最辺境㉔
飛来した黒い弾丸は銃のように目で追えないほどではないが、かなりの速度でこちらに飛んでくる。正直この速度だと射出するところが見えていても回避ができているか怪しいところだ。だが、
「ふっ」
息を吐く音と共に、アリステラさんの前に浮遊していた剣が動き、飛来した黒い弾丸を薙ぎ払ってかき消した。すごい、10数発あったはずなのにその全部を見事にかき消している。
勿論、瘴気獣の攻撃はそれでは止まらない。続けて弾丸が放たれてくるが、それらも漏らすことなくアリステラさんがかき消していく。……こちらに向けてどんどん弾丸が放たれるのは怖いけど、アリステラさんを信頼して言われた通り俺は力の制御に専念する。
「チッ」
と、アリステラさんが小さく舌打ちをした。同時に、宙を舞って黒い弾丸を打ち消していた剣の内数本を地面に叩きつけるように振るった。そちらに黒い弾丸は見えなかったし、あったとしてもこちらに当たる軌道ではない。何故、と思ったがその理由が分かった。
彼女が剣を振るったその場所で、黒い触手がビクンビクンと震えながらゆっくりと消失していっている。どうやら奴は別の攻撃手段を持ち出してきたらしい。地を這ってこちらに忍び寄っていた数本の触手はアリステラさんに気づかれたためか宙へと浮き上がったが、襲い掛かるより早くアリステラさんに刻まれて行く。
……これ、アリステラさんのガードがなかったら無謀すぎる挑戦だったな。
そんな間にも俺の生み出したタイテンによって身を削られて行く瘴気獣は焦っているのだろうか、今度は目に見える新たな攻撃方法を使用する。
「……別の瘴気獣を生み出すだと!?」
アリステラさんの声に驚きが混じる。
次に瘴気獣が放ったのは、数匹の小さな狼のような獣だった。巨大瘴気獣の中から浮かび上がる様に出現した狼たちは触手や弾丸と同時に、地を駆けこちらへ襲い掛かってくる。
が、手を変えたところで意味はなかった。獣達は直線的ではなくそれぞれ別方向からこちらへ向かってくるが、触手や弾丸同様アリステラさんの剣に刻まれて消失していく。本当に、本当に、強い。
だが一点だけ問題が起きた。
産み出された獣の内1匹が、こちらに向かってこずに別方向へ駆けだしたのだ。その様子にアリステラさんが一瞬顔を歪めたように見えた──そちらには剣を飛ばさない。射程外なのか、こちらを護るだけで手いっぱいなのか……というか、不味い、あっちはリズ達が消火の為に向かった方角だ!
そう思った瞬間、すぐ横で何かの発射音と風を切る音がした。そしてわずかな時間の後、何かが甲高い音を立てて割れる音。それは、こちらとは別方向へ駆けていこうとしていた獣の方からした。
視線を向ければ、そこには黒い煙のようなものを上げながら地面で悶える獣の姿があった。そして、
「あらぁ。思った以上に効いたわねぇ」
すぐ横から、聴きなれた声で少し気の抜けた言葉が発せられる。
声の主は、ユマだった。彼女はクロスボウを構えて、そこに立っていた。
このクロスボウは彼女の愛用の装備の一つだった。射程距離を上げた特注品だが、特殊なのは放つ矢の方だった。その先には矢じりではなく専用の瓶をセットできるようになっており、そこにポーションの入った瓶をセットして放てるようになっているのだ。要するにこの武器を使っているということは、彼女はポーションを奴にぶつけたという事だけど、
「……今のは一体?」
「スールから作り出したポーションよ。瘴気に対して効果があるから効くんじゃないかと思って撃ってみたけど……想像以上ね」
「恐らく自然生成された瘴気獣よりは存在が希薄なのがあるだろうが……それでも非常に強力な効果だな……残弾はあるか?」
「あと9本ほど」
「……やれる範囲でいい、私が撃ち漏らしたのを頼めるか」
「了解」
アリステラさんの言葉にユマは頷き、立ち位置を少し離れた場所に変更する。恐らく出来るだけ別方向に向かう瘴気獣を狙いやすく、その上でアリステラさんのガードの範囲内の場所なのだろう。ユマは戦場をよく見ていた。
……うん、大丈夫。アリステラさんもユマさんも頼もしい、信頼できる仲間だ。
余計な事は考えない。瘴気獣を束縛するタイテンに力を流し込むことだけに集中する。
くたばれ、瘴気獣め。




