だろう。瘴気獣に対して有効な攻撃を持っていた時点で、俺やアリステラさんと同種の人間だろうしな。
で、俺達は無事保護されて彼らの手によってひとまず最寄りの街まで運ばれ、俺とリズの回復を待ってもらっていたという事だ。
ちなみにリズは半日程度で目を覚ましたらしい。
「えっと、それじゃあこの後すぐに出発する形?」
「いえ、お姉様はまだ体がおつらいですよね?」
「つらいというか……まぁ力が入らない」
「わたくしもお姉様程ではないですが、まだあまり力が入りません。この先それなりに長い距離の移動になりますので、ちゃんと回復してからにしましょう。多分ですけど2~3日で回復するとは思いますしね。それにこちらに来ている騎士達がその間の時間を使ってちょっと済ませておきたいことがあるそうで」
「済ませておきたいこと?」
「教団の人員の捕縛ですね。一応今回やってきている騎士はお姉様やユマさんの護衛が任務ですから離れることはありませんけれど、彼らは階級が上ですから辺境に配属されている騎士達に指示ができますので現地戦力を動かして捕縛にあたっています。今回アリステラ様に対する妨害だけではなく森に火まで放ったのです。放置するわけにはいきません」
「確かに……じゃあその間は気にせず休ませてもらってていいのかな?」
「ええ、ゆっくり休んでください。とりあえずお姉様、お腹すいてないですか? 頼んできましょうか」
「うん……あ、でもリズは大丈夫なの?」
「わたくしは歩くくらいなら大丈夫ですわ。それとユマさんやノインさんにもお姉様が起きたこと、伝えてきますね」
そう告げてリズはベッドから身を起こすと部屋から出て行った。それを見送ってから、俺は顔を横に向けて窓の外を見る。
窓の外には澄み渡った青空が広がっている。その景色がまるで自身の心の中に広がるような感覚に、俺はゆっくりと浸かる事にした。




